廃墟島

「じゃあ夜中もあの島にいたのか?」


「そっすよー。夜は夜でなかなか面白いっすよー」


キノコの島からアンナマリカの言う子がいる島に移動中、更に詳しい事を聞いている。


サチは先ほど錬金術について質問責めに遭って疲れたのか静か会話を聞きながら俺を抱えて飛んでいる。


一応俺も答えたんだけどなぁ。


理論的なところになってしまうと理解しきれなくてサチ頼みになってしまったのがダメだったか。


後で何か甘い物でも作ってあげよう。


意識を話しに戻してアンナマリカが今回紹介したい子はキノコの島で夜中に会ったらしい。


なんでも教えたキノコ料理の影響でキノコ問題に対してアプローチを考えるべくキノコの島に頻繁に通っていたとか。


「これまで日中しか行ってなかったんすけどねー、もっと早く行けばよかったと思ったっすよー」


「そんなに面白い事があったのか?」


「そっす。キノコは夜中の間に増えるのは何となく分かってたんすけど、増え方が独特なんすよー」


「傘開いて胞子飛ばすんじゃないのか?」


「お!そうなんすよソウ君!さすが物知りっすね!」


「お、おう」


アンナマリカが褒めてくれるがそれに圧倒されたわけではなく、サチがギュッと強く抱きしめてきて返事が曖昧になってしまった。


サチの奴、さてはキノコの増え方を想像して怖くなったな?


そんな思いっきり抱き締めるとちょっと息苦しいが胸の感触がしっかり分かって気持ちいいぞ。


「いやー初めて胞子を飛ばすのを見たときは目を奪われたっすねー。あんなピカピカ光る光景は他じゃ見られないっすよー」


「光る?キノコが?」


「お?そこはソウ君でも知らなかったんすねー。あそこに生えてるキノコは胞子を出す時一瞬パッと光るんすよ。それで決まった時間になると一斉にそれが始まるので群生地一帯で次々光って綺麗なんすよ」


「ほうほう。それは確かに目を奪われそうだ」


情報館へ向かう道で光の精の子供達が光る様子を思い出した。あれは綺麗だった。


「それにそのおかげでこれから会う子の事を知れたんすよー」


「む、そうなのか」


「そっす。お、そろそろ目的地に着くっす。サチナリアさん、あの島っすよ」


「わかりました」


キノコの話題が終わったので安心したのかサチが溜息をつく。


あのな、そんな耳元で息吹きかけられるとぞわっとするんだぞ。


帰ったらお返ししてあげよう。




「廃墟島ですか」


島に降り立ったサチが島の様子を見て言う。


「廃墟島?」


「廃墟島というのは所有権は有しているものの、何かしらの理由で人が住まなくなった島の総称を言います。・・・所有権放棄の申請も来ていますね。すみません、ちょっと外周を見てきます」


そう言ってサチはパネルを開いたまま島の外周部分を見に降りて行ってしまった。


「じゃあ私達は家の前まで移動しておくっすよ」


「わかった」


アンナマリカの後に続いて島を歩く。


道には雑草が生え、木にはツタが絡まり、落ち葉や枯れ枝があちこちに散乱している。


「島の所有権放棄は現状なかなか出来ないんすよねー。所有者の居ない島は居る島より劣化が早いっすから」


「所有権を持たせておいて維持管理だけでもしてもらおうって事か」


「そっす。この辺りの問題も結構根深いものあるっすねー。所有権を持とうとしない人や無断放棄する人もいるっす」


「ふーむ・・・」


確かに難しい問題だなぁ。


所有権放棄に及び腰で所有したくない人が増えれば所有者の居ない島が増える。


放棄申請の受理に時間がかかったり通らないと無断放棄が増えて廃墟島が増える。


だからと言って簡単に放棄の受理をしてしまえば中古島だらけになってしまう。


うーん・・・何かいい方法ないかなぁ・・・。


「・・・」


「・・・ん?なんだ?」


考えを巡らせていたらアンナマリカが体を曲げて俺の顔を見てきた。


「やっ、なんでもねっすよ。ふふ、ソウ君はホントいい神様っすな」


「そうかな?」


「うんうん。そうやってあちしらの事を真剣に考えてくれてるっすから」


「でもこれといっていい案が出たわけじゃないぞ」


「それでもっすよ。そうやって考えているって事自体があちしらは嬉しいっす」


「そういうものなのか?」


「そういうもんす」


そういうものなのか。


パッと良案が思いつかないから失望されてもおかしくないと思ってたが、皆優しいなぁ。


だからと言ってそれに甘えて考える事を停止するのはよくないな。何か思いついたらサチに相談してみよう。


「戻りました」


程なくしてサチが戻ってきた。


「おかえり、どうだった?」


「えぇ、まぁ、問題はありませんでした。ちゃんと維持はされていたようです」


む、サチにしてはちょっと歯切れが悪いな。


「それじゃサチナリアさんも来た事だし会いにいくっすよー」


「ま、待ってください、アンナマリカさん」


家の扉に手をかけようとしたところをサチが止める。


「なんすか?」


「行くってその廃屋の中ですか?」


「そっすよ」


「あの・・・これから会う人は誰、なのですか?」


サチの一言ではっとする。


言われてみればおかしい。


どうしてアンナマリカはこの島に来たのだろうか。


既に廃墟島になっているという事は人は住んでいないはずだ。


それともサチが言ってた維持するために一時的に帰ってきてる人なのだろうか。


いや、でもそれならお土産のキノコはなんだ?やっぱり暗いところが好きな子とかか?


ダメだ、頭がこんがらがってきた。


「にししー、それは中に入ればわかるっすよー」


にやりと笑ってみせるアンナマリカ。なんか急に怖く見えてきた。


「あ、中に入っても光の念とか使っちゃダメっすよ。あと大きな声も出しちゃダメっす」


「わ、わかりました」


「じゃ、お邪魔するっすよー」


そう言ってアンナマリカは先に扉を開けて暗闇の中に入っていく。


それに続こうとすると腕を引っ張られるので足を止める。


「あの、ソウ・・・」


「どうした?」


「手を・・・いえ、腕を借りてもいいですか?」


既にガッチリ俺の腕にしがみついてそう聞くのはどうなんだろうか。


可愛いので全てを許し、俺達もアンナマリカに続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る