生い立ちの違い

何度か知恵比べ勝負をして行くうちに一対一の形式からいつの間にか皆で意見を出し合う座談会のような形になっていった。


どうやら俺らにはこちらの方が性に合ってるっぽい。


議題は本当に適当。真面目なものからふざけたものまで様々だ。


色々やっていくとそれぞれの性格や方針のようなものが見えてきて面白い。


姉女神は割と好戦的でやる時はやる一方で味方に対してはかなり甘い。敵味方で対応がはっきり分かれるタイプだ。


タク君はその逆で最後まで判断が下せず良い結果も悪い結果も引き寄せられないタイプ。


サチは情報を集め終えたら決断を下すタイプ。欠点を残そうとしないのでこの手の議題に対しては強い。


後輩神は天才肌というべきか、独特の感性でいち早く良い案を提示する。思考の視野が広い印象だ。


後輩神の補佐官の子は良く考えるタイプ。ベストを目指すよりベターを引いた上でよりベストに近付けていく考え方という感じだ。割と俺と近いかもしれない。


そして刀傷の神はというと・・・。


「ぬ・・・ぬぅ・・・」


それぞれの考えを聞いて腕を組んで唸る。


「やっぱり降臨禁止になると一気にダメになるな」


「むぅ・・・」


刀傷の神は基本地上に自ら降りてどうにかしようとするタイプだった。判定者を買って出てくれたのかと思ってたが、実はこの手の策を巡らせるというのが苦手だったようだ。


ただ、降臨して対処するのであれば話は変わる。特に戦闘の話となれば誰よりも優れた回答を出していた。


ちなみに刀傷の神の補佐官、今日は奥さんが来ているが参加せず刀傷の神の一歩後ろで俺達の話を聞いて静かに驚いたり笑ったりしていた。うーん、大和撫子。


俺はというと商売や投資のような先を見通す話や料理や技術の話だと皆とそれなりに会話が出来るが、戦いや戦略といったものになると完全に門外漢になってしまい、相槌を打つだけになってしまっていた。まだまだ勉強不足を痛感する。


何とか皆との会話について行こうと頑張っていると新たに輪に加わる人が現れた。


「よう、兄貴」


「頑張ってるかの?」


座ってる俺の脇の双方から頭を突っ込んでくる犬の神と猫の神。


「やあ。珍しいね、君も参加してるなんて」


「勝負じゃないからな。終わったのか?」


「まぁね。勝敗は見ての通り」


そう言って刀傷の神にやってきた糸目の神は勝敗の結果を指差す。


指を指した先には・・・。


「・・・」


皆俺と同じように見てどう反応していいのか分からず固まってしまっていた。


「ンフーンフー。モォーフォッフォッフォッフォ!」


そこにはいつもより声圧が無いアルテミナがいた。


何故か目隠し、猿轡を装着させられ、手は後ろで縛られ、付けられた首輪から少年神へ手綱が伸びている状態なのでそりゃいつもの勢いは出せない。


「どうしたんだこれ・・・」


「フォ?ホホハヒホアフア、ハヒハヒアハンフォハヒハハヘフヘ!?」


「何言ってるかわからん。口だけ外してもらえないか?会話が成り立たん」


「いい?いいってハティちゃん」


耳まで赤くして顔を覆ってたハティに糸目の神に確認した少年神が命じる。


「・・・わかりました。お姉さま、少ししゃがんでくださいまし。ほら、早く!」


急かされ座らされるアルテミナだが、座り方が妙に様になっている。息も荒いし、完全に楽しんでるだろアイツ。


「ふー、呼吸が楽になりましたわ!改めまして、そちらにおわすは、サチナリア様の神様ですわね?」


「あぁ。で、それはなんなんだよ」


「私、神様の前だというのに無残にも敗退致しまして、現在このように罰を受けてる最中ですわ」


手を縛られてるのによよよと脚を崩して座り込む、無駄に器用な奴だ。


「実際は?」


ハティに聞くと恥ずかしそうに目を逸らしながら答えてくれた。


「・・・自己申告ですわ」


「やっぱりか。ロクでもないな」


「おほっ、今見えませんが蔑んだ視線をしていますわね?いますわね!?」


あーもーうるせー。外させたのは失策だったかもしれない。無視しよう。


「外す確認を取ったということは二人で勝負してたのか」


「成り行きでね。なかなか盛り上がった勝負だったよ」


そう言って糸目の神はにんまり笑う。


アルテミナは性癖こそコレだが、それを除けばかなり優秀な人の中に入る。多分俺と勝負したらあっという間に勝負がつくぐらい差があると思っている。


「それで、何やら面白そうなことしてたみたいだけど、何をしてたのかな?」


「勝負じゃなくて普通に話し合いしてただけだよ。相手を言い負かすことを考えなくて済むから純粋に最良の答えを求める話が出来てこれはこれで面白いぞ」


「へー。じゃあ僕も混ぜてもらおうかな」


「俺達も参加するぜ、兄貴」


「うんむ」


「まぁいいけど、変なこと言っても馬鹿にしないでくれよ?」


しないしないと笑ってそれぞれ輪に加わるが、一気にパワーバランスが崩れた気がする。


なんだかんだで新人組と苦手な刀傷の神で構成してたからなぁ。完全に聞き手にまわりそうな気がする。


ま、これも見聞を広める経験だと思って参考に出来そうなところは参考にさせてもらおう。


「私も参加致しますわ!」


俺の視界に割り込むようにアルテミナが横から顔を出してきた。近いし息荒いので離れて欲しい。


「わかったわかった。んー・・・罰ゲームの途中だったようだし参加に条件つけてもいいか?」


アルテミナを押し退けながら少年神と糸目の神に確認を取る。


「いいよー」


「もちろん」


「よし、じゃあ罰ゲーム中ということで正座して参加すること」


「あら、そんなことでよろしいのですの?」


「うん。じゃあよろしく」


若干不満そうにしながらも輪に加わるアルテミナを見ながらハティに耳打ちをする。


「・・・ハルティネイア、ちょっと」


「なんですの?」


ハティにちょっとした頼みごとをする。


「・・・貴方、なかなかにワルですわね」


「褒め言葉として受け取っとくよ。で、やってくれるか?」


「勿論やらせて頂きますわ。お姉さまもちょっとは恥ずかしい思いをすべきだと思いますもの」


そう言って悪い笑みを浮かべるハティだったがきっとその時は俺も同じような顔をしてたと思う。




糸目の神、犬と猫の二神、それにアルテミナを加えた話し合いは続いている。


内容も先ほどまでとは規模が変わり、全域規模、数百年規模の壮大なスケールで話し合うようになり、正直完全についていけなくなってしまった。


そんな内容でも後輩神や姉女神は一言一句聞き逃さないように真剣に聞いている。凄いなぁ。


話を聞いていると次第に加わった三神プラス一の考え方というのが徐々に見えてくる。


それぞれ独自の感性を持ちつつも、皆基本的にドライな考え方をしている。


個を見ることはまず無く、人種、部族、はたまた生物という大まかなくくりで考え、一滴の雫を落とすような案を出して後は年単位でのスパンで様子を見るというスタイルだ。


うーん、さすが長く神をやっていて他の神達から一目置かれている連中なだけある。


ただ・・・。


「・・・」


・・・俺は何か嫌だな。


確かに大勢の信者を持てばそのような運用をする方が理に適ってるのはわかる。


でも動きがある時悲しむ人、苦しむ人が必ず現れる。


俺はそういう人を見捨てるようなことは多分できない。


前の神のように手厚く面倒を見るようなことをするつもりはないが、良き魂が報われないのは見過ごせない。悲痛な願いが来たらばれない形で何か手を貸すと思う。


ただ、本当にそれでいいのだろうかと彼らの話を聞いてると不安になってくる。


「・・・修行が足りん」


少し視線が下を向きそうになってたら横に座っていた刀傷の神が肘で小突いて来た。


「あれは神になるべくしてなった者の考え方だ。己を律しろ」


「む・・・」


「俺らのように成り行きで神になった者には無理だ。参考にする程度に留めておけ。神として今存在できてることを忘れるな」


ぶっきらぼうだが彼の言葉はどこか俺の心にストンと入り込む。そういえば前にもそんなことがあったっけ。


確かに現在のやり方でも今のところ問題なくやっていけている。


彼の言葉はそれを肯定してくれてるように聞こえた。


「・・・ありがとう。不安が無くなったよ」


「精進しろ」


そう言って刀傷の神は再び肘で俺を小突いてから元の距離に戻った。


戻った直後一連の流れを見ていた奥さんにこっそり擦り寄られていた。仲いいな。


そんな二人の様子を見ていたらサチが俺に腕を絡ませてきた。いや、別に対抗しなくていいから。


「ちょっと!そこ!話に付いていけないからってイチャつかないでくださいます!?」


ほら、アルテミナに気付かれた。というかなんで目隠ししてるのに誰よりも先に気付いてんだアイツ。


「・・・羨ましいですか?」


「なんですって!?」


絡ませていた俺の腕に更に力を入れ、アルテミナに見せ付けるようにサチが煽る。だからアイツ目隠ししてるんだから見せ付けても意味無いだろう。


「くっ、目隠しさえなければ!」


頭を振るが少年神が目隠しをわざわざ押さえている。偉いぞ。


「ふてぶてしい表情の癖に顔は赤いサチナリアさんを拝められないとは!」


「・・・」


高々と言い放つアルテミナとサチを見比べ、俺を含め集まってた皆は唖然とした。


・・・やっぱりコイツ見えてるんじゃないか?


サチの顔はアルテミナの言う通りの表情をしており、一瞬の静寂の後一気に笑いが起きた。


「な、なんですの!?」


耳まで赤くしたサチは俺の背中に隠れ、アルテミナだけ状況が掴めず左右に首を振っていた。


あーあ、一気に場の空気が和やかになってしまった。


ま、俺としてはこれぐらいの方が好きだからありがたいけどね。

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