2学期初日の出会い
綿麻きぬ
公園
二学期初日、僕は玄関で少しだけ今年を振り返った。
無事とは言えないが、とりあえず一学期は終わり、夏休みが始まった。
この夏休みはどうだっただらうか? 確かに何かはしたが、何も残らない夏休みだった。でも、学校があったときよりも心は穏やかだった。
別に学校が嫌いとかそういうことでない。友達もいて、宿題もしっかりした。先生も優しい。
だけど、ダメなんだよ。足が前に踏み出せないんだよ。
学校へ行かないとダメなことは分かるんだよ。頑張らなくちゃって分かってるんだよ。友達だっている、宿題だってしっかりしている、心配なことは何一つもない。
でもさ、動かないんだよ。甘えだって言われるのは分かってる。甘えだってことも分かってる。
自分がおかしいのも分かる。だって自分は周りの人ができていることが出来ないのだから。
そんなやつは学校、社会にはいらないことも。
そんな心と体を無理やり外に出す。
そして、家の前で泣き崩れた。
両親は慌てふためき、近所の人は訝しげに見る。
それでも僕は泣き続ける。
動かなきゃ、泣き止まなきゃって思いながら。
ふっと、頭に考えが過った。
あぁ、消えちゃえばいいんだ。
こんな自分のことをいらないという社会から消えちゃえばいいんだ。
それを考えると体が軽くなった。涙も止まった。
立ち上がり、消える場所を探すため歩き出す。
少し歩いた所にまぁまぁ、大きい公園があった。緑があり、でも少し陰湿な公園が。
何故かベンチに引き寄せられ、座り、目を閉じた。
どれくらい時間がたっただろうか分からないが、肩をつつかれた。
そこには僕より少しぐらい年上のお姉さんが立っていた。
「お隣いいですか?」
お姉さんは聞き、僕には拒否する理由もないので座っていた場所をずれた。
「ねぇ、君、消えたいって思ってるでしょ?」
図星すぎて言葉を失った。
「お姉さん、エスパーだから分かるんだ」
僕が頭にクエスチョンマークを浮かべてるとお姉さんは追加して言った。
「うそうそ、私も消えたいって思ってたから」
思ってた? 過去形?
そして、腹いせに少し意地悪した。
「お姉さんもサボりじゃないですか」
「まぁまぁ、君も暇なんでしょ? 冥土の土産にでも私の話を聞いてくれると嬉しいな」
その一言を皮切りにお姉さんはポツリポツリ話始めた。
自分は満ち溢れた人間だったこと、何にも不自由してなかったこと、それでも学校に2学期初日に行けなかったこと。
行けなくて引きこもろうって言ったって非難はくる。どうすればいいのか分からなくって消えればいいんだと思ったこと。
そして、飛び降りたこと。その後、幽霊になって何故か公園にいること。
その話を聞いて僕はお姉さんを見た。
「うーん、こんなこと話しても自分の気持ちは整理できないね。まぁでも私には君の責任は取れないし」
お姉さんの寂しそうな顔が目の奥に貼り付いている。僕はなんて声をかければいいか分からないし、声をかけるべきかどうかも分からない。
「すまんね、こんな話をして。何か参考になったら嬉しいよ。じゃ、私はもう行くよ」
立ち上がろうとしたお姉さんを僕は止めようと腕を掴んだ。
しかし、その腕を掴むことは出来なかった。
それに僕は消えるってことが怖くなって、泣き出した。
お姉さんはびっくりして僕の方を見る。僕は嗚咽を漏らしながらお姉さんに話を聞いて貰った。
僕はきっと誰かにこの気持ちを聞いて、分かって欲しかったんだ。
そして、僕は消えないことにした。ただ、条件付きで。
お姉さんに憑いてもらって、生きることにした。
また消えたいと思ったらお姉さんに慰めてもらうために、そして本当に消えたいと思ったら消える手伝いをしてもらうために。
2学期初日の出会い 綿麻きぬ @wataasa_kinu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます