おかしいのかな?
「宰子ちゃん、何がどうなってこうなったんだ?」
「父さんが何か買って来てくれって言ったから、近くのスーパーまで買い出しに行こうと思ったけど、偶々通りかかった女将さんに『若い裡の苦労は買ってでもしろと言いますし、私がどうにかしますよ』って言われた」
そこで俺は旅館の女将である荏原さんをみやった。
彼女は宰子ちゃんと一緒に買ったであろう食材をひっさげて、裾をまくる。
「お口に合うかどうか分かりませんが、私が料理しますよ三浦さん」
「そ、それはどうも」
「私も料理は簡単なものしか出来ないから、丁度いいよね」
宰子ちゃんはそう言うと、テレビのリモコンを取って甲子園を観始めた。
彼女は意外なことに甲子園が好きらしい。
何でも毎年のように甲子園を観賞するのが家の習慣だったようだ。
「今年は私と、
「へぇー、何て言う学校ですか?」
「
「私知ってるかも、最近強くなったって有名だよね」
「そうですそうです」
宰子ちゃんは女将さんと甲子園の話で盛り上がっている。
が一方の俺は野球のルールを把握しているぐらいで、野球センスはない。
幼い頃友達と行ったバッティングセンターでは空振りが当たり前だった。
俺のバッティング歴を聞いた二人は淡泊に嘲笑する。
そんな時だった、誰かが物凄い勢いでこの部屋に駆けつけたのは。
「タカコ!! バカかテメエ止めろ!」
「っ!? 急に何ですか、伍堂さん」
「タカコが料理すっといっつも悲惨な目になっただろ、いい加減学べよ!」
伍堂アラタ、駄菓子屋の店員で、聞いた話によると商業作家でもある。
彼は来訪するなり女将さんの料理を揶揄し、俺達は危うく命を救われたようだ。
「料理するなら俺がしてやっから、お前は向こう行ってろ」
「……そんな言い方はないんじゃない?」
「何がだよ、俺は本当のこと言ってるまでだろ」
本当のことを言っても、それは他人を傷つける理由にはならない。
と俺は思うけど、だったら俺も本当のこと言わないべきなのか?
正直な話、二人の口喧嘩は俺たちにとって心臓に悪いのだが。
でも、この二人の雰囲気はまるで――かつての俺とウミンのように映っていた。
互いに言いたいこと、言えないような世の中じゃポイズンだよな。
「止めないの父さん?」
「見て見ぬふりしよう、もしも居辛かったらお風呂でも入って来な」
「私は静かに甲子園観たいだけだから」
そう言えば、若子ちゃんは今日も外食か?
宰子ちゃんに聞いたが、中学校の開放プールでよくしてくれる人がいるらしい。
「宰子ちゃん、若子ちゃんは毎日プールで何してるんだ?」
「泳いでるんじゃない?」
「彼女は泳ぐのが好きなのか?」
好奇心旺盛な年頃とは言え、興味のベクトルがよくよく二転三転するな。
それは一作家として強力な武器になるのだろうか、果たして。
「ほら、俺の手料理を堪能してくれよ。無能才人先生」
伍堂アラタはそう言い、黄金色したチャーハンと、レタスとツナとプチトマトのサラダ各種をテーブルに並べる。何でもレタスと言った野菜類はこの村の農作で獲れたもので、新鮮なまま食べるのが一番美味しいらしい。
「伍堂さん、ありがとう。貴方はもう帰ったら?」
折角手料理をご馳走してくれる伍堂アラタを、荏原さんは邪見にしていた。
先程の口喧嘩があったからとはいえ、妙に微笑ましい光景だと思えた。
そう思ってしまった俺の神経はおかしいのかな?
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