新種の動物

下界の魔族の東の領関係で動きがあった。


中央都市の東口から調査隊らしき集団が出発したようだ。


集団は三つの組に分かれ、それぞれ北東、東、南東へ進んで行った。


残念ながら中央都市から少し離れてしまうと視野範囲外になってしまうのでその後の動きが追えなくなるが、東と南東へそのまま直線で進めば再び確認する事はできるはずだ。


淫魔種の集落から中央都市へ応援を求めて結構な時間が経ってやっと動いたが、どうなるかは正直未知数だ。


動くまでの間にオアシスの街の人達のおかげで集落はなんとか持ち直せそうな状態まで回復した。


それは集落にとっては良いことだが、果たして中央都市にとってよかったかはわからない。


願い事を消化しながら状況を確認していると、数日後に集落側の視野範囲に調査隊の姿が映った。


ほぼ同時期にその北の変異した土地にも姿が現れた。こちらは早速調査を始めている。


集落に着いた調査隊だが・・・あまり良くない状態だな。


魔族領では少数派の人間種、オアシスの街からの人達が集落に滞在していたのが第一印象としてよく思わなかったようだ。


集落の人達が間に入ったおかげで戦闘こそ行われなかったが一時一触即発の雰囲気になってたし、うーん、大丈夫だろうか。


柔軟な思考を持ってる人が居ればいいんだが・・・あー、リーダー格の人は変異した土地の方にいる。


変異した土地の調査が終わり次第集落の方へ南下してくれれば状況は改善する可能性はあるかもしれないが、現在はあまり良くないな。


中央都市の人からすれば助力を求めて来たから隊を率いて出向いたら既に別の土地の者が来ていて、集落の人もそれを受け入れていると見える。


集落の人からすれば助力を求めたのに即座に動かず後からやって来て恩人に対して悪態を付く人達として感じる。


オアシスの街から来た冒険者達は・・・お?意外に根に持ってないようだ。なるほど、経験の差か。オアシスの街ではいざこざなんて日常茶飯事だからな。


とりあえず冒険者達は静観するようだが、さて、集落の人達はどう動くかな。


今は調査隊の人達に現状を説明している段階だが、この先の態度や判断が大事だぞ。


最悪中央都市から裏切り者の魔族として攻め込まれる可能性もある。


都市内には魔鏡があるからあまりそういう思考になる人は出てこないとは思うが、東の領を安定化させるという善意の名目を作ってしまえば動けなくは無い。


出来れば平和に解決して欲しいところだが、まだ集落の人は信者になってないし、強い願いもしてないので今のところは俺が動く事はない。


例えそれが集落を追われて全員でオアシスの街に移動する事になっても願いが無ければ動かない。


動かないぞ、うん、動かないんだ。


「はー・・・」


「大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫。ちょっと気持ちを強く持ち直しただけだ」


「そうですか。無理しないでくださいね。仕事終了まであと少しですので、頑張ってください」


「あいよ」


神の仕事をしてると定期的にこうやって自分を強く律しなくてはと思う時が来る。


弱いなぁ俺。


会合で精神が強くなる秘訣を聞いておけばよかった。


とりあえず今は状況が悪化しないといいなと思いながら目を離さずしっかり観察しようと思う。




仕事終わり、サチが意を決したような表情でこちらを見ながら提案をしてきた。


「ソウ、提案があるのですが」


「ん?なんだ?」


「生活空間に新種の動物を生み出してみませんか?」


「新種の動物?詳しく」


「現在生活空間には下界に生息しているような動物が少ないです。居たとしても決められた浮遊島内でのみ生息できるような限定的な動物ばかりです」


「言われてみれば確かに見かけたことないな」


「基本的に動物がいる浮遊島にはちゃんと管理人がおり、自由に出入り出来ないため私も案内したことがありませんので仕方ないかと」


「そうか。それでなんで今回そんな提案を?」


「一つは神力に余裕が出てきたというのがあります。日々の仕事や浮遊島の召喚などで消費していますが、それを十二分に賄える量の供給量になってきています」


「ふむふむ」


「もう一つはソウの神の仕事を認知させる目的があります。現在生活空間では料理をはじめとしたソウが行った事の影響が多少出ていますが、それの多くは人として行ったもので、神として行ったものは浮遊島の召還ぐらいしかないのでもう少しソウの神としての功績を増やし箔を付けようという目的があります」


「箔・・・いるか?」


「必要です。具体的に言うと功績でしか評価できない人がいるので、そのような人達の信用を得るために必要です」


「うーん、出来れば俺そのものを見て欲しいんだが」


「言いたい事はわかりますが、会うきっかけにすらなりませんので、何かで協力を得る必要があった時の口実作りと思って下さい」


「ふむ・・・。まぁそういうことなら仕方ないか」


「大丈夫です。ここまでは建前ですから」


「・・・え?」


「重要なのはここからです。今回新種の動物を生み出して欲しいと思ったのは以前問題になった子供姿の天機人のためです」


「天機っ子のことか?」


「はい。言語問題はある程度解決したのですが、天機人としての性能向上は難しいと報告を受けています。そこで彼らを新種の動物の世話人にしてみてはどうかと」


「動物の世話人か・・・。結構大変じゃないか?勤まるのか?」


「下界に生息しているような動物でしたら大変かもしれませんが、彼らが世話する事を念頭に置いた新種の動物だったらどうでしょうか」


「あー・・・なるほど、そういうことか」


要は適した仕事を用意してあげられないので、それならいっそ彼らに向いた新しい仕事を作ってしまえというのが今回の目的か。


「わかった。やろう」


「ありがとうございます。では準備します」


そう言ってサチは仕事する時と似たような状況を用意し始めた。




仕事場に新たに出来た新種の動物生成用の作業場に座り、サチに聞く。


「で、どんな動物生み出すのがいいと思う?」


「・・・」


さすがに全く参考資料のない状態から生成するのには無理があると思い、方向性を知るためにサチに聞いたのだが何故か黙ったまま視線があちこちに泳いでいる。


「・・・サチ?」


「すみません、その・・・出来れば、か・・・い動物・・・」


「サチ、怒らないからちゃんと言う」


静かな場所なので何て言ったか聞こえていたが、あえてちゃんと言わせる。


「わかりました。えっと、か、かわいい動物がよいのではないか、と・・・」


「ほうほう、可愛い動物かー。つまりあれだ、前に俺が下界の集めてた画像のような仔猫や仔犬がいいんだな?」


「う・・・。そう、です」


「じゃあその方向でいこう。候補を用意してくれ。あ、それと言っておくがちゃんと俺も考えた上で許可出してるからな」


「あ、はい、ありがとうございます」


最終責任は俺にあることを伝えるとサチは不安そうな表情からいつもの補佐官の顔に戻り候補を探す作業に移った。


サチ的には私利私欲で職権乱用してるのではないかという負い目があるようだが俺からすれば全く問題はないように思う。


そりゃなんでもかんでも可愛いを基準に物事を決めるようであれば問題だが、サチはそんなことするような奴じゃないし。


ま、動物好きなのを表に出すのが不安だったんだろうな。俺はとっくに気付いてたけど。


二神のお供と戯れた後、別れ際に一瞬寂しそうな顔したり、時々下界の動物の子供の画像見てデレっとしてたり、気付かない方がおかしいと思うが、俺も俺で指摘しなかったし、上目遣いで言ってきたのが可愛かったので結果オーライとする。


「用意できました」


「あいよ」


俺から正式な許可が出たのでいつもよりご機嫌な様子で候補資料と一緒に自分もやってきて俺の隣に座る。


・・・結構な量の候補種があるんだけど?これでも厳選した?本当か?


やれやれ。仕方ない、しっかり見て決めていこうか。

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