西の領

このところ魔族領の人の動きが活発だ。


北の領は商会のバックアップのおかげで大分人が戻り、建物の再建や新しい商売が人を集めている。


東の領は領内に散った集落同士の交流と中央部の地質改善が本格化してきて人と物の流れが増加している。


そのおかげか信者になった人も移動するようになり、北の領から西の領へ動く人が現れた。


移動の目的は仕入れのようだが、果たして西の領には何があるのだろうか。楽しみと不安が入り混じる。


北の領の商人は中央都市を経由し、同じく西の領に用がある人と共に人馬種が引く馬車に乗り徐々に西へ移動していく。


「植物の種類が変わってきたな。温帯系かな?これは」


椰子のような木が道の左右に等間隔に並んで植えられており、徒歩で移動している人がその実で喉を潤している。美味そうだ。


さらに進むと次第に家屋が表示される。


一軒辺りの敷地面積がかなり広く家自体も豪華な家が多い。中央都市の上級クラス相当だ。


中央都市の人の別荘・・・という感じでもなさそうだ、住んでる人の身なりがまばらで家具を使い慣れてる人からたどたどしく使う人まで家によって違う。


空いた家を使用人が清掃を行っている辺り一棟貸し型の宿泊施設に見える。


「・・・リゾート地?」


何となく雰囲気からアタリを付けて言うと情報収集をしているサチから回答が来る。


「概ねその認識で合っています。・・・ただのリゾート地では無いようですが」


話してる最中に広がった視野で西の領の全貌が見えてくる。


西の領は海に面した領で、大きく陸地側に食い込むような広い入り江に沿って市街地が形成されている。


入り江の半分は海水浴場として利用され、もう半分は港と魚介類の養殖場として機能しており、ここで獲れた海産物は防腐加工をされた後に領内や中央都市へ運ばれる。


他にも温暖な気候に生息する生物や植物から得たものも特産品として商売を活性化させるのに一役買っている。


しかし、この地で最も産業として成り立たせているものが別にあった。


「入り江端の岬に建っているこれは・・・人工ダンジョンか」


「はい。地元では塔と呼ばれ、主にドワーフが管理しているようです」


ドワーフ。


比較的小柄な体に反して強靭な筋肉を持ち、鍛冶や金属加工に秀でた人種で男は髭を生やし、女性は少女の姿で成長が止まる。そんな人種。


この手の世界であればエルフに並ぶメジャーな人種だったが、分布としては然程多くなかった。


どうやらドワーフはこの西の領を主な活動地とし、様々な業種を手広く展開していたので土着愛が強く、他の地域へ出る人が少ないためあまり見かけることがなかったようだ。


そのドワーフの人達の中でも特に優秀な人がこの塔と呼ばれる人工ダンジョンの管理をしている。


サチから送られてきた塔の情報に目を通す。どれどれ?


地上二十五階の塔型ダンジョンで、観光者から一般冒険者向けの比較的優しい構造をしており、外でも販売しているような一般的なアイテムが手に入る。踏破率はおよそ五割。


塔の内部は定期的に自動で変化し、構造や難易度が調整される。踏破率の数字がしっかり出るのはこの調整によるもの。


五階毎にセーフルームと脱出口が用意されており、セーフルームでは宿屋や販売店のような施設もあるので気軽に挑めるのが売りの観光ダンジョンとなっている。


しかし、このダンジョンの本質はその地下にあり、地上部を踏破した人だけが挑める地下ダンジョンが存在する。


地下ダンジョンは地下七十五階の高難易度仕様となっており、こちらは珍しいアイテムを得られるが未だ踏破者は出ていない。


こちらも定期的に自動で更新がかかり、地下五十階で踏破者がゼロになるように設定されているので地下五十階からが本番と言われている。


ダンジョンには専用の敵対生物や罠が配置されており、挑戦者を迎え撃って来る。


もし戦闘不能になった場合、竜園地のように外に強制転送される。


「・・・む・・・」


ここで気になる内容が目に入る。


強制転送される際、ペナルティとして魂の情報の一部を読み取られる。


地上部でのペナルティは恥ずかしいエピソードを書籍化され、次の更新時に地上部のどこかの宝箱に入れられる。


更新後本人が見つけて処分すればセーフだが、大体は他人に見つけられ売られてしまうようだ。


塔の近くにはペナルティ書籍取扱店なんて書かれた店があって、入荷があると増刷して売ってるところを見るとこの地の名物商品なのだろう。


一方地下部で戦闘不能になった場合はただ地上に戻されるだけで、入手したアイテムが無くなるなどというペナルティも無い。


そのため高難易度ではあるが、己の限界に挑戦できるという点や珍しい物が手に入るという点で一定以上の腕の立つ冒険者に人気だ。


ただ、実際はちゃんとペナルティが存在している。


地下で戦闘不能になった場合、魂の情報を読み取られ、それがその後のダンジョンにデータとして更新時の罠や構造、敵対生物の生成に活かされるのだ。


そのおかげで未だ踏破者は現れず、地下六十階すら到達者が現れていない。


「自ら学習するのか。構造も自動変化するし、まるで生きたダンジョンだな」


「そうですね」


「・・・つくったのは勇者だな?」


「はい。管理しているドワーフは全てその勇者の子孫です」


やはりそうか。


勇者関連と確信を持ったのは魂の情報という部分。


俺もそうだったが、異世界の勇者は皆魂の状態でここにやってくる。


しかし下界の人はそんな事は知らない。仮に勇者から聞いたとしてもここまでしっかり魂を読み取る機能を作り上げるのは不可能だろう。


できるのは神から貰った能力を持った勇者のみ。そう考えるのが妥当だ。


他にも死なずに外に追い出される、飽きさせないような工夫が随所に凝らしてある、そんな要素が満載なところがいかにも異世界人らしい。


「全階層のスキャンが完了しました。詳細を送ります」


「あいよ」


サチから神力を使って全階層の詳細を出してもらった結果が送られてくる。


ふむ、特にこちら側に影響が出るような装置は無いかな。


魂の情報を読み取りはするものの、魂自体に悪影響を及ぼすことはしてないみたいだし、特に急ぎでこちらが何かするようなことは無さそうだ。


塔型の人工ダンジョンがあり、ドワーフ主体のリゾート地、西の領。


なかなかに興味を引くものが多い土地だ。


これから色々と情報を集めていくとしよう。

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