うどん作り

下界に降りた異世界の少年は草原の街と森の村の中間辺りにいた。


俺が神になって初の転移者なので気になって様子を観察しているが、さすがに最初のうちは色々大変そうだ。


何やら変な動きをしているが恐らくあれはこの世界の仕様を確認しているのだろう。


何度も異世界に呼ばれているだけあって順応性は高く、数時間で自分が出来る事を大体把握していた。


それが終わると森に入り木の枝やツタを集め始め、土の具合を調べて小川を突き止め、川付近で野営準備を始めた。


・・・恐るべきサバイバル能力だな。


これも過去の経験から出来る事なのだろうか。


既に簡易的な石の槍も作ってるし、まさかここでこのまま生きる気じゃなかろうな。


もうちょっと下界は文化的なんだけどなぁ。降りた場所が悪かったか。


うーん、人と出会えるようにしたいところだが、本人楽しそうだからもう少し様子見るか。


数日して周囲の状況が把握出来たのか、彼は火を起こした。


それまで木の実で食いつないでいたが、魚が獲れたのでそれを食べるようだ。解体の手際もいい。


ただ、火を起こすと煙が出る。


煙が出れば誰かが気付く。


うん、魚食って満面の笑み浮かべてるけどそろそろ森の村の人がお前のところに到着するぞ。


ふー、これで無事人との接触が出来・・・なんで戦おうとする、村の人困ってるだろ、落ち着け。


あーあー、縛られて村に連行されてる。賊か何かと間違えられたっぽいな。


村に着き状況を説明したら直ぐ縄からはに開放されたが、しばらくは村に駐在している冒険者と監視という名目で共に行動する事になったようだ。


んー、ちょっと思い込みがある性格をしているみたいだな。


この性格のせいで他の世界の神に召還され、良い様に使われたのかもしれない。気の毒に。


それから数日、冒険者と共に活動している様子の観察を続けていると次第に彼の人の良さを見かけるようになってくる。


困っている人がいれば気軽に助け、自分より若い子供達の遊び相手になり、冒険者の話を真剣に聞いて身につける。


案外出来そうでできない事を難なくやってしまう彼の性格はある意味凄いと思う。


ただなぁ・・・こういう性格は損しやすいんだよなぁ。


騙された事にすら気付かない人もいるが、彼の場合は神にすら裏切られた経験があるからそういう時何をするかわからない。


出来れば歪んだ魂にならないでもらいたいものだ。


とりあえず今は森の村に滞在しているが、あの様子だとそのうち草原の街にも行く事になるだろう。


誰か彼を上手く導いてくれる人が見つかるといいなぁ。




今日は久しぶりに農園で料理教室だ。


既に座学は終え、班に分かれて調理の段階に入っている。


「る、ルミナテース様、お願いします」


「えー、しょうがないなー」


新規参加の食材研究士の子からのヘルプにルミナが言葉とは裏腹にウキウキしながら手伝いに行く。


一方で息を切らしている子も多く見かける。


「はぁ、はぁ・・・まだまだだなぁ・・・」


普段他の子より優位に進めるユキが他の子より少し遅れている。


料理によって得意不得意ってのがあるとは思っていたがこうも顕著に出るとちょっと面白い。


今日作っている料理はうどんだ。


新しく食材研究士の子も料理教室に参加した事と、ある理由でうどん作りに決めた。


うどん作りは至ってシンプルで、小麦粉に塩を入れてから水を混ぜてひたすら練り、のばして切って茹でるだけ。


そんな難しくない内容だったはずが、ルミナが用意した小麦粉の量があまりに多く、いきなり難易度が跳ね上がった。


多いなら減らせばいいと思ったのだが、体育会系元警備隊員の性なのかわからないが挑まれたら受けて立つ流れになってしまい、一人当たりの量が多くなってしまった。


こうなってくると体力勝負になるので普段料理の腕はそこまででもないルミナが伸ばす前までの段階まであっさり練り上げ、体力にちょっと自信のないユキや食材研究士達が悲鳴を上げる状況になっている。


ちなみにサチはというと念を使って楽をした結果、粘り気が足りずにボロボロになってしまったので今ひーひー言いながら練り直している。


俺は手本で先に作ったので今は別の調理をしている。


調理・・・調理でいいのか?これは。


ピーラーで木を薄く削る作業は果たして調理といえるのだろうか。


そもそもなんでうどんを作ろうと思ったかというと、料理教室前に食材研究士の子が持ってきたこの木が始まりだった。


食用できる木という事で見せてもらった時は目を疑ったが、食べずに口に含んでいて欲しいといわれたのでその通りにするとこの木の味が直ぐにわかった。


そこで効率よくその味を出すべく薄く削ろうと思ったのだが、包丁で桂剥きするにはちょっと時間がかかるのでピーラーでやる事にした。


こっちのピーラーの切れ味は生半可じゃないので良い感じに削りだせて良い。


ある程度溜まったらシイタケを入れた水を沸騰させ、一度火を止めてから鍋に投入。


あとは弱火で煮出してこせば鰹のだし汁が出来上がるはずだ。


まさか鰹の実が出来る木も食材として使えるとは思わなかった。


見つけた食材研究士の子には感謝しなければならないな。


よし、だし汁が出来た。


これはこれで暖かいうどん用に半分残して置き、残りは試作醤油とみりんを混ぜてめんつゆにする。


「・・・いい匂い」


いつの間にかモミジが机に両手を掛けて下から覗き込んでいた。


「終わったのか?」


「姉さんに任せてきた」


押し付けてきたの間違いじゃないのか?


まぁいいか、ほれ、味見してくれ。


「・・・おいしい。けどちょっと濃い」


「後でうどん入れるからそれぐらいで丁度いいんだ」


「うどん、楽しみ」


楽しみならワカバの手伝いに戻ってやれ。


軽く頭を撫でると気を良くしたのかテテテと小走りで戻って行った。


さて、まだうどん作りが終わる気配が無いから今のうちに色々作っておこう。

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