新種の動物への反応

新種の動物の設定を決めた後、俺はサチの案内である場所に来ていた。


「ここか?」


「はい」


やってきた浮遊島はどこにでもありそうな風景で、しいていえばちゃんと人の手が入って整備されていて池の周りや島の縁に柵があったり道に石が無かったりと安全面に力が入っているところだろうか。


俺とサチが向かう先の広場には天機っ子らしき子供達とその相手をする大人が数人見える。


「あ、ソウ様、サチナリア様、ようこそおいで下さいました」


「あれ?リゼ?」


「はい、御無沙汰しております」


俺達に気付いてこちらに来て挨拶してくれたのは以前情報館で名付けしたリゼだった。


「リゼにはここ、特殊天機人養育施設の管理人をして貰っています」


「へー、そうだったのか」


「はい!サチナリア様には本当に、本っ当に!感謝しています!」


聞けばリゼは元々子供好きで、情報館のちびアリス溺愛者の一人だったのでサチと意気投合し、度々情報交換をしていたらしい。


そんな中、天機っ子の再調整の一環で養育施設の話が研究施設からあったのでサチが打診したところ二つ返事で承諾してくれたとのこと。


「助かるよ」


「いえいえ、こちらこそ子供を持つ機会が少ない我々天機人にとって天機っ子は新たな希望です!」


「そ、そうか」


興奮気味のリゼにちょっとたじろぐが、そうか、希望か。


確かに現在天機人同士の子供はかなり少ない。


そもそも天使と天機人の子供やちびアリスのような姿の天機人ですら少ない。


天機人が子供を持つことは可能ではあるが色々と条件が揃わないので難しいというのが現状だ。


そんな難しいとされた天機人の子持ち問題の一つの光となっており、最近天機人達の間で密かに噂になっているのがこの天機っ子だ。


元々天機人は誰かの世話をするという生まれ持っての性質があるのだが、中でもリゼのように子供の世話をしたいという気質が強く出る子がいる。


しかし子供の絶対数が少ないこの生活空間では必ずしもその希望が叶うわけではないそれは研究施設でも一つの問題として挙げられていた。


そんな中起こったのが天機っ子生誕事件。


研究施設としては内々に処分してもよかったようだが、現場に居た俺が天機っ子をちゃんと人として扱うように言ったことで模索を開始。


子供の世話をしたい天機人達から非常に好評な様子を見て改めて一つのプロジェクトとして立ち上げ、養育施設の建設をして経過観察をしているのが今。


ただ、まだ問題は残っていて、一般の天機人の希望は叶えられる状態にはなりつつあるが、当の天機っ子達に対しての課題がまだ残っている。


生誕事件の時、俺は天機っ子もちゃんと人の役に立てるようにするようにと言った。


一応一般の天機人の希望を叶えるという役割は出来ているが、目的も無く世話されるだけの存在というのは天機人としていささか問題があるのではないかという声が研究施設内からあがっていた。


