SS②:ぼっちとギャルが交差するとき、物語は始まる

 学校帰り、駅前のドラッグストアにて。


 ノンストップでメンズコーナーに足を踏み入れ、ノータイムでお目当ての品、詰め替え用の洗顔料と化粧水をGET。後はレジに行くだけ。


 自分でも呆気ない買い物だと思う。しかし、然程興味のない買い物など、こんなもんだ。


 もし、美容に興味のあるイケてるメンズならば、店内を小躍りしつつ、ありとあらゆる化粧品を物色するのだろう。美にストイック過ぎて、化粧水の炭酸割とかを飲むのだろう。


 しかし、手持ちの顔面はコレだけ。

 何も悲観的なことばかりではない。身分相応の顔面だからこそ、低価格帯のメンズ商品で事足りるのだから。ポジティブシンキングここにありけり。


 財布に優しい顔面、いざレジへ。


「あれ? 姫宮じゃん」

「ども。それじゃ」

「直ぐに逃げようとするな……!」


 そんな自分をモンスター扱いせんでも。


 ドラクエ的には、

 洞ヶ瀬夢乃うろがせゆめのがあらわれた!


 ポケモン的には、

 あ! やせいの洞ヶ瀬夢乃がとびだしてきた!


 コナン君的には、

 見た目はギャル、中身は子煩悩、その名は洞ヶ瀬夢乃!!!


 といったところか。


 性格の良いギャルだからといって、放課後にエンカウントしたいわけではない。

 洞ヶ瀬にジト目を向けられてしまう。


「何よその、面倒な奴に話しかけられたみたいな顔は」

「気にするな。放課後にクラスメイトと会ったときは、大抵こんな顔だ」

「今から小一時間、世間話したろか」


 何とも残酷な事を思い付くものだ。

 雑な会話のキャッチボールを終えれば、洞ヶ瀬は「何買うの?」と、俺が手に持つ商品を覗いてくる。


「洗顔料と化粧水? へー、エラいじゃん。ちゃんとケアしてるんだ」

「エチケット程度にはな」


 洞ヶ瀬がクスクスと小さく笑い始める。

「お前の顔面、石鹸と水道水で十分すぎワロタ」とでも思っているのだろうか。

 というわけではなく、


「洗顔が泡タイプで、化粧水がオールインワンタイプってのがアンタらしいわ」

「? どこらへんが俺らしいんだよ?」

「最低限のケアを、最小限の労力で済まそうとしてる感じが」

「……。ほっとけ」

「アハハッ! 図星なんだ~♪」


 クスクスというより、もはやケラケラ。

 コイツもどこぞの仲良し3人組同様、俺の思考や行動パターンを理解しつつある。

 姫宮検定があるとすれば、洞ヶ瀬は4級くらいかな。


 そんな洞ヶ瀬は何を考えているのだろうか。

 俺の顔へと手を伸ばしてきた?


 一瞬、眼球をくり抜かれるかもと身構えてしまうが、それは無駄な心配。

 洞ヶ瀬の手が辿りつく先は、俺の頬だったから。


「……おい」

「んー……、ちょい乾燥肌っぽい?」 


 洞ヶ瀬の細く手入れされた指が、俺の頬を行ったり来たり。装着したネイルで肌を傷付けないように、指の腹で優しくなぞってくるのが好ポイント。

 恥ずかしいし、くすぐったいんですけど。


 人の気持ちなど知る由もない洞ヶ瀬が、俺の手から化粧水を回収。

 そして、「乾燥肌なんだからコッチにしときな」と、商品棚から違う化粧水を俺に手渡してくる。その商品は、さっきまで手に持っていた化粧水の、しっとりタイプ。


「同じブランドで同じ値段だし、別にいいっしょ?」

「ほあ」

「その反応はどっちなのよ……」

「いや……。シンプルにありがたいなぁと」


 正直、自分の肌質なんて気にしたことがなかったもので。

 やはり、カースト上位のJKともなれば、男モノの化粧用品もお手の物なんだな。


 肌が突っ張る→突っ張り→力士→もち肌

 そんな考えに至るくらい、美容に無頓着な俺とは比べ物にならん。


 しばらくお世話になる化粧水をまじまじ観察し終え、洞ヶ瀬へと視線を戻す。

 さすれば、えくぼができるくらいニコニコな笑顔で問われてしまう。


「ウチも役に立つっしょ?」

「そう、だな。こういうアドバイスはすごく助かる」

「素直でよろしい♪」


 ニッ、と白い歯見せてくる洞ヶ瀬は、素直に可愛いと思う。

 この時までは。


「今度は姫宮の番ね」

「……あ?」

「ウチ、マニキュアとかボディスプレー、他にもリップとか色々ケア用品買いにきたの。だから、今度は姫宮がウチのために選んでよ」

「……」


 選んだから選ばせてやる的な? サッカー試合後のユニフォーム交換的な?

 俺が選ぶ量、多過ぎじゃね?


「それじゃ──、」

「それじゃあレディースコーナー行こっか」


 さすが洞ヶ瀬。俺がレジへ向かおうとするのを察知して、俺の腕をがっつりホールディング。おめでとう、貴方は姫宮検定3級に昇格です。


「まずはボディスプレーから選んでもらおっかな。姫宮が好きな香りでオッケー」

「好きな香り、か……。俺はコーヒーの匂いが一番好きだな」

「そんなにコーヒーが恋しいなら、買い物終わりカフェも行こっか♪」

「……」


 これ以上、余計なことを喋ってしまえば、一生家に帰れない気がする。

 というか、昨今の女子高生、匂い気にし過ぎじゃね?


 買い物後、カフェで小一時間、世間話を聞かされたのは言うまでもない。

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