禁忌犯しの竜殺し〜追放された元最強職、史上最強ギルドを作って世界を掻き回す〜

梅本ポッター

第一章 元竜殺しは歩き始める

第1話 場違いな二人


 壁に貼られた賞金首の似顔絵、各方面からの依頼書、それらを見上げるゴロツキたちは今日も愉快に酒を片手にして談笑している。


 この町の酒場は有名であった。

 数多くの依頼書が貼られている。入ってくる情報量が膨大。そして柄の悪さがピカイチ。

 そんなこの酒場は今日も賑わっているが、今日は何故だか場違いな二人がこの酒場に足を運ぶ。



「--ったく、最近ギルド潰しが多いなぁ」


 酒場のマスターは新聞に大きく『ギルド潰し多発!?』と見出しがつけられているのを見て頭を悩ませている。

 ギルドの人たちは言わばこの酒場の客人、客が激減すれば店の経営にも影響が出る。


「ーーマスター。この依頼書を受けたいんだが」

「ーーはい! りょうか……は?」


 マスターは驚いた。

 それもそのはずだ、後ろを振り向きどんなゴロツキがいると思ったら依頼を受けようとした人物は見た目で言えば15、16の少年。

 未だに幼さが残る顔つきで体は小柄な方だった。普段から体がデカく筋骨隆々な男たちを見慣れているマスターにとっては真新しいものに見えただろう。


 こんな酒場には場違いと言ってもいいほどの若者が依頼を受けようとしているのだ、マスターも驚くのは無理もない。


「はっ! バカ言ちゃいけないよ。お前みたいなやつが依頼を受けるって? 冗談はよしてくれ」


 マスターが鼻で笑い、『あっち行った!』と手で促すと少年はその銀色の髪を揺らし真っ赤に燃えた赤い目でマスターをギロッと睨んだ。


「冗談ではないんだが?」


 そんな少年の目にマスターは少し驚いたが、


「ふん! 威勢だけは一丁前だな。それならお前のギルド名を教えてもらおうか?」

「ギルド名? 依頼を受けるにはギルドに入らないといけないのか?」


 少年は首を傾げ、グラスを拭いているマスターに尋ねる。


「当ったり前だろ!? いいか? 依頼を受けるには一般人はギルドに入ってないとまず受けられない。それぐらい世の常識だ!」

「すまない。それは初めて知った。なにぶん外の世界の常識は疎くて」


 少年は銀色の髪を手で掻き苦笑いを見せた。その優しく笑った顔を見るとやはりここには場違いな気がするとマスターは感じただろう。


「とにかくお前にはまず信用が足りねぇ。ギルドにも入ってねぇ見知らぬ少年に俺の大切な客の依頼なんて任せられるか」

「依頼を受けられないか……それではお金が手に入らないな」

「おにーたん。アイナ、ごはんたべられない?」


 少年が困った顔を見せると隣にいた少女が少年の腕に手を回し心配した表情を見せる。


 その少女、見かけ5、6歳で髪は透き通るような水色。それを雑に結ばれている。大きな藍色の目が特徴的でこの街で久々に見たような可愛らしい絶世の美少女だった。


「大丈夫だよ。アイナ、俺がなんとかしてみせる」

「うん!」


 そう言って少年は少女の頭をポンポンと撫でると少女は嬉しそうな顔を見せた。


「さてマスター、ギルドに入るにはどうすればいい?」

「……入るには二つ。今ある既存のギルドに入るか、もしくは自分で作るかだ」


 マスターはそんな二人を少し気にしてか普段なら厄介払いする案件だったが気前よく素直に教えた。

 この兄妹に悪意は全くない。日頃から人を見ているマスターの目にはそう見えたのだろう。


「そうか、なら俺はーー」


「おい! マスター! 酒がないぜ!?」

「……ザクロ。今この少年と話してる最中だったんだが?」

「はぁ? 少年? そんなやついたか?」


