第29話(対決)
コルベットから降りてきたのは、30代後半の男だった。ゼノを見ると、何故か近付いてくる。
「お前、セーブザウォーで俺を人殺し呼ばわりした奴だな? アバターとそっくりだ」
「もう一度聞く、キラーティー。人を殺した事はあるか? 幼い女児だ」
「ドリフトで俺を千切ったら教えてやるよ。ロングコースだ」
「俺が行く」
淳史が志願するが、スタンに止められる。圧倒的実力差があるからだ。ここはGTRを手足のように操れる、ゼノの出番だ。ゼノには秘策があった。
「アッツ、気持ちは分かるが俺に任せろ」
「分かったよ」
ーーゼノとキラーティーの一騎討ちが始まった。淳史とスタンはFD3Sで後方からギャラリーとなる。
南木曽峠のロングコースはショートコースの5連コーナーを更に下り、大小、計20コーナーほどになる。橋を渡った直線がスタート位置だ。
ゼノのGTRを先頭に、コルベット、FD3Sと一列に並ぶ。
ゼノがパッシングとクラクションをする。スタートの合図だ。GTRとコルベットが同時に加速する。ワンテンポ遅れてFD3Sが発進した。
まずは第1コーナー。ゼノはクラッチ蹴りをしてリアを流す。キラーティーもクラッチを蹴ってリアを流す。コルベットのパワーに任せ、ファットタイヤでトラクションを稼ぎ、ゼノのGTRに迫る。しかし! ゼノのGTRは、コーナー出口で急加速する。
「スタン! ゼノとキラーティー、どっちが有利だ!?」
「コルベットのが速いけど…………。ゼノ君、もしかしてGTRを四駆に戻して滑ってるのかも」
ぐんぐんとGTRとコルベットの差が開いていく。5連コーナーに差し掛かる頃には、30メートルほどの距離を空けた。ゼノはキラーティーを完全に千切った。
ゼノは手を抜かず、5連コーナーも滑り切った。ゼノの勝利だ。3台は駐車スペースにマシンを停める。
ゼノはキラーティーを問い詰める。
「凜を殺したな?」
「何の事だか」
「約束を守れ」
「だから! 身に覚えがないんだよ。人を殺したとか女児だとか」
「じゃあ、何故、ドリフト勝負をした?」
「戯れに理由が必要か? たまには遊ばないとね」
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