第12話 なんだ僕はって



 学校に着き席につくといつものように智也が声をかけてきた。


「おはよう、なんか顔色悪いな。どうした? 」


「智也……僕って薄情なのかな? 」


 僕がそう呟くと智也は俺のおでこを触りながら


「熱はないな? どうした? 急にそんな事言いだして」


 とすこし困惑しながらも心配してくれていた。


「うーん。今話すのはなんだから昼休みにでも聞いてやるから。もう少し我慢しろ」


 心配しながらも智也は僕にそう言うと「また後で」と言い残し席へと戻っていった。




 まあ、朝からそんな状態の僕ではまったく勉強に身が入ることもない。おかげで時間だけが過ぎていき昼休みへとあっという間になってしまった。


 昼休みになると智也は教室で話すのも何だからと俺を誘い、弁当を持ってふたり屋上へとやって来た。


「まあ弁当食べながら聞こうか。どうした? 」


 そう言ってくれる智也に思っていることを素直に話すことにした。


「先週、智也といる時に一目惚れの彼女と彼氏に電車で会ったよね。その時さ、彼女が僕を避けながらも気にしていることを知って安堵したと言うか嬉しかったと言うか。それなのに今日彼女を電車で見かけたときさ。なんとも思わなかったんだよね。いや逆に会いたいとも思わなかった。こんなに急に心が変わるなんて……って思ってさ」


 僕の言葉を聞いて智也は黙って考え込んだ。


「うーん。振られて避けられてりゃ嫌悪感も湧くかもしれないと思うよ? たださ。なんかきっかけなかったか? なにもなく優がこうもかわるって珍しいなって」


 と智也が僕に尋ねてきた。だから僕は


「きっかけかどうかはわからないけど、昨日、マドと会ってたんだよね」


 と言うと


「かっまさかのデートかい! 」


 智也がそんな事を言いだしたので


「いやいや、一目惚れの彼女と彼を見たことで落ちこんでないか心配してくれて気晴らしに誘ってくれただけだって」


 と俺は誤魔化すように言った。すると智也は


「悪い、茶化すつもりはなかったんだが本音が出たわ」


 とちょっと笑いながらそう言った。智也の笑いが収まると僕はまた話し出した。


「それで出掛けた時にマドには気になる人がいるって話になって。それだったらさ別の男と、僕のことになるけど一緒に居たら気になる人も嫌だろうって思ってマドから離れないと行けないねって言っちゃった」


「あのふたりの影響かねぇ。そんなこと考えるのも」


「マドもそうかもって言ってたね」


 と僕はマドも言ってたことだからと同意した。


「それとね」


「ってまだあんのか? 」


 と智也は驚いたように言ってきた。


「うん、マドが僕のことを心配してくれて早めに帰宅することになったんだけど、その時にあの彼氏が現れてね。マドの知り合いだったんだよ。そこでマドを口説きだしてね……おかげでなにしてんだってすごく混乱してしまって」


「ぷっ彼女いるのにマドさんを口説いたってか? 何考えてんの? 」


「だよね? まあそういう事があって昨日は混乱しまくったよ。そして今日朝の電車で彼女を見かけたらそんな気持ちだったってわけ」


 と僕はそう言って話を終えた。


「簡単に話したけど優? 濃い1日を送ったな」


 智也はその話を聞いてそう思ったらしい。うん、確かに気持ち的にすごく濃い1日だったな。


「で、結局その混乱は収まったのかい? 」


「うん、結局ふたりへの嫌悪感と……いやそうじゃないな。嫌悪する相手がマドに絡んだこと、そんな相手に奪われるかもという不安感だったってことかな? 」


「ん? 結局のところふたりがどうこうじゃなく混乱の原因はマドさんのことだったってことか? 」


「うん、そうみたい。だからそれが理解できた時笑うしかなかった。なんだ僕はって思ったよ」


 僕はそう言って苦笑した。




 しばらくして智也が再び口を開く。


「なんだ。薄情とかそういう話じゃないな。気持ち変わっても仕方ないじゃないか。だって優? それってお前がマドさんのことが好きになってるからじゃんか。だから一目惚れの彼女にも興味が無くなってんだよ。そりゃ仕方ないわ」


 と智也はそう言った後


「なんだと思ったら……心配して損したよ。まあ振られたことから抜け出せたなら良かったんじゃね? 昨日の濃い1日は勉強だったってことだな」


 と笑いながら僕の頭をぽんっと叩いてきたのだった。

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