餅尽くし
「よし、こんなもんだろう」
サチと共に準備を終え、いよいよ俺たちの番だ。
「本当に大丈夫ですか?」
「うん。疲れたら少し休めば直ぐに体力回復するから」
「わかりました。では手はず通りに」
「よろしく頼む」
俺とサチの餅搗きは俺が搗き手、サチが合いの手を担当する事になった。
本当は俺が合いの手をした方が餅の状態を確認できるのだが、サチ曰く見栄えというものがあるため俺が搗き手をしなければダメと言われてしまった。
まぁこれまでもサチは俺の料理の補助をしてくれていたし、細かく説明したので大丈夫だろう。最悪手を止めて確認すればいいし。
「では、やるぞ!」
「いつでもどうぞ」
杵をバランスを取りながら高く振り上げる。
「よいしょー!」
そして掛け声と共に振り下ろし、米を搗き、再び振り上げる。
「はい」
サチは杵がついた場所に小さい芋団子を放り込み、中に包むように返す。
そこへ再び掛け声と共に杵を入れる。
これをゆっくりと繰り返して餅をついていく。
本当は他の人達のようにもっと素早く搗けたらいいのだが、速さを求めると正確性が失われ、下手すると杵で臼の縁を叩いてしまいそうなので正確重視でやっている。
特に俺達の餅は一気に繋ぎ用の芋を入れるのではなく、小さくしたものを徐々に足していき、極力米の配分を多くする方針なので正確に芋玉を入れた部分をつくのが大事になっている。
サチと交互にリズミカルな掛け声を繰り返しながら搗いていくと、次第に粘り気のある音になり、搗くと杵の先に餅が吸い付いてくる感触に変わる。
「そろそろ投入量の調節をしてくれ」
「了解」
それまで返す毎に入れていた芋玉を状態を見ながら追加していくようにする。
一定のペースでペタンペタンと搗いてると搗き終えた人達が周りに集まってきて一緒に掛け声をしてくれる。
「あ、よいしょー」
「よいしょー!」
もう顔や体から汗が吹き出てそれなりに疲労も感じてきてるが、皆が掛け声をしてくれるおかげで力が湧き出て継続できている。
芋の投入もほぼされなくなり、あとはしっかり満遍なく馴染ませるように搗くだけになった。
「よし、あと二十だ!」
「了解」
残りの回数を伝えると周りの人達も一緒にカウントダウンをしてくれる。
「五、四、三、二、一、完成だ!」
最後まで搗き終えると周囲から拍手が上がる。
どうもどうも、みんなありがとう。
どうやら俺達の組が最後だったようで、杵と臼を片付けたら皆で一斉に味付けに移る。
「ふぅ、休みなしだな」
「お疲れ様でした。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。サチもお疲れ」
「ありがとうございます。それで味付けの方はどうするのですか?」
「この前研究所から貰ったアレを使おうと思う」
「アレですか・・・確かに餅も元は米ならば合いそうですね」
アレならきっと皆喜んでくれるだろう。
ふふふ、今から楽しみだ。
皆が集まった中心でワカバとモミジが餅搗き大会の結果発表をする。
「それでは第一回餅搗き大会の上位三組の発表を致します!一位、ユキちゃん、リミちゃん組!二位、ソウ様、サチナリア様組!三位、アルさん、イルさん組となりました!」
「それ以下はこんな感じ」
俺とサチの組は惜しくも二位だったようだ。うーん、今回は優勝狙えると思ったんだけどなぁ。
今回俺とサチが用意したのは醤油と海苔だ。
先日海苔の研究をしているところから安全重視の海苔が届いたところだったのでこれを機に使わせてもらった。
餅を軽く焼いて少し焦げ目を付け、それに醤油を塗ってパリッとさせた海苔を巻いて提供した。
毒見兼試食のルミナが食べた時の反応が良かったのもあり、提供時間中常に求める人が居たぐらいに人気だった。
「ソウ殿はずるい!反則だ!おかわりを要求する!」
と、ドリスが数分置きに食べに来てたのが印象的だった。
そんなドリスとルミナ組は餡子乗せの餅を出したようで、ルミナの余計なパフォーマンスのせいで若干餅の質は落ちたものの四位と健闘したようだ。
