爆発の再現
「ふむ、くしゃみをしたら爆発が起きたと」
「グァー」
岩に適当に座った俺の膝の上で火の精がくつろぎながら経緯を教えてくれた。
少し前からこの島に棲み付くようになった火の精はのほほんと新生活を満喫していた。
特に誰かやってくる事もなかったのでとても平穏だった。
今も漂っているがこのスパイシーな匂いも気に入っており、出入りしやすい地表に若干露出している石を棲家に決めて精霊石化を進めていた。
しかしある日この匂いが濃くなり始めた。
特に気に留めてなかったが、次第にそれは強くなり視界も悪くなってきた。
そして今日、匂いに耐え切れずくしゃみをしたら大爆発が起き、家の精霊石も割れ、驚きと家が壊れた悲しさで力が制御できなくなってしまっていた。
「そうか。さぞ怖かっただろう」
「ゥー・・・」
頭を撫でてやると少し恥ずかしそうに唸る。
「くしゃみで爆発・・・。すみません、警備隊で探して欲しい物があるのですが」
「はっ、なんなりと」
「恐らくこの島内に漂っている匂いの正体があるはずです。それを調べてきて下さい。火の精からの情報は適宜こちらから送ります」
「わかりました」
そう言ってフラネンティーヌとルシエナは他の警備隊達に指示を出すために飛んで行った。
「何か思い当たる事でもあるのか?」
「えぇ。合っているかはまだわかりませんが」
「そうか。原因が分かれば対策も出来るから見つかるといいな」
「グァー」
どうもこの火の精は他の火の精より暢気な性格なようで、さっきあれほど取り乱していたのにこの地を離れる気は更々無いようだ。
「しかし大きくなりましたね」
「そうだな」
俺とサチで膝の上にいる火の精を見る。
実はこの火の精と会うのは二回目だったりする。
以前サチと浮遊島巡りしていた時に見かけた子だった。
当時はもっとトカゲっぽかったが今はどちらかといえばミニドラゴンという方が正しい姿になっており、本人から言われなければ気付かなかった。
俺が火柱の中に手を入れて触れた時も警戒しなかったのは以前嗅いだ事のある匂いだったから素直に受け入れられたらしい。
最初匂いといわれて変な体臭でもあるのかと思って自分を嗅いで確認したが、そうではなく精霊独特の感性によるもので俺達が嗅ぐ匂いとは別に違う匂いがあるようだ。うーん、わからん。
「でも良かったな、早くに見つけられて」
「そうですね」
「ゥー」
「あぁ、責めてるわけじゃないぞ。無事でよかったって意味だ」
「グルゥ」
「まだまだ若いんだ。失敗する事もある。次はしないように気をつければいい」
「グァー」
「ははは、わかったわかった。またそのうち来るよ」
見た目は成長したがまだまだ子供の精霊だ。頼りたい相手が欲しいようだ。
この島は俺が召還した島のひとつだし、今後の様子見も兼ねて会いに来るのも悪くない。楽しみは多い方がいいからな。
しばらく火の精と話しているとフラネンティーヌとルシエナが戻ってきた。
「戻りました」
「どうでしたか?」
「これをご覧下さい」
二人の両手にはそれぞれ違う形をした実があった。
どの実も殻が付いていてその殻の一部に薄くヒビが入っている。
「これがこの島の匂いの原因ですか?」
「はい。この実が熟れて地面に落ち、更に腐敗が進んで自然と穴が開いた部分から島に漂う匂いと同じ匂いを検出しました」
「また、これらの実は中でガス状の気体と微細な種を生成し、穴が開いた瞬間勢いよく吹き出て種を拡散します」
「微細な種・・・。それは空気中に漂いますか?」
「漂います。放っておけば自然と地面に落ちますが地形や状況によって再度舞う可能性もあります」
「なるほど。大体わかりました」
報告を聞いたサチは立ち上がり、爆発跡の土の上に丸く円を描く。
「その実も穴が開けば種が噴出しますか?」
「恐らく。地面に落ちてる実の中で状態の良さそうなものを持ってきました」
「ではそれをこちらに」
「はっ」
サチは二人から実を受け取ると指先の念で小さい穴を開け、素早く円の中に四個全て投げ込む。
円の中に投げ込まれた実はスーと空気の抜けるような音から次第にシューと強く空気が吹き出る音に変わり、実の中から黒茶色の極小の種を含んだ煙のよなガスが吹き出始めた。
しかし煙は円の外から出ず、円の中をドーム状に黒く染めただけに留まっている。
「空気の層で密閉してるのか?」
「はい。ちょっとした実証実験をしています」
これは以前サチがルミナに対してやった念の応用だ。
俺は見たことあるが他の皆は物珍しそうに見ている。こら、ルシエナ、ドームを触って邪魔するんじゃない。
実の中からガスが噴出する音が収まると空気ドームの中は煙で真っ黒になり何も見えない程になった。
「これで最終工程です」
そう言って指先に小さな火の玉を作り、ポイとドームの中に投げ入れた。
その瞬間俺は無意識で何かを予知したのか、放られた火の玉がとてもスローに見えた。
あー・・・やばいぞこれ。
そして火の玉がドームの中に入った次の瞬間巨大な爆音と共に見ていた全員の視界が真っ黒になった。
サチは今回の爆発の原因がパネルの計測からある程度推定出来ていた。
そこで確証を得るべく警備隊に要因である実を取ってきて貰い、空気層の念で囲ったドームの中で再現を行った。
そして予想通り粉末と火種による爆発現象、粉塵爆発が発生した。
「サチー」
「す、すみません!地面側へ空気層の念を敷き忘れていました!」
頭から土を被ったまま全員でサチに詰め寄る。
確かにサチの空気層の念で爆発の衝撃も抑えられた。
しかしそれは土の上部分だけで、下の土側へ念が張られていなかった。
結果、爆発の衝撃で大きく土が抉れ、空中に撒き散らされた土がその場にいた全員に襲い掛かった。
「しかもどうしてサチは無事なんだよ」
「えっと、それは念のため空気層でバリアを作っていましたので・・・」
「ずるい」
「ずるいです」
普段従う側のフラネンティーヌとルシエナもサチに文句をぶつける。
でも二人とも顔や髪に土が付いてないんだよな。下半身の服に少し付いてるぐらいだ。
「二人なら何とか出来るでしょう」
「それはそうですが、事前に言って下さってもよかったではありませんか」
「それについては申し訳ありません」
「そ、それに、ソウ様が・・・くっ・・・」
「そ、そうですよ、こんなにモロに土が・・・」
二人は俺の方をわざと見ないようにしながらサチに抗議してくれている。してくれてるんだよな?震えてるけど、そうだよな?
「ち、違うんです、ソウの前にも空気層を展開したのに、そ、ソウってば爆発に反応して飛び退くから範囲外に出てしまって・・・ぶふっ」
あぁそうだよ、何となく嫌な予感がしたと思って咄嗟に横に飛んだよ。
まさか飛び退くより飛び退かない方が安全だったなんて考えないだろう!
さぞかし面白い格好になっている俺を直視できない三人に半ば呆れる俺の足下で火の精が自分に降りかかった土を体を強く振って払い落とす。
あのな、それすると飛び散った土が俺に付くんだけど・・・。
「・・・っ!!」
あーあー三人が追撃の入った俺を見て口に手当てて必死に我慢してるじゃないか。
これは怒るべきかどうしようか考えていたら爆発を聞きつけた他の警備隊員が駆けつけてきた。
「な、何事ですか!?」
「ご無事ですか!?」
慌てた様子でやってきた警備隊員達は俺の姿を見て動きが固まる。
「・・・ぜ、前衛芸術?」
一人が俺を見てそうぼやいた瞬間三人の笑いの我慢の限界を突破した。
くっそーあとで覚えておけよー!
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