そこで新種の動物の世話をするという仕事を設け、天機っ子もちゃんと仕事を持っているとアピールしようというのが最終的な目的だ。


今日はその第一歩の新種の動物の召還を行い、天機っ子達と触れ合わせる。


問題ないようならそのままここで天機っ子達と一緒に生活して貰い、将来的には数を増やして専用の島に放し飼いで世話してもらうつもりだ。


「では早速試験運用の手続きを進めたいと思います」


「了解です。こちらへどうぞ」


リゼの案内で広場の横を通り、建物へ移動する。


広場で天機っ子が俺達を不思議そうな顔で見送ってたので軽く手を振ったが無反応だった。さすがに覚えてないか。仕方ない。




建物の中へ入ると研究施設の人達が出迎えてくれた。


「お久しぶりです、ソウ様」


「久しぶり。出迎えご苦労さま」


研究者代表としてエミオが挨拶してくれるので返す。


「随分集まったな」


「えぇ、希望者を募ったところ思ったより多く集まってしまいました」


集まった研究者の目的は様々なようで、プロジェクト関係者、新種の動物が気になった人、俺やサチに会いに来た人、そしてかなり不安そうな顔をしたのが一人。


「よ」


「お、おう。久しぶり、だ」


俺を前にしてどう対応していいのかわからないのか、しどろもどろする天機っ子達を生み出した研究者の男。


「ちゃんとお父さんしてるか?」


「それは勿論。言われた通りちゃんと言葉を教えて意思疎通できるようにしたぞ」


「あぁ、外で話してる姿を見た。よくやったな」


「そりゃもう子供達のためならなんだってするさ。だから頼む、いい動物を生み出してくれ」


「わかった。任せておけ」


「頼むぞ!」


わかったわかった。まったく、過保護な父親だ。


研究施設からこの男の状況と共に送られてきた本人が書いた報告書をここに来る間に見せて貰ったが、ただの子育て日記だったからなぁ。


まぁ自分の子供達が関わる事だから不安にもなるか。俺も多分その立場だったらそうなるかもしれない。


「サチ、準備はどうだ?」


「あと少しで終わります・・・完了しました。いつでも始められます」


「よし、じゃあ新種の動物の召還を始めよう」


そう言って期待と不安が入り混じる視線の中、俺とサチは新種の動物の召還を始めた。


召還は基本的に浮遊島を召還するのと同じで、あらかじめ設定しておいたものを亜空間から呼び寄せるものだ。


ただ、今回はちょっとしたパフォーマンスが含まれている。


「むん!」


サチが展開した魔法陣の上に立ち、右手を前に出して力を入れたような表情をする。


そして皆に見えないよう小さくされたパネルに承認と書かれたボタンを左手でこっそり押す。


すると右手の先の空間に亀裂が走り、中からゆっくりと光の玉が現れる。


「はっ!」


声を出すと光の玉は四つに分裂し、それぞれ両手で持てる程の卵型の球体になりゆっくりと魔法陣の上に落ちる。


卵から光が発せられなくなるとコロンと倒れ、ピシッと卵に亀裂が入る。


「なー・・・」


「くーん・・・」


中から猫と犬がそれぞれ二匹ずつ、小さな鳴き声と共に顔を覗かせると見ていた人達から声が上がる。


「お、おぉ・・・。これが新種の動物・・・」


「か、かわいいっ!」


研究者脳の人は純粋に興味の視線を、それ以外の人はその愛くるしい姿に思わず笑みがこぼれている。よしよし、いいぞ。


俺がサチと相談して決めた新種の動物は犬と猫にした。


犬は大き目の耳がペタンと寝ている子犬と小さい耳が立ってる子犬。


猫は白い産毛が少し残る短毛な子猫とモフモフした毛の長毛な子猫。


ここまでは下界でも見られる子供の犬と猫と同じ特徴だが、それに加えて生み出した子には独自の特徴がある。


まず、体が比較的大きい。


下界の仔犬仔猫と比べれば倍ぐらい大きいかもしれない。子猫より子虎の方がしっくりくるかもしれないぐらいだ。


次にこの姿が維持され、これ以上体が成長しない代わりに知能指数が高い。


どのぐらいかと言えば、下界のお掃除スライムぐらいだろうか。


こちらの言葉を理解してそれなりに考えて能動的に動けるぐらいには知能がある。


そして最後に大きな特徴がある。


「おいで」


しゃがんで優しく呼ぶと四匹はフワッと浮いてこちらの胸に飛び込んでくる。至福。


四匹の背中には真っ白な小さな羽が付いていて俺に鼻をなすり付けてる最中もパタパタと動いている。


どうして羽を付けたのかというとこの羽で体調や体内のマナの状態を分かりやすくするためだ。


・・・建前は。


本当のところはただ単に可愛いからというだけだったりする。


犬と猫を召還することを決めた後、追加で何か能力を付けようかと色々試している最中に俺が試しに羽を付けてサチに見せたところ、悲鳴に近い声を上げて気に入ってしまったので外すに外せなくなってしまったのは秘密だ。


「よしよし・・・。うん、落ち着いてきたな。サチ、リゼ、エミオ、ちょっと持ってみてくれ」


三人にそれぞれ一匹ずつ渡し、抱き方を教える。


「可愛いですねぇ」


「ちょ、ちょっと、そんな動かないでよ」


天機っ子の世話をしていたおかげかリゼはあっという間に抱き慣れる中、エミオは腕の中でうにうに動き回る子犬に悪戦苦闘している。


「・・・」


そんな二人の中、サチは子猫を抱えたまま目を閉じている。


・・・あぁ、感動してるのね。よく見ると小刻みに震えている。泣くなよ?泣いたらばれるからな?


今抱いてる人達がある程度落ち着いたら他の人にも触れてもらおうかな。


ただ、動物達も突然沢山の人に触れられると辛くなってしまうだろうから程々に、自分がこの人ならって人を選んでもらうのがよさそうだ。


さて、そろそろ俺のところにいる子も他の人に・・・ん?もう少しスリスリさせろ?まぁいいけど。お前さんは他の子より甘えん坊のようだな。他の三匹もそれぞれ個性が出てるみたいだ。よしよし。


とりあえず手始めにこの四匹を天機っ子達に会わせ、ここで世話してもらって様子を見るつもりだ。


しばらくの間は研究者達の出入りもあって大変かもしれないが、その辺りは次第に落ち着くだろう。


その後天機っ子達が上手に世話できるようであれば動物の数を増やして二人か一人で一匹世話できるようにしていきたい。


問題があるようなら適宜リゼ達と相談しながら考えていこうと思う。




「はぁ・・・」


家に帰ってからというものサチはずっとこんな感じでボーっとしては溜息を付いている。


新種の羽の生えた犬と猫を召還した後、天機っ子とも少し話したがちゃんと意思疎通できるようになっていた。


ただ、代わりに俺を神、サチを主神補佐官とちゃんと教育されていたのでちょっと距離を取られてしまい、仲良くなるまで少し時間がかかった。


時間は掛かったものの、その後は学校の子供達同様仲良くなり、それぞれの呼び方も決まった。


「フフッ・・・さーちゃたま・・・フフフッ」


あー、また始まった。


どうも天機っ子達のサチの呼び方、サチナリア様が舌っ足らずになったさーちゃたまという呼ばれ方がとても気に入ったようでさっきから思い出してはにやけている。


「まだ余韻が抜けないのか」


「それはもう!あんな至福の猛攻を受けて平気でいられるはずありません!」


「そ、そうか」


現地では研究者達の目もあってか抑制していた感情が溢れ出ている。気持ちはわかるが俺にぶつけないでいただきたい。


もういいや、放って料理でもしよう。


・・・。


「あのな、サチ、そんな後ろに張り付かれるとやり難いんだが」


後ろから抱くサチに言う。少し危ないが感触が良いので放そうとはしない。


「問題ありません。そーたま」


「そーたまいうな」


そーたまというのは天機っ子達が呼ぶ俺の呼び名だ。


最初かみさまがかみたまになり、かたまになってどんどん原型が無くなって来たので、せめてまだ分かる方に頑張って軌道修正した結果そーたまに落ち着いた。


「何作るのですか?」


「今日消費してしまったお菓子をな。まさか動物達も欲しがるとは思わなかった」


天機っ子に動物達を会わせる際にお互い警戒してしまったので食べ物を与えることで警戒心を解こうとした。


結果は上手くいき、撫でるぐらいまでは可能になった。


ただ、その後おやつに出したクッキーを天機っ子が興味本位で動物に与えてしまったところ動物達がクッキーを気に入ってしまい、もっとくれ、自分もあげたいと動物、天機っ子双方から言われ思いのほか消費してしまった。


幸いクッキーなら情報館の方でも作れるので、今後はリゼを通しておやつとして振舞われる事になった。


「クッキー以外も作るのですか?」


「うん。天機っ子達とリゼ達の分な。特に天機っ子はまだ農園に食べに行くとか出来ないだろうから」


「なるほど!お菓子を幸せそうに食べる様子を眺めるのですね!」


「あ、うん、まぁそうかな?」


俺は普通に喜んでもらいたかっただけなんだけど。学校の子供達にもしてることだし。


「動物達の分は好みの傾向が分かってから何を作るか考えよう」


「それが良いかと。研究者達から報告が来るでしょうから」


「うん。興味があるのはわかるが、あまり熱心になりすぎて動物達の迷惑にならないかちょっと心配だけどな」


「そこは大丈夫でしょう。私達は同志ですから」


「あぁ・・・そうだね・・・」


同志と聞いて少し視線が遠くなる。


天機っ子と動物を会わせて仲良く戯れてる様子を見た現場の大人達は全滅だった。


サチやリゼは勿論のこと、動物を調べようとしてた研究者達や天機っ子のお父さんもダメだった。


俺も可愛いとは思ったが、下界で似たような様子を沢山見ていたおかげで被害は軽微だった。


だが、何故かその場で結成された仮称、可愛いものを愛でる会の会長にさせられた。理不尽。


副会長はサチ、リゼ、天機っ子のお父さんの三人でそれぞれ情報共有をしていくらしい。


そのうち情報館のちびアリス派とかも加入する気がする。巨大組織になりそうでこわい。


ちなみに活動理念は可愛いものに嫌われないようにすることと極力ばれないように秘匿して活動する事の二つ。


「嫌われたら生きていけない」


「子供達に気持ち悪いとか言われた日には俺はもう・・・」


と、軽く話題に出しただけでこの有様だったのでこのような活動理念になった。


ただ、そう思って活動してても思わぬことで怒らせたり嫌われたりするからなぁ。上手く関係を築きたいものだ。


・・・まさか俺が会長に選ばれたのはそういうところか?


「・・・?なんです?」


「いや、なんでもない。とりあえず報告が来たら教えてくれ」


「了解です」


やれやれ、そのうち泣き付かれて来そうな予感がするが、今は考えないようにして上手くやってくれる事を期待しよう。うん。

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