別れの挨拶
中学時代の、たぶん三年のときに経験したものである。別な意味でもちょっとおかしな話だ。
学校帰りのこと。
わたしは徒歩通学だったのだが、前を三人ぐらいの女子高生が横一列になって歩道を塞ぐように歩いていた。しかも彼女たちはしゃべりながらで歩行速度も遅かったので、わたしは十数メートルぐらい後ろで追いつきそうになっていた。
年上の女子たちに苦情を述べて道をあけさせるのも、車道に出て無言で抜かすのも、どちらもなんだか嫌な雰囲気になりそうだった。
だから、ずっと先にある十字路辺りまで行って、そこで彼女たちと違う方向から帰宅しようと決め、それまで追いつかないようにゆっくり歩くことにしていた。
すると十字路に到着する前に、途中で女子高生の一人が道路を横断した。どうやら、彼女だけはそっちの別方向に家があったらしい。
女子高生たちは口々に言った。
「ばいばい」
「ばいばい」
「ばいばい」
直後だった。
「バイブ―」
と、ちょっと太った女子高生のような声がわたしの片方の耳元で言ったのだ。
え? と思って間髪を容れずにそちらを向いたのだが、誰もいない。
家があって石垣があったが、その向こうはいくらか覗ける造りで、そこにも人影はなかった。だいいち、ぴったり耳元で囁いたような声音だったのだ。
当時すでになんだか古臭かった「バイブ―」なんてバカみたいな台詞だが、翌日学校でこの話をしたら案の定、友人に笑われたものである。
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