三位のアルとイルはドリスのアドバイスできなこを出していてこれも頂いたが美味しかった。
一方完璧な餅を作ると意気込んでたエルマリエとオクスティア組は餅に粉末にした完全食を練りこんで提供したものの、肝心の味付けが何もされていなかったので栄養価こそ
よかったが、味気なさが出てしまったようだ。後でアドバイスしようと思う。
なお、ワカバ、モミジ組は勇気ある人限定提供にルミナの試食の様子を見て急遽指定された。
そりゃあんな辛そうな餅と無害そうで超すっぱい餅を用意したら一般提供は出来ないだろうよ。試食した時のルミナの反応はなかなか良かったが。
そして何より目を見張ったのが一位のユキとリミの出した餅。
まさか餅を白玉風にしてミルクティーの中に入れてくるとは思いも寄らなかった。
甘さを控えたミルクティーと砂糖と樹液を練りこんで甘さを強くした白玉餅の相性は最高で、今後レストランで出してくれるよう頼んだぐらいに美味しかった。
「ユキの料理はいつも驚きをくれるんです」
「もー、リミちゃん褒めすぎだよー」
壇上でインタビューを受ける二人の様子が微笑ましい。
ユキの料理の才能は目を見張るものがあるが、それを才と見抜いて認め、サポートできるリミも凄いと俺は思う。
見渡してみるとここにいる人達は皆何かしらに秀でている人物ばかりだ。
「どうしました?」
「ん?いや、皆凄いなってね」
サチに思った事を素直に話す。
するとサチはパネルを開いて俺の言った事を記録する。
「・・・サチ、もしかして・・・」
「私達は本当に幸せ者です」
「いや、遠い目をするな。それと凄い速さで記録するな」
「大丈夫です、直ぐには公開しませんので」
「裏を返せばいつかは公開するってことだろ。大したこと言ってないんだから勘弁してくれ」
「仕方ないですねぇ。では記録するだけに留めて置きます」
「そうしてくれ」
止めてはくれないようなので恥ずかしくない思いをしないで済むところで譲歩する。
どうせ俺の知らないところで流れるんだろうけど。知らなければ恥ずかしくない、そう思うことにしてる。
そんなやりとりをサチとしていたら司会のワカバとモミジが締めに入っていた。
「それではこれにて第一回餅搗き大会を終了いたします!またの参加お待ちしております!」
「またきて」
二人が締めくくると拍手が沸き、それが落ち着くと各々残った人と話したり帰路に着いたりする。
俺とサチは挨拶に来る人や農園の子達と少し話して元の農園の活気に戻るぐらいになってから家に帰った。
帰宅後、家のテーブルに夕食という名の今日の餅搗きで皆が振舞った餅料理が並ぶ。
「今日はとことん餅尽くしだな」
「食べ損なったものもありましたので、あらかじめ少量貰っておきました」
「うん、それはありがたい。ありがたいが・・・」
そう言ってテーブルの上の餅の一部を見てからサチを見ると俺の意図を汲み取ったのか目を反らす。
「なんでルミナが悶絶した餅まであるんだ?」
「さ、さぁ?」
恐らく思ったより美味しそうな餅料理が並んだので慌てて確保したのだろう。
そしてその中にはルミナが悶絶したワカバとモミジをはじめとした限定配布指定された餅料理も含まれていた。
「どうしたものかな・・・」
「ひとまず今日は好評だったものだけ食べるというのは?」
「・・・うん、そうしよう」
この癖の強い餅をどうにか食べられるよう攻略するのはちょっと面白そうだが、時間の余裕のある時にじっくり料理したいところだ。
特に今日ユキ達が見せてくれた料理に感化されたというのもあるし、色々挑戦してみるのも悪くないだろう。
とりあえず今日はこの美味しそうな餅料理を美味しいうちに頂こう。
「慌てて食べると喉に詰まるから気をつけろよ」
サチによく噛んで食べるよう言いながら俺も餅料理に手を伸ばした。
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