勉強というもの

「えっと・・・その、勉強ってしなきゃいけないんですか?」


どんな話かと思ったらいきなり凄いのが来た。


「勉強かー・・・」


全員の視線が集中する。参ったな。


「そうだなぁ。じゃあ先に神という立場から言うと、勉強はいずれ役に立つからしておいたほうがいい」


先生はちょっと安心した表情になったが子供達は納得してない様子だ。


サチはどうせ余計な事をこの後言うんでしょという視線を送ってきている。ははは、その通りだ。


「俺個人、神じゃなくてソウとしての考えもあるが聞きたいか?」


「お願いします」


「ん。勉強なんてやらされてると思ってるうちは身につかない。特に言われて嫌々やる勉強なんて無駄だよ無駄」


先生の顔が一気に青ざめ、逆に子供達の顔が明るくなる。サチは顔に手を当てている。悪いな。


「じゃあ勉強しなくていいの?っていうとそうでもない。実は皆今も勉強している」


「え?」


「今日ここに来た時何か思ったと思う。何でもいいから一つ教えて欲しい」


こういうと子供達が個人個人で情報館に来た時の感想を言ってくれる。


お出迎えが揃ってて凄かった、案内してくれた人がカッコよかった、メイドの服が気になった、来る時の森が好き、様々だ。


「うん。俺はそうやって皆が感じたことも勉強だと思ってる。何も教わるだけが勉強じゃないってことだ」


「でもそれでお母さんわかってくれるかなぁ・・・」


「あーお母さんは強敵だなー。たぶんお母さんから見たらまだまだ恥ずかしい子って思われているんだろうな」


「え!?なにそれ!」


「今のまま大きくなったらきっと周りから馬鹿にされてしまうと思われているんだろう。そのために勉強しろだの学校行けだの言うんだよ」


「むー・・・」


「お母さんも自分の子が悪く言われたくないんだ。友達が他人から悪口言われたら嫌なのと同じだな」


「そっかぁ。先生もそうなの?」


今度は先生に子供の視線が集まる。


「えぇ、それはもちろん。なかなか上手くいかないこともあるけど、皆の事をいつも考えているわよ」


「そうなんだー・・・」


子供達は新たな視点が出来、考え始めた事で部屋が静かになる。


「今皆は色んな事考えていると思うけど、知識ってのはそういう風に何かを事を考える時に色々な方向から考えられるようになるためのものだと思ってる」


「じゃあやっぱり勉強した方がいいの?」


「するかしないかの二択ならする方がやっぱりいいと思う。とりあえず今は興味のあることをしっかり聞いておいて、興味のない事はとりあえず聞いておけばいいんじゃないかな」


「そんな適当でいいの?」


「いいよ。嫌いになって興味のある事まで受け付けなくなるより適当に聞いても後でそういえばって思い返せる方がよっぽどいい」


「だって、先生」


「ソウ様ー・・・」


「ははは、先生は頑張って興味を持たせられるようにしないとな。折角だから先生も子供から何の授業がつまらないか聞いたらどうだ?」


「え?」


「ソウ様、それって私達が先生に教えるの?」


「うん。つまらないと言ってもなんでつまらないか分かるように伝えるんだぞ」


「面白そう!」


「え!?」


子供達が何言おうかワイワイと相談し始め、先生はオロオロしだす。


こういう機会でもなければ子供から意見を聞くと言う事そう無いから今後の指針に役立てて欲しい。


「ふっふっふ、じゃあ私からね!」


「お、お手柔らかにね」


・・・子供達がやる気を出してしまってるので適当なところで休憩入れて先生を救い出した方がよさそうだ。




休憩ということでお茶とクッキーを出すと子供達の会話は更に加速し、普段の雑談に近いものになってきた。


「ほんっとなんで男子ってあんななの!?」


話題は学校の男子の行動について。


悪戯したり、走り回ったり、言われた事をやらなかったりという事にご立腹のようだ。


現在この場には男は俺しかいないので非常に居辛く、思い当たる事がちょくちょく出るので耳が痛い。


ちなみにサチは神らしからぬ発言で、先生は子供達をけしかけたという事で助け舟は無い。


「ソウ様聞いてる?」


「うん、聞いてる聞いてる」


「どうしたら直ると思う?」


「うーん、直す方法かー」


下界を見ていると年を重ねれば自然とそういうのは落ち着いていくから放って置けばいいと思うが、今どうにかしたい場合か。


「・・・思いつかんな」


「えー、ソウ様ー」


「待って待って。誰がどの子にちょっかい出してるとか、どんな事するのかとか、そういうのをもうちょっと詳しく教えて欲しい」


男子全体と考えず、個別に対応したらどうにかなるかもしれない。


女子達は名前を出して詳しく話してくれる。


それに対して俺は男側の考えで判別する。


「それは女の子っていう生き物がどういうものかまだよく分かってなくて、どう接していいのか本人もわかってないんだな」


「そうなの?」


「うん。そういう子にはどうして欲しいか言うか、優しくすれば優しくなってくれるはずだ」


「そうなのかなぁ」


「男はみんなと比べて人との接し方の成長がちょっと遅い子がいるから、そこを理解して接してみたらどうだろうか」


「そっかーあの子は馬鹿なのかー」


辛辣!


子供ってたまにとてつもなく鋭利な言葉を放つ時があるなぁ。


「決まった子にだけつっかかってくる子はその子が気になってる場合があるから、上手くすれば味方に出来るかもしれないぞ」


「気になってるって好きってこと?」


「そうかもしれん。さっきは女の子ってのが良く分かってなかったけど、この場合は好きっていうのがよく分からない場合だな」


「え、そ、そうなの?」


そういうと何人かソワソワし始める。


アンもしてるから何か思い当たる事があるのだろうか。


もしかするとどうにかしようとするより味方になってもらった方が早く落ち着くのかもしれないな。


このぐらいの子供は多感だから相手に変化があればそれに勘付いて相手も変化することがある。


これでちょっとは女子達の不満が解消されればいいな。


助け舟こそ出してくれないが先生も聞いてはいてくれたから後は本職の人に任せるとしよう。




子供達は会話も大分落ち着いてきたので折角情報館に来たという事で先生と共に館内の見学しに行った。


残ったのは俺といつの間にか隣に来たサチだけになり、部屋が静かになる。


「サチは勉強についてどう考えているんだ?」


「勉強ですか。今日言われるまであまり考えた事がありませんでした」


「そうなのか」


「常に気になる事や知りたい事がありましたのでそれを調べたりしている事で必死でしたので」


「優秀だったんだな」


「そうでしょうか」


「何かを知りたいと思ったとき、知ろうとする事を諦めず自分で調べたり誰かに聞いたりする事は十分優秀だと思うぞ俺は」


「ソウがそのように言うのならそういう事にしておいてあげてもいいです」


少し照れながらもなんだかんだで嬉しそうだ。


「あんな回答でよかったのかなぁ」


「先程の勉強に対しての質問ですか?」


「うん」


「ソウらしいとは思いましたが、神様としてはどうかと思います」


「手厳しいなぁ」


「一人ぐらいソウに苦言を言える人が居ても良いかと」


「ははは、確かにそれは必要かもしれんな。これからもよろしく頼む」


「仕方ないですね。お任せください」


口と行動が全く一致せず嬉しそうにスリスリしてくるサチと子供達が戻ってくるまでくっついている事にした。

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