うどん試食
全員のうどんが茹で終わり、皆の前にはうどん料理が並ぶ。
「それでは、いただきます!」
「いただきます!」
ルミナテースの挨拶と共に各々食べ始める。
いつの間にかこの挨拶も農園に広がっていた。なんだか嬉しい。
まずはざるうどんだな。
今日のうどん作りはこれが食いたいためにやったというのもある。
麺は皆が作った個性的な麺が並んでいて好みで取って食べる方式。
ルミナの作ったのはコシが凄いな。モチモチしていて食べ応えがある。
この細麺はユキのか。相変わらず他とちょっと違う事をして来るな。繊細さを感じる。
他の子の作った麺もそれぞれ個性が出てて面白い。どれも美味い。
皆の麺を楽しんで食べていたら全員、正しくはサチ以外の視線が俺に集中していた。
「な、なんだ?」
「ソウ様は変わった食べ方をするのですね」
変わった食べ方?
「啜ることだと思いますよ」
目の前の麺から視線を外さないサチが教えてくれる。
「あぁ。悪い、うるさかったか?」
そういえば啜る音が苦手な人もいるんだったっけ。
「いえ。ただソウ様がそうやって食べるという事は何か意味があるのかと気になってしまいまして」
「意味・・・意味か」
こうやって食べる方が美味く感じるから。じゃ、ちょっと説明が足りないな。
「そうだなぁ。今日作ったうどんって麺だけだとほとんど味がしないだろ?だからこういうつゆとかに浸けて食べるんだが、つゆはサラサラしてるからどうしても流れ落ちてしまう。そうなる前に素早くつゆと共に食べる方法がこの食べ方という感じかな」
「なるほどー」
そう答えると部屋内が賑やかになる。
早速啜って食べる方法を試して見る者、啜らずに食べる方法を模索する者、むしろつゆに変化を与えた方がいいと話し合う者、色々な動きが見れて面白い。
ルミナ、色々試すのは悪くないがさすがに箸を高く上げて垂れた麺を下から食べるのはやめなさい。
美味しくてもダメ、みっともないから。
お、モミジが上手く啜ってる。やるなぁ。こっち向いてアピールしてる。うん、上手い上手い。
そういえばモミジといえば姉のワカバが面白い麺を作ってた。
一つは緑色、もう一つが赤色をしており、曰く二人をイメージした麺らしい。
緑の方は何か野菜を練りこんであるのは何となく分かるが、この赤い方は嫌な予感がする。
これはつゆで食うよりこっちのサラダに入れた方がよさそうだ。
実はざるうどんと温うどん用のつゆ以外にもうどんサラダも作ってある。
サチのもそうだったが、練りこみが甘くて茹でてる間にぶつ切りになってしまい短いうどんになってしまうのがあった。
それをどうにかすべくサラダと短いうどんと即席で作ったドレッシングを入れて和えたうどんサラダを作ってみた。
ふりかけやカリカリに焼いた薄切り肉も乗せたら皆に好評な様子で、先にこっちを食べきる子も出ていた。
さて、それじゃちょっとこのうどんサラダにワカバの作った麺を入れてみるか。
・・・辛っ!?赤いのより緑の方が辛い!何入れたんだ!?水!水!
はー・・・。赤い方はストレートな唐辛子系の辛さだったが、見た目ほど辛さは感じなかった。
一方緑の方は赤い方に苦味が加わり辛さの鋭さが増したように感じた。実際辛さも上な気もする。
作ったワカバを見るとこの緑の麺を平然と食べてる。むしろちょっと楽しそうなぐらいだ。
あぁ・・・なんで彼女の前だけ赤と緑の麺が山盛りなのかと思ったが、辛くて食えない子がワカバに押し付けたのか。
正直言えば俺もそこまで辛いのは得意ではないから得意な人に任せたいところだが、折角ワカバが作った麺だからな、うーむ。
仕方ない、ちょっとアレンジして食べやすくするか。
フライパンに油を引いて細切りににした肉と野菜を入れた後、ワカバの作った赤と緑の麺を投入する。
火が通ったら味付けに塩、それに卵と風の精と作った酢に油を少し入れて混ぜた簡易マヨネーズを加えてよく和える。
「いい匂いですね」
気付いたら周りに興味を持った子達に囲まれていた。
確かに麺のスパイシーな香りとマヨネーズの匂いが合わさって食欲を刺激する匂いになってる。
「それはなんていう料理ですか?」
「見たまんまの焼きうどんだ。ただ味付けが上手く行ってるかわからん。辛さの軽減が目的で作ったから」
本来なら塩や醤油味が定番だからなぁ。
今回は麺の辛味を火を通す事とマヨネーズでコーティングする事で軽減を計るのが狙いだから味はその次だ。
よし、あとは削り節を掛けて皿に盛れば完成だ。
・・・視線が皿に集まってる。
「えっと、食べたいなら取って行ってもいいけど辛いと思うから自己責任で」
「やったー!」
皆なかなかにチャレンジャーだなぁ。
結局味見用ぐらいの分しか残らなかったが、なかなかの出来だった。
一つ問題があったとすれば、試食後食べ足りない子達が真似て作ろうとしてワカバのところから麺を強奪していき、普通に食えてたワカバが哀しそうな顔していた事だな。
すまん。
「ソウ様!またよろしくお願いします!」
「お、おう」
満面の笑みで俺を送り出してくれたのはワカバだ。
なんでもマヨネーズ和え焼きうどんを食べたモミジが珍しく美味しいと褒めてくれたかららしい。
・・・普段どんな料理作っているんだろうか。
「うどん作り頑張ります!」
「うん、よろしく頼む」
最初は辛くて敬遠されていたが、料理次第では辛いものも美味しくなる事がわかったようで、あの後追加の赤いモミジ麺の製作を頼まれたそうだ。
緑のワカバ麺は辛すぎてやはり使いどころが難しいのか追加依頼はなかったようだ。
あれはあれで一部コアなファンが出来そうな気もするからそういう同志向けの料理の開発もしてみて欲しいところだ。
「ソウ様」
「なんだ?モミジ」
「他にも麺料理ある?」
「一杯あるぞ」
「本当?」
「うん。結構麺料理も奥が深くてな」
モミジに俺の知ってる麺の種類を教える。
「ややこしい」
「確かにな。同じ材料でも細さや形で名前が変わる。それだけ麺料理ってのは色々あるわけだ」
「むー」
「そんな難しく考えずに、作れる作れないもあるからここで作れそうな料理を模索して行くというのも楽しいと思うぞ」
「ん。がんばる」
「がんばれ」
ふんすと意気込むモミジの頭をなんとなく撫でる。
「あ!モミジちゃんずるい!ソウ様私もお願いします!」
その様子に気付いたワカバが反対の手に頭を差し出してきたので同じく撫でる。
・・・あの、後ろに列を作らないでくれるかな?何故サチまでいる。
しょうがないなぁ。今日は皆頑張ってたしな。
おかげで帰るのが少し遅くなってしまったが、満足そうにしてくれてよかった。
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