 マスターがザクロと呼んだ大男はふざけながら大袈裟に辺りを見渡す。その仕草はまるで少年などいなかったような立ち振る舞いだ。


 ガハハ! とザクロが大声で笑うとそれに連なるように周りの男たちも笑い出す。


「……おにーたん。アイナ……あの人、怖い」

「そうだねアイナ、ひとまずここを離れようか」


 ザクロの威圧的な姿に萎縮してしまったのか幼いアイナは少年の裾を掴み一刻も早くその場から離れたい仕草を見せた。


「マスター、情報ありがとう」


 少年は深々とマスターにお辞儀をするとアイナと手を繋いでこの酒場から去ろうとした。


「おぉぉい? おにーたん? なんでお前みたいなヒョロ助がこんな場違いな酒場にいるんだ?」

「おいやめろ、ザクロ! ちょっかいかけるな」

「? お金がなくなったから稼ぎに?」


 至って普通に回答してみせる少年。その表情には悪気はなく一般的な接し方だった。


 ただそんな簡素な反応だったためかザクロは、


「ギャハハ! そりゃおもしれぇ冗談だ、お前みたいなやつが金を稼ぐねぇ? そりゃどんな依頼だ? お花摘みとかか?」


 再び大声で笑いながら周りに伝わるように話し始めた。


「ちなみにお前、前はどんな職業やってたんだ? 後ろに装備してる双剣を見る限りじゃ庭の伐採士か?」


 ザクロが少年の後ろを指差すと確かに服で隠したように双剣が装備されていた。

 その双剣は立派な装飾が施されており普通の武器屋ではまずお目にかかれない武器に見えたが、ザクロや周りにいる人たちにとってはこんな貧相な体の少年がこんなもの対して使えるはずがないと思い込んでおり軽視していた。


「……竜殺しだけど」


 少年はザクロの挑発にのることなく真顔で答える。今すぐにでも立ち去りたそうな声のトーンだ。


「だっはっはっはっ! こりゃまたおもしれぇ冗談だ! ここまでホラ吹きがいるとはな!」


 まるで大きな果物でも入るかと思うぐらい口を大きく開けて大笑いするザクロ。


「いいか? 竜殺しってのはな、人類の天敵であり、討伐困難とされてる魔獣……竜族を殺す職だぞ? 王国に実力が認められてるほんの数握りしかなれない職業。それをお前みたいなヒョロ助がなれるわけねぇだろ?」


 ザクロが少年を指差してその嘘がどれだけ的外れなのかを皆に説明するかの如く話す。

 その話を聞いて落ち着いたように少年は口を開いた。


「よく知ってるね。竜殺しのこと」

「そりゃそうだろ? 今やみんなの英雄だからな?」


 手を大きく広げながら酒場にいる皆に演説するようにザクロは話す。それに反応するかのように『そうだ、そうだ』と言った同意を示す声が聞こえた。


「英雄か……」


 ザクロの話や皆の反応を見てふふふとほくそ笑む少年。


「あぁん? 何がおかしい?」

「いや、何も知らない無知な人間は幸せだな〜と」


 まるでザクロを挑発するような口ぶりで話している少年はいかにも挑戦的な眼差しでザクロを見つめる。


「--てめぇなんだと!?」

「おい、お前らこんなとこで喧嘩なんてすんなよ!? ほら酒だ、持ってけザクロ!」


 ザクロがカウンターを叩き今にも喧嘩をおっ始めようかとした瞬間、マスターがグラスをザクロの前に差し出す。


「チッ! マスターに感謝するんだな。お前みたいなやつ一捻りで終わったのに」

「…………」


 そう言葉を残してザクロは一緒に酒を飲んでいた仲間の机に戻っていった。


「お前も気を付けろよ? アイツはこの町じゃ割と有名なギルドの……」

「……行こうか? アイナ。……アイナ?」


 

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