小会議

俺とサチが残されたところに先ほどの神の連れの天使がやってきて頭を深く下げてきた。


「申し訳ありませんでした」


「君達が謝る事ではないから」


「いえ、違うのです。事の発端の原因は私達にあるのです」


「どういうこと?」


詳しく聞くと今回の一連の原因は彼女達の会話にあったらしい。


元々彼女達は補佐官と言えど良い待遇をされておらず、使い棄てされていた。


そんな状況の中、会合で俺の話が噂で飛んできて話題に出た時。


「いいなぁ」


小さい声だったがそれがあの神の耳に届いてしまっていた。


それで俺に興味を持ち、わざわざ見に来たらしい。


「申し訳ありません。もし私達がそんな事を言わなