名案

「完全な不死者ねぇ・・・」


落ち着いた後、俺や刀傷の神が暇になるということでレベルを下げられた結果、不死者についての話題になった。


不死の定義は広い。


ただ単に長命種で他の人種より長生きしてるだけで間違って不死と思われてる者、何らかの方法で寿命が止まった者、アンデッドのような特定の方法で消滅する者など様々だ。


今回題材に上がった完全な不死者というのは寿命が無い、どんなに損傷しても即座に蘇る、魂に合わせて自動的に体を再構築する、状況に応じて進化するなどの要素てんこ盛りな状態だ。


「大人しく静かにしてくれてたらいいんだけど、今回は好き放題やってくれちゃって世界のバランスが崩れそうになってる状況かな」


糸目の神が更に追加で厄介な設定を加えてくる。心底楽しそうに笑みを浮かべてる辺り本当にいい性格してると思う。


「どうしてそこまで放っておいたのですか?」


後輩神が素朴な疑問をする。全くもってその通りだ。


「管理者の不手際とは思うだろうけど、中には偶然の産物だったり合わせ技で生み出されたりする場合もあるから、とりあえず現状打開する方法を考えてくれるかな」


「わ、わかりました」


責任問題は後として現状打開か。うーん・・・。


「やはり封印が妥当かの?」


「うむ。場凌ぎではあるがな」


「ですが封印致しますとその場の空間が歪みませんこと?」


「え?そうなんですか!?」


「そこだけ時間の流れを変えることになるからの」


「常に破損状態を維持するというのはどうでしょうか」


「それだとしんかしてつよくなっちゃわないかな?」


「む・・・確かに」


それぞれあれやこれやと意見を出し合うが抜本的な解決案がなかなか出ない。


あまり考えたことはなかったが、ここまで不死者というのは厄介な存在だったのか。


世界の厄介者か・・・。


黙って考えているといつの間にか隣に来ていた糸目の神が俺の顔を覗き込んでくる。


「君は何か無いのかな?」


人の心の深淵まで覗き込むような目をしているなぁコイツ。


そんなことを思いながら考えてた事を言う。


「いや、なんで好き勝手やろうとしてるのかとちょっと考えてた。自分を理解して欲しいからなのか、それとも共感して欲しいからなのか、はたまた世界に絶望してしまったのか。もし行動原理が理解できれば鎮めることはできるかもしれないかなって。もういっそのこともう一人相手になれる存在を生み出してしまうとか、不死者の世界にしてしまうとか。魂の循環は止まるが、信仰は残るから世界の維持は出来るんじゃないかな?」


「・・・」


思ってた事をそのまま上手くまとめることも無く口にするとそれまで議論してた皆がこっちを向いて静かになった。


「え?な、なに?」


「・・・面白い!いやー、さすが君だよ。僕には持ってない考えをしてる。素晴らしいよ」


「そ、そうか?」


妙に褒める糸目の神を気味悪く思いつつも他の面子も同じように頷いてくれる。大したこと言ったつもりはないんだけどなぁ。


「確かに行動原理を知るというのは大事だね。いい着眼点だと思う。そして何より僕がいい思ったのは不死者の世界にしてしまうという考えだ。実に面白い」


「ふむ。完全な不死者が現れた時点で手遅れに近い状態だから、兄貴ぐらい思い切ってしまうのもアリかもしれんな・・・」


「不死者の世界か。よくもまぁそんな恐ろしい考えを思いつくのぅ」


「恐ろしい?」


「考えてみぃ。死んでも死なぬ奴らが戦いだしたらどうなる?地獄じゃぞ」


「そうか?不死同士なら戦い自体が不毛だから勝った気にならなくてやらなくなると思ったんだが。確かに最初のうちは凄惨な戦いが起きるかもしれないが、そのうち無意味になって別の、例えば文化的な勝敗の付け方になっていくと思ったんだけど、やっぱり楽観的過ぎたかな」


「・・・」


そう答えると猫の神は口をあんぐりと開けて固まる。


「くくく、猫の、兄貴は凄いな」


「うむ・・・。さすが神竜を手懐けただけある」


「・・・これ褒められてる?」


「フッ、さぁな」


刀傷の神に聞くと鼻で笑われたがどことなく嬉しそうにも見える。褒められたと前向きに捉えるとしよう。


「さて、面白い案が出たわけだが、他には無いかな?折角だから彼ぐらい突拍子も無い案を考えてみようじゃないか」


どうも糸目の神からは褒められてる気がしないんだよなぁ。まぁいいけど。


糸目の神の発言を皮切りに本当に突拍子も無い案が出るようになった。


「私が毎晩平和について説きますわ!」


「真空空間に飛ばして仲間探しさせるのはどうでしょう?」


「犬にしよう!」


「うんにゃ、猫の方がいいに決まっとる!」


あー・・・また収集の付かない状態に。


刀傷の神は早々に傍観にまわって奥さんと仲良くしてるし。


どうしたものかと考えていると今度は後輩神が横にやってきて質問して来た。


「あの、先輩、ちょっと思いついたことがあるんですけど、聞いてもらえますか?」


「あぁ、もちろん」


様子を見るに他の面子と違って自信の無い案は表に出すのに抵抗があるようだ。


「・・・不死者を神にする?今の神と入れ替えするのか?」


「いえ、そうではなく、別世界の神様にしてしまえば問題解決になりませんか?」


「ふむ・・・」


神にする方法はひとまず置いておくとして、他の世界の神に据えるという方法か・・・。


「それ、詳しく説明してもらっていいかな?」


俺が頭の中で検証を始める前に糸目の神が俺の肩に腕を置いて後輩神の案を興味深そうに聞いてきた。


「あ、はい、では改めて・・・」


後輩神は俺の時より更に詳しく説明する。


「つまり神様にしてしまえばその方の望んだ世界を作れますし、仮に失敗すれば消滅します。作った世界の方々には気の毒ですが・・・」


「なるほど。みんな聞いてたかな?」


気付けばさっきまで話し合ってた面子は静かに後輩神の話に耳を傾けており、内容を聞いて頷く。


「犬の」


「うむ。ちょっと席外すぜ」


猫の神の合図で犬の神が凄い速さでこの場から駆けて行った。


場の雰囲気が変わったことに俺と後輩神と姉女神の新人組は困惑して目線で助けを求める。


「あぁ、ごめんごめん。とっても画期的で実用的な案だったから広めに行って貰ったんだよ」


「え!?これって仮定の話ではないのですか!?」


「勿論仮定の話だよ。ただ、実際不死者問題を抱えている世界は多くてね。大体のところは封印したりして先延ばししてるんだよ。神にする方法には条件や方法、他の神々の協力など必要だろうけど、君の案はひとつの光になるかもしれないよ」


「本当ですか!?もし助かる方がいらっしゃるなら力になれてとても嬉しいです!」


糸目の神の話を聞いて後輩神は素直に喜ぶ。こういうところが彼のいいところだと思う。


ただ・・・。


考える俺に今度は姉女神がやってくる。


「・・・どう思います?」


「まぁ一筋縄ではいかないだろうな。アイツが言う条件というところが不明瞭だ。実際できるかどうかはやってみないとわからないところが多いと俺は見てる」


「やはりそうですか」


「でも彼らが動いたということはやってみる価値はあると思ったってことだから、それはそれで凄いことだと思うよ」


「なるほど・・・」


考える素振りを見せるが姉女神はどこか落ち込んでるように感じる。


「・・・そういえばさっき言われたんだけど、まわりがなんであろうと今の自分の世界が大きな問題なく維持できていれば神として十分なんだってさ」


「え?あ、はい」


「彼の考えは凄いけど、それはそれ。俺達は友人なのは変わらないから、あまり気にせずにな」


「えぇ、もちろんそのつもりですよ。・・・もしかして励ましてくれてました?」


「・・・俺の考えすぎなら聞かなかったことにしてくれ。恥ずかしいから」


「ふふ、ありがとうございます」


うーん、刀傷の神をちょっと真似てみたけど慣れないことするもんじゃないな。


でも落ち込んでる雰囲気は無くなったように感じる。よかった。


「あ、お二人で何内緒話してるんですか?僕も混ぜてくださいよ!」


糸目の神と話が終わったのか、俺達に気付いた後輩神がこっちに来る。


ホントなんというか人懐っこい、子犬みたいな奴だ。


それでいてあのような提案が出来る才能を持っている凄い奴だ。


いずれ姉女神も神としての才を目覚めさせる気がする。


そのうち二人の話についていけなくなる日が来るのだろうか。


ま、そしたら分かるように説明してもらおう。それでいい。それがいい。


俺は俺なりに皆と友人関係を続けられるよう研鑽を積んでいくだけだ。頑張ろう。

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