第7話 入村!


「ふぅ……ん!? 見てみ! この看板に『ここからルートベス村』って書いてあるわ!」


 ミュラーが道端で足を止め、指をさすと確かに看板にはそう書かれていた。あれから数時間歩き、ついに四人は目的地のルートベス村に着いたのだ。


「やっと着いたか。もうクタクタだぞ」

「お疲れ様でした、皆さんとりあえず村に入ったらオラの家に案内します」

「アイナもくたくた〜 あしさんがね、もういやーっていってるよ!」


 アイナはヴェンの背中でおぶられながらダラけた顔でそう言った。


「何言ってんねん、アイナちゃんはだいぶ前から兄さんにおんぶされとってそんな疲れてへんやろ」


 ミュラーはため息まじりにそう言うとアイナはヴェンの背中に掴まりながらニヒヒと笑っている。

 アイナからヴェンに視線を戻すとミュラーは急に何かをひらめいたのか手をポンと叩いた。


「……あの、今さら気づいたんやけど兄さんの重力魔法で飛んでったらこんな苦労せず村に楽にいけたんじゃ?」

「まぁ……行けたな」

「ぶーん、ぶーん!」


 ヴェンの背中に乗りながらアイナは手で飛行船が飛んでいる真似をしている。


「なんでや! なんで使わんかったんや! 使ったらこんな疲れんかったのに、ムキー!」


 ミュラーは悔しさのあまり足で地団駄を踏む。


「いやアイナが道を歩いてお花さんを摘みたいって言ったから」

「おはなさん〜 おはなさん〜」

「そっそんな……一人の少女の軽はずみな一言でこんなナイスバディで美しいウチが死ぬほど歩かされるなんて……」


 自分が大分無駄な労力を使ったと実感するとガックリとミュラーは肩を落とす。


「ミュラー言動がおかしいぞ? 疲れてるんだな」

「兄さんのせいでな! ウチの細くて綺麗な足が今も悲鳴をあげてるわ……可哀想に」

「ミュラー、だいじょうぶ? いいこ、いいこしてあげるね!」


 そもそもアナタが花を摘みたいからこうなったんですよ……とミュラーはアイナに言いたかったが、その無邪気な笑顔と優しく頭を撫でてくれるのを見ると何も言えないのであった。


 そしてなんだかんだ四人は大きく構えられた村の門をくぐり抜けた。


「ん? なんか人だかりできてるで?」


 ミュラーは村の中央付近で人だかりがあるのを確認すると三人に伝える。三人も中央の方を見ると確かに村人たちが集まっているのが分かった。


「祭りかなんかか?」

「おまつり!? おまつり、おまつり〜!」

「え? 村の祭りなんてこの時期にはない……まさか!?」


 何かを察したのかジルは三人を置いてくようにその人だかりに走っていった。


「ちょ、待ちぃや! ジルはん!」



******



「おらおら! 次は誰が石を投げる? お前か?」

「いっいえ、私は……」

「ほらほら〜 投げねぇとムチ打ちが待ってるぞ〜! ガハハ!」

「ヒィィ!」


 ムチを持っていかにも村人よりも豪華な洋服を着ている男たち二人が集まっている村人の前で高笑いをしている。

 どうやらその男達は一本の巨木に拘束されている青年に向け、村人達の手で石を投げさせようとしているのだ。


「なんやあれ、石投げかいな。えらい趣味悪いのぉ」

「いし、ぽいぽい?」

「うーん、アイナちゃんは真似せんででええよ? ーーあ! ジルはん!」


 ミュラーたちは人だかりの後ろの方でその様子を見ていたが、今さっき走って行ったジルがムチを持っている男の元へ近づいていたのだ。


「なっなにしてんだよ、みんな!?」

「ジッジルか!? 戻ってきたのか……!」

「じいちゃん! そんな事はどうでもいい! それよりこれは……!?」

「これは……」


 ジルがじいちゃんと呼ぶその老人は俯き、きまりが悪そうな顔を見せる。

 するとムチを持っている一人の男はジルとその老人の元に近づいてきた。


「うーん? なんか威勢のいい男が現れたと思ったら村長の孫か」

「アンタらは領主の護衛……? なんでここにーー」

「ーーおい、領主……だろ! おらぁ!」

「ぐがぁ!?」


 ジルの顔面にムチが命中する!

 バチンッと痛々しい音がしてジルはその場で倒れた。


「すっすみませぬ! 孫には言い聞かせますのでどうかご配慮を!」


 村長は地面に膝をつき、護衛に頭を下げる。


「ったく、それでいいんだよ。さて、次は誰がやる? ……よし、お前だ! そこのクワを持ってるやつでてこい!」

「はっはい……!」


 護衛は後ろの方でクワを持っている男を指差すと人だかりの前に来させる。


「いいか、そこの村長の孫に教える形でもう一度言うが……今から我々が行うのは制裁だ! ほらお前はこの石を持て!」

「…………」


 男は無言でその石を持つ。

 男の本心ではその石を受け取りたくなかったがチラチラと護衛はムチを男に見せ、意地汚いニタリ顔をしていたため断るに断れなかった。


「制裁とは……皆も知っているように我が領主様に歯向かったこの不届き者への制裁だ!」


 護衛は巨木に拘束されぐったりとしている青年を指差す。

 その青年は頭から血を流し、ところどころに殴られた後やアザが見られている。

 いかにも目を覆いたくなるような光景だった。


「ヨシュア、大丈夫か!?」

「今からこの男はそこの罪人、ヨシュアに石を投げる! 外せばムチ打ち、当たりどころがよければ褒めてやるぞ! ガハハ!」

「そんな!? 何も食べずに五日間を過ごす……それが領主様との約束だろ! こんなのおかしいだろ!」

「これ! ジルやめんか!? 皆のものジルを!」


 村長の声によって他の村人達にヨシュアは抑えられる。


「だまらっしゃい! それとこれは別。これは領主様とそこのアホが結んだ約束とは別のものだ! この不届き者は領主様に歯向かったんだからな、それなりの罰を受けてもらうのだ」


 護衛は村人達に抑えられているジルの頭を足で踏み、石を持っている男に叫ぶ。


「さぁ! 男よ、やれ!」

「……くぅぅぅ! ……すまん、ヨシュア!」


 護衛の脅迫に耐えきれず、男は目を瞑りながらヨシュアに向かって石を投げつける。

『ゴスッ!』と耳を塞ぎたくなるような生々しい音が聞こえた。


 石は命中した……それもヨシュアの頭に。直撃したのだ。


「ッッッッ……!」


 無言で耐えて座り込んでいるヨシュアの頭からはドクドクと血が流れ落ちているのがよくわかる。


「おぉぉ! 頭か、よくやったぞ〜 褒めてやる!」

「あっあぁ、ヨシュア……」

「ありゃ……痛そうやわ。なぁ兄さん」

「…………」


 投げ終えた男はただ申し訳なさそうに涙をこぼしながら膝から崩れ落ちた。

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