-リミの日常-

私はリュミネソラリエ。


元警備隊所属、現農園員。


警備隊時代はリュミネって呼ばれていたけど最近はリミって呼ばれてるわね。


どっちの呼ばれ方が好き?んー、今の方が好きかしら。理由は・・・まぁ色々よ。


「リミちゃんおはよう」


「おはよう、ユキ」


朝、鏡の前で髪を梳かしながら今日のコンディションを確認しているとユキが寝間着のまま挨拶をしてくる。


「んー・・・今日は右かなー」


私と同じ鏡を見ながらユキは小さな髪留めで前髪の右側を留める。


最近私の親友は前髪の片側を髪留めで留めるようになった。


「お気に入りね、それ」


「うん。折角貰ったのだから着けなきゃね」


誰から貰ったか勿論私は知っている。


そりゃ貰った日にどう扱うべきか、何処に着けるべきかと興奮しながら夜遅くまで相談受けたから。


「大切にしなさいよ」


「もちろん。リミちゃんのそれぐらい大事にする」


「なっ。わ、私は別にこの櫛そんな大切に扱っていないわよ」


「ほんとぉ?この前日の光に掲げて眺めてたよね?」


「ちがっ、あれはヒビが入っていないか確かめてただけで」


「ほら、やっぱり大切にしてるじゃん」


「ぐっ・・・」


この手の言い合いになるとユキの方が一歩上手になるのか勝率が悪い気がする。


まったく・・・これだから円満な彼氏持ちは・・・。


・・・ふふ、私達の関係も随分変わったと改めて嬉しく思う。


ユキとは警備隊時代からの同僚ではあったが、今ほど親交は無かった。


仲良くなったのはこっちに来てから。


警備隊時代の雰囲気がまだ抜けない時、気に掛けたのが最初だったっけ。懐かしい。


「・・・?なんだか嬉しそうだね、リミちゃん」


「ん?ちょっと昔を思い出してただけ。あのユキがまさかこの私を言い負かせるような日が来るようになるとは、とね」


「ちょ、やめてよー。恥ずかしいー」


照れながら肩でドンドンぶつかって来る。ふふ、一矢報いた気分。


親友だからこそ出来るこのコミュニケーションはいつでも楽しい。


そんな感じでユキとじゃれ合っているとのっそりとした動きで新たな人がやってくる。


「ハヨリーヌ」


「はよりーぬー」


「おはよう、モミジ。そろそろ挨拶の原型無くなるわね」


「まだセーフ」


「まだの基準が謎だわ。で、その腰から下げてるそれは何?」


「姉さん」


「それは見ればわかるわよ。何してるの?」


「モミジちゃん成分補給中ー」


モミジの腰にしがみついて成すがまま引き摺られているワカバが答える。


「重くないの?」


「リミ」


「なに?」


「フラれて泣きつく男の図」


「ぶふっ!」


警備隊時代に全く同じ状態に遭遇した事を思い出し、つい噴き出してしまった。


私にウケたことに満足したのか、モミジはそのままワカバを腰から引き摺ったまま廊下を歩いていった。


「仲いいねー」


「そ、そうね」


その一言で済ますユキも凄いと心で思いながらも今日も一日楽しく過ごせそうな気配を感じた。




朝礼が済むと私達は自分の担当する農地に向かい各自作業に当たる。


「キュ、キュー。キュキュッ」


「ふむふむ、あっちの果樹の土が若干水不足と。しかしこっちの土も同じ感じですがいいのですか?」


「キュン、キュッキュッ」


「なるほど、こっちは水を少し減らすと実がより甘くなるのですね。勉強になります」


私の担当は大半が果樹なので一度実を付ける樹になってしまえば他の人より作業量は多くない。


でも最近仲良くなった地の精によればまだまだ品質を上げられると言われたので現在品質向上に取り組んでいる。


樹になってからでも地質や水分量などで樹に変化が起きるなんて教えてもらわなかったら気付かなかったと思う。


前からこの農園に地の精がいたのは知ってたけど今のような交流は無かった。


何を言ってるかわからなくて何となくしか理解できていなかったから邪魔しないようにするぐらいの感覚だった。


ところが最近になって地の精の翻訳が出回るようになり、前に比べて話せるようになったおかげで一気に距離が縮まり今のような関係になった。


「キュッキュッ」


「えっと、これですか?」


「キュ」


地の精は勝手に果実を取ったりはせず、私達が居る時に求める時がある。


形や色が悪く、味もちょっと変な奴で前は切ってその辺に棄ててたものなので、こちらとしては願ったり叶ったりで大助かりだったりする。


なんでもこの変な実は過剰なマナ蓄積による変質品で、マナ量が多いものが好きな精霊には丁度いいらしい。


地の精は前は落ちてたのをこっそり拝借してたのを今は堂々と貰えるので嬉しいって言ってた。


「では次の樹に行きましょうか」


「キュ!」




今日は配給担当の日なので農地での作業を早めに切り上げ、専用の衣服に着替えてレストランに行く。


「ねぇちゃんー、俺とぉー一緒に飲もうぜぇー」


レストランで麦酒を提供するようになってから低頻度でこのような酔っ払いが発生するようになった。


湧酒場の酒と勝手が違うのでその喉越しの良さに一気に飲み干してしまう人がこのようになってしまう事が多い。


酔って突っ伏して寝てしまうとかなら混雑じゃない限りそのまましばらく放って置いてあげるんだけど、私達や他の客に絡んでしまうと話は変わってくる。


「ルミナテース様ー。四番です」


「はいはーい」


迷惑客対応の番号を言うとルミナテース様は酔っ払いの首を掴んで力任せに出口へ引き摺っていく。


連行される男は手足を動かして抵抗するが微動だにしない。


こういう時のルミナテース様はとても心強い。いつもこんな感じならいいのに。


出口には新規客などの対応のために案内担当が必ず一人いるのでその子が浄化の念を掛ける。


「十日間出入り禁止でーす」


酒気が抜けたところで外に放り投げて出入り禁止を言い渡し、対応終了となる。


本当なら警備隊を呼んだほうがいいのだろうけど、私達は元警備隊員なのでその辺りの対応方法は弁えてるし、警備隊から農園で対応してしまっていいとお墨付きも貰ってるのでこちらの裁量で対応している。


それに今のところこの対応による苦情は出ていない。


十日間の出入り禁止というのも絶妙な日数だと私は思ってる。


この辺りの裁量を設定したサチナリア様はさすがだと思う。見習いたい。


「すまんが注文頼む」


「はい、お伺いします」


シロクロ席で注文が入るので向かう。


「一口サンドを二皿。具は・・・何かおすすめある?」


「人気はタマゴサンド、サラダサンド、フルーツサンドですね。あと、最近カツサンドをはじめました」


「お?カツサンド?なんだそれ」


「トンカツとキャベツを挟んだものです。サラダサンドと違って肉メインの肉厚のあるサンドです。ボリュームがあって食べ応えありますよ」


「いいね。じゃあカツサンドとタマゴサンドを頼む」


「かしこまりました。ではこちらがカツサンド、タマゴサンドになります」


空間収納からあらかじめ作っておいた一口サンドを出す。


「あとこちらカツサンド用の辛味ソースです。お好みでどうぞ」


「わかった。ありがとう」


提供が終わり席を離れて屋内が見渡せる位置に戻ってパネルを開き、共有在庫から自分の空間収納内の在庫を減らし、現在の総在庫を確認する。


ふふ、私の考案した一口サンドはなかなかの人気なようだ。


当初シロクロ席を設ける事に反対が起きたが、ルミナテース様が面白いものはあった方がいいと半ば強引に作ってしまったのがあの席だ。


仕方なくシロクロ席にも料理提供をしてたが他の席と違って料理の進みがイマイチ良くなく、冷めてしまう事もあった。


折角作った料理を無下にされ、一部の人達からやはり席は撤去したほうがいいのではないかという相談も受けた。


ただ、シロクロを置いてからそれを目的に来る人が現れ、名勝負が行われる度に話題になってレストランに来る人が増えている状況を無くすのは勿体無いという気持ちが私にはあった。


困った私はこちらにいらしてたソウ様に心の内を話してみた。


「なるほどね。んー・・・逆に考えてみたらどうだろうか。シロクロをする人達でも美味しく楽しめる料理を考えてみたらどうだ?」


「逆に・・・」


「レシピ集の中に適した料理があるよ。参考にしてみてくれ」


「わかりました。やってみます」


ソウ様のアドバイスを元に気軽に食べられる、時間が経って冷めても味が落ちない、テーブルをあまり汚さないという料理を求めた結果、出来上がったのがあの一口サンドだ。


苦労した甲斐あってかシロクロをやる人の中では最早定番品になっている。


それに作るのもそこまで難しくないので、料理の上達が遅い人や新入りの食材研究士達の練習にも丁度いい料理になっているのも嬉しい誤算だ。


私はどうにも新しい料理を生み出す事が苦手だったので、これを生み出せた事は一つの自信に繋がっている。


ただ、これで満足してはいけない。


だって私には最高の好敵手な親友がいるのだから。




夜。


いつもの四人で料理研究会をする。


昔は私達四人だけ調理室にいたが、今は別のグループも出来ていてお互いの料理について話し合うようにもなった。


「ねぇユキさん、これどう思う?」


「うーん、ちょっと味がぼやけてるかな?鋭くするか柔らかくするかどっちかにした方がいいと思う」


「さすがユキさん。ありがとう参考にしてみる」


別のグループが出来るようになってからこのようにユキに相談する人も増えた。


実際ユキの料理のセンスは飛び抜けていると思う。そこは私も認めている。


ただ、普段料理以外のことは私に相談する人が一切私に料理の相談をしてこないのはどういうことなんだろうか。


そりゃまだまだ料理の腕は及ばない部分はあるけど、それでもユキの次ぐらいの腕だと思っているんだけど?


釈然としない気持ちを抱えていると横からワカバが話しかけてくる。


「リミちゃん!味見して!」


「え?えぇ、いいけど?」


「本当!やった!」


味見を頼まれ少し嬉しい気持ちで生返事をしてしまったのを差し出された皿を見て大きく後悔した。


「な、なにこれ・・・?」


「レベル六がついに出来たよ!」


「六!?そんなの最早毒物じゃないの!」


「そんな事ないよー。モミジちゃんも食べられたんだよ?」


そういうワカバの後ろで倒れているモミジが目に入った。


「モミジちゃん!しっかり!」


「・・・バイオ兵器」


駆け寄るユキにそう言ってモミジは事切れたようにぐったりした。


「モミジー!!」


ワカバが辛味料理に目覚めてからというもの定期的にこんな事が起きるようになった。


ほら、浄化の念を掛けるから!ワカバはその危険物を仕舞ってちょうだい。味見?するわけないでしょうが!


あーもーほんっと世話が焼けるんだから!


とはいえ警備隊時代と比べ別の慌しさはありつつも日々楽しく過ごせてるなと思う。


誘ってくれたルミナテース様には感謝しなきゃ。


図に乗るので心の中でしかしないけどね!

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