第4話 商品

「3品まで無料って事で良かったのよね?」

「えぇまぁ」


アルシアさんは目を輝かせながら僕に問いかける。確かにコンビニで3品無料は結構嬉しいもんな。


「じゃあ、この紅茶もいいわけ?」

「なんでもどうぞ。良ければ他の物も説明しますね」

「お願いするわ」


僕はアルシアさんを連れて店内を回る。


「ひとつ聞きたいんだけど?」

「どうしました?」


アルシアさんはペットボトルの紅茶とパンを持つ。


「この透明なのって何?ガラスには思えないけど」

「あぁ、ポリ袋とペットボトルですよ」


原料樹脂っていっても通じるのかな?


「まぁ、人体に害のない比較的安価で便利な袋と容器です」

「確かに硝子だと高価よね」


そういう問題じゃないけどな。


「それで、何日もつの?2日くらい?」

「パンは持って1週間ですが、飲み物類は何ヶ月かは持ちますよ?」

「え?」


当然だろ。この世界の文明レベルの保存方法と一緒にされても困るんだよね。


「ちなみにいくらなの?」


ここの世界は日本語が読めないようで、アルシアさんは値段を聞いてきた。確か『両替』機能でみた時は、鉄貨1枚10円、銅貨1枚で100円だったはずだ。そして『仕入れ』の値段が売値だから倍にして


「銅貨2枚と鉄貨8枚ってところですかね?」


280円って所かな?うわ、高くない?


「え?」


アルシアさんが驚いてる。確かに煎れた紅茶と味が違うだろうから300円近くは取りすぎかな?


「初心者冒険者が全く危険のない薬草採取をしても最低でも銀貨1枚は貰えるのよ?」

「高いって事?」

「逆よ!」


アルシアさんにあのねぇとため息をつかれた。仕方ねぇじゃん。この世界の相場なんか知るか。


「私でもたまに飲む程度の紅茶を初心者冒険者の小遣い稼ぎで呑めたら堪らないわよ」

「でも、品質とかは結構違いますし」

「確かに甘めだったけど、私はその方が好きよ」


さよけ。別に安いと思われる分にはいい事だけどね。


「しかもこのナントカトルっていうの、色々使えそうよね」

「まぁ、多少の事じゃ壊れませんね。凹んでも戻りますし」


僕はペットボトルを潰して、器用に戻す。


「凄い便利ね。これ欲しいわ」

「いいんですか?」

「え?」


アルシアさんが冷蔵庫から紅茶を取ろうとした所で、僕は一旦止める。


「確かに紅茶も美味しいですし、この国では価値も高いのかも知れません。でも他にも美味しい飲み物はありますよ?」

「確かに沢山種類があるわね」


アルシアさんは少し目を輝かせながら、冷蔵庫を見ている。


「そうですね。他にも説明しますので、気になった物を2品だけお試ししても良いですよ?」

「いいの?」


明らかにアルシアさんの心が揺れ動いたのが分かった。


「どうしてそこまでしてくれるの?」

「単純ですよ」


あなたが美人だからお近付きになりたいんです。

まぁ、言わないけど。


「是非とも沢山の人にいい店だって広めて欲しいんですよ」

「へぇ、分かったわ。広めとく」


という事で次を説明しよう。


「ところで、これって白パンよね?」


アルシアさんはポリ袋の下りの時に持っていた食パンを見せてくる。


「ああ、この国の一般的なパンって黒パンですか?」

「そうよ?白パンなんて貴族くらい...まさか!これいくらなの!?」


勘づいたようだね。そうさ、黒パンとかいう硬くて酸味のあるパンを主流にしている、この世界の文明レベルではありえない値段設定だと思うぜ。


「銅貨3枚ですね」

「.....」


黙っちゃった。仕入れ値は150円の食パンを倍で売ってる暴利なんだけどな。


「もういいわ他にもお願い」


という事で他にも色々説明した。商品以外にも、冷蔵庫で驚かれ、ホットショーケースで感心され、ホットスナックを賞賛し、スナック菓子にもスイーツにも化粧品にも、ひたすら驚愕していた。


「凄いわね。今度も絶対来るから。大量に買いに来るわね」

「お待ちしております」


アルシアさんはホクホク顔で両手に持ちきれないレベルのパンパンに詰まったビニール袋を持っていた。


「あ、そういえば」


アルシアさんは急にくるりと振り返る。


「この値札とかこっちの国の文字に訳した方が楽だと思うけど?」

「でも自分訳せませんよ?」


訳せるなら訳してるっていう。


「そのくらいなら教えてあげるわよ?色々貰っちゃったし」


アルシアさんがふと笑顔になった。初めてかもしれない。


という事でアルシア先生のレッスンが始まった。そして半分くらいの値札がこの国の文字になったところで来客。


「いらっしゃいませー」

「アルシア何してるの?」


アルシアさんの知り合いのようだ。

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