電車が紡ぐ僕の恋愛

ここです。

第00話 電車の君は遠くへ行った



 僕、山下 優やました まさるは毎朝同じ時間の同じ電車車両に乗り通学している。ズレてはいけない。そうすれば彼女を見ることは出来ないから。


 そう僕が恋する彼女を見たいがためだけに……


 僕が高校3年になって初めて彼女は僕の目の前に現れた。この時間この車両に。制服から見ると彼女は僕の学校の数駅前にある成績の高い女子校生徒のようでひとり電車へと乗ってきた。

 初めて見かけた名前も知らないそんな彼女にも関わらず僕は見た瞬間恋に落ちてしまったみたいで。彼女が降りるまで僕は目が離せなくなっていた。

 彼女が降りた後、僕はぼーっとしてしまっていた。とりあえず僕の学校はまだ数駅先にあったのでそれまでには正気に戻ることが出来たのだが……

 そんな時間を過ごしてしまった僕はもう忘れられなくなっていた。


 また見たいまた会いたいと。


 今までは別に時間や車両なんて気にしていなかった僕だけど次の日は彼女が現れるかを確認するため同じ時間の同じ電車車両に乗ってみることにした。

 すると彼女は翌日以降も同じ時間の同じ車両に乗ってきた。彼女は後から乗ってきて先に降りるため、たった10分程の出来事だけどそれでも彼女を見て会えることがが僕にとって一番の幸せになっていくのだった。


 最初は見るだけで会えるだけで良いと思っていた僕の気持ちも次第に話したいに変わっていく。ほんと贅沢になっていくもんだと自嘲してしまう。でも声をいきなり掛けるなんて僕には出来るわけもなく……今までどおり彼女を眺めているだけで我慢をしていた。

 でもきっかけは突然訪れるもの。ある日のこと、なかなか彼女が現れないと駅側を見ていると寝過ごしたのか慌てて走ってくる彼女がいたわけで。間に合わないと思った僕はドアの間に体を入れると安全装置が働いたのか扉が再度開いていく。


「早く走って」


 僕は彼女にそう声をかける。声が聞こえた彼女は慌てて電車に飛び乗ったのだった。


「ありがとうございます。助かりました」


 そう彼女はお礼を言ってくれた。


「ううん、君のことよく見かけていたからなんとなく助けたくなってね。だから気にしなくていいよ」


 と眼鏡をくいっと指で持ち上げながら僕は答えた。

 

 それがきっかけとなり、朝会えば挨拶を交わす程度の関係にはなることが出来た。そして今までは離れて見ていることしか出来なかったけれど近くにいることもできるようになった。

 この前の出来事の時に名前を聞くことが出来なくて後悔していた僕。だからそのうち名前を聞きたいなと思っていた僕だけど、その後に僕に聞くことをいや彼女のことを諦めさせるそんな出来事が起こるのであった。




 ある日、彼女はある男と一緒に電車に乗ってきたのだ。その制服を見れば彼女が通う学校の近くにある男子校の生徒のようだった。

 話してみれば彼女からはっきりと「私の彼氏です」と告げられてしまった。まあ見た目かっこよくて……そりゃ俺なんかより良いよなあと落ち込むことばかり考えてしまう。


 そこからはあまり覚えていない。普段は立って乗っている僕だけれど、流石に座席に座り込み眼鏡をかけている事も忘れたように顔を抑えふさぎ込んでしまうのだった。

 


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