第29話

東京へ行った頼子と護が再び会うまで一年が過ぎた。

護は憲介に話したように頼子の去った翌年の春に乾家を出て尼崎の港に近いところへ移った。

乾家を出たとは行っても月に数度は芦屋の乾家を訪れ、乾家の人々と時間を過ごした。

それは乾家を出た憲介とのささやかな約束事だった。

憲介からは屋敷を出てもアトリエは屋敷の中に残し、絵を描く度に屋敷を訪れて欲しいと言うことだった。

護にしても別段嫌なことではなく、憲介の優しさとも言える誠意に対して答えた。

そして護も頼子からの手紙は乾家に送る様に決めていたので、訪れては頼子の手紙を見て兄の容態を確かめていた。

七月の七夕を過ぎたころ屋敷に届いた頼子からの手紙を読んだ護は空に輝く星を見た。

(頼子さんが大阪へ戻ってくる)

手紙には薬が効いて兄の容態が落ち着いてきたので一度大阪へ戻り、乾家の人々と護に挨拶をしたいと書いてあった。

そしてまた東京へ戻ると書いてあった。

手紙を読むと明日着の汽車で大阪に着くと書いてあった。

(明日は、お父さんも奥様も居ない)

 乾家の人々は昨日、下関の親戚の結婚式に出て不在だった。

護は絵を描く為、乾家の屋敷を訪れて手紙を女中から受け取った。

(仕方ない。残念だけど、お父さんには後で報告しよう)

そう決めると護は手紙を封筒に仕舞って空を再び眺めた。

空には沢山の星が煌いていた。

すると輝いていた星の一つが流れ落ちた。

(流れ星だ・・)

 護は見上げたまま思った。

(頼子さんもこの星を見ているかもしれない)

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