コーヒー・アンド・ストッキング7
スマートフォンのアラームを放置して二十分が経過していた。
手探りでアラームを止める。それからさらに五分ほどして、間延びした唸り声を上げながらのそのそと起き上がる。
昨日と同じ一日の始まりだ。
身体がカフェインを欲している。コンビニに行かなければ。
部屋着から私服に着替える。洗面台で顔を洗う。ワックスで金髪を整える。
リビングで朝っぱらからテレビを見ている両親がかわいそうに思えた。社会の奴隷の休日はあまりにも退屈そうだった。
今日は少し涼しかった。夏がほんの少し遠のいた。心なしか、蝉の声がか弱く聞こえた。
休日のコンビニはやけに賑わっていた。店内は混雑しており、缶コーヒーを手に入れてレジに並ぶのも一苦労だった。
例のOLはいない。昨日は偶然が三度続いたのであり、彼女はいつもコンビニにいるわけではない。
昨日と違う一日。あのOLと出くわさないことが異常なことのように思えた。ストッキングをこよなく愛する彼女は、凜の中で特別な存在になっていた。たった一日で彼女は記憶として脳内に焼きついた。
ビニール袋にフライドチキンを追加し、帰宅する。なんだか釈然としない。何かが違う。
多分、俺はあのOLに特別な感情を抱いている。だが、それは恋愛感情ではない。どちらかといえば、女は苦手だ。なんと言えばいいのだろう、同類と出会った時の安心感のような……なんとも言えない不思議な感情だ。俺は彼女の中に孤独を見出した。きっと彼女は俺と同じ人間だ。はっきりした相違点は、社会の中にいるか否かだ。
あのOLに会いたくなった。彼女がストッキングを買っていく姿を拝みたくなった。
我ながら変態的な欲求だと思った。
椅子に座り、缶コーヒーのプルタブを開封する。
しかし、何故か生きている心地がしなかった。
おかしい。何かがいつもと違う。ブラックのコーヒーは、相変わらず目が覚めるくらいまずい。
「今夜も、缶コーヒーを買いに行こう」
もしかしたら、ストッキングを買いに来たOLと出会えるかもしれない。いや、彼女は確実にコンビニにいる。
凜は何気なくキーボードをたたいた。ノートパソコンのディスプレイには、「ストッキング」という文字列が表示されていた。
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