涙を許してくれた人

上高地 日時

第1話少し変わった一日

「姉ちゃん体調はどう?」

制服姿の千隼がそう言いながら病室のドアを開けた。千隼は毎日学校帰りにこうして病室に来てくれる。

「千隼、毎日来なくてもいいよ?大変でしょ。」

「別に。俺、姉ちゃんの事、好きだし。」

はあ。いっつもこう言ってくれるのはうれしいけど、高1の千隼が部活にも入らず、学校一の美女に告白されても「俺、姉ちゃんの見舞いくから。」と断っているのはかなり心配だ。まあ、こんなに優しくしてくれる理由はだいたいわかってる。

「血が、、、繋がってないからでしょ?いいよ、無理しなくて。こんな風に毎日来てくれなくても千隼は、私の弟だよ。」

すると、千隼は私にデコピンを繰り出した。思わずおでこをおさえる。

「姉ちゃんのバカ。俺は別にそうゆーこと思って来てねーし。それに、俺姉ちゃんの事本当の家族だとしか思ってないから。」

あ、なんか今のウルっと来た。・・・今だったら訊けるかな。

「あのさ、千隼。千隼は私の弟だけどさ私は、、、千隼のお姉ちゃんかな。」

「はあ?何言ってんの?」

千隼は頭おかしいのかとでも言いそうな顔をしている。

「なんていうのかな、その、えっとね。」

「んだよ。さっさと言え。」

言えるわけないじゃない。noって言われたら立ち治れる気がしないもの。どうしよう。「あ、いいたいこと忘れちゃった。」ってごまかしちゃおっかな。でもちゃんと言わないとな。ああもういいや。どうとでもなってしまえ。

「あのね。私はもうすぐ死んじゃうからさ、あんまり千隼にお姉ちゃんらしいことできてなくて、、、。千隼にとって私、ちゃんとしたお姉ちゃん、できてるかな。ってこと、です。」

まあできてないのはわたしもかなり自覚してるんだけどね。千隼、だいぶ大きなため息今したけど?えーっとどういうことっすかね。

「あーのーな。あたりまえだろ。姉ちゃんはちゃんと、姉ちゃんだよ。」

へ?あ、そうなんだ。よかった。私、、、ちゃんとお姉ちゃんしてた。

「じゃ、俺行くけど。なんかあったら言って。」

「うん」


今日は少し変わった一日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る