第7話 出雲大社と縁結びの神
あれから一年以上が経ち、美知は大学を卒業し、都内の出版社に就職していた。しかし、黒神のことを忘れたわけではなかった。友人の結衣と果歩にも相談したが、二人とも「美知の気持ちが一番だよ。ほんとうに好きだったら連絡してみれば。」とは言ってくれたが、次の一歩が踏み出せずにいつの間にか時が過ぎて行った。
そんなある日、美知のところに女性向け雑誌の取材の仕事が舞い込んできた。テーマは『出雲大社と縁結びの神』である。フレッシュな感性での記事を期待する編集長が新人の美知を抜擢してくれたのである。美知は、初めての大役を任されてプレッシャーを感じつつも、自分の得意分野でもあると、喜んで引き受けた。そして、黒神との縁を改めて感じ、彼のことが懐かしくなった。彼のアドバイスも受けてみたい。思い切ってラインにメッセージを送る。
「ご無沙汰しています。お元気ですか?美知です。今更連絡しても困るでしょうね。ごめんなさい。実は、都内の出版社に就職して、今度雑誌の取材で出雲に行くことになりました。もし、黒神さんのご都合がつくなら一度お会いできませんか?お返事待っています。」
程なくラインの受信通知が鳴った。黒神からである。
「久しぶり。元気そうで何よりです。美知さんも、もう社会人になったんだね。僕もぜひ会いたいね。できる限り都合をつけるようにするよ。日時が決まったら、また、連絡ください。」
美知は、長い間の空白の後の身勝手な連絡にも、快い返事をくれた黒神に感謝した。
そして、さっそく、記事のアウトラインを練り、取材の計画を立て始めた。すると、隣の先輩の今井が、声をかけてくれた。
「小出さん、やったわね。新人に記事を任せてくれるなんて、あなたラッキーよ。がんばりなさいね。」
「ありがとうございます。ちょっぴり不安ですけど頑張ってみます。今井さん、また色々教えてください。」
まずは、記事のアウトラインだ。元々女性向け雑誌だが、縁結びとなれば対象となる読者は独身だが結婚に興味のある20歳代とする。この年代が興味を持つコンテンツを考える。食事・スイーツ・ファッション・インテリア・アクセサリ・レジャー・マンガ・アニメ・ゲーム・芸能・音楽・美術・スポーツ・ダイエット・・・
そして、欠かせないのは、出雲大社に纏わる歴史・御朱印・ご神徳(ご利益)・逸話・伝説・神話などである。
また、発行される季節、最近のトレンドなども考え合わせる必要がある。しかし、それらをすべて網羅していたら、大変なことになる。美知は、考えあぐねて、再度、自分が出雲を訪れたときのことを思い出してみた。北島国造館の恋みくじ、古代出雲歴史博物館、出雲大社の参道となる神門通りの食べ歩き、万九千神社の八百万の神々・・・。
「そうだ、『千と千尋の神隠し』に准えて、副題を『千と千尋の神々が集う謎の世界にタイムスリップ』としよう。」
それらを踏まえて考えたアウトラインは次のようなものである。
『出雲大社と縁結びの神
~千と千尋の神々が集う謎の世界にタイムスリップ~』
①出雲の神話と歴史に触れる
スサノオの八俣のオロチ退治、因幡の白兎、オオクニヌシの国譲り
出雲大社の創建と古代出雲歴史博物館、大国主命と縁結び
②出雲大社を詣でる
御朱印、恋みくじ、白兎
③神門通りとご縁横丁を食す
④神々の湯屋(油屋)玉造温泉に泊まる
次に、2泊3日で取材の計画を立てる。
1日目
12時頃:出雲着 午後:出雲大社と神門通りの取材、出雲宿泊
2日目
午前中:古代出雲歴史博物館でのインタビュー
午後:玉造温泉の取材、玉造温泉宿泊
3日目
午前中:予備 18時頃 出雲発
美知は、これらを編集長にメールして、認可をもらうことにした。
すると、編集長の宮田は、概ね賛同してくれた。
「いい感じにまとまりそうね。できるなら、『千と千尋の神隠し』をもう少し強調してもいいかしら。取材計画もあれでいいわよ。」
「ありがとうございます。宮崎駿の世界をイラストで紙面に追加するなど検討してみます。」
美知は、黒神に、2日目の9時に古代出雲歴史博物館で訪問取材するので、そのときに会いたい旨、ラインした。
程なく、黒神から返事が返ってきた。
「その日はちょうど講義が無い日なので、一日付き合えるよ。再会できるのが楽しみ。」
「ありがとうございます。黒神さんにも取材のインタビューに付き合ってもらえるとうれしいです。」
すると、すかさず大きめの『OK』のスタンプが返ってきた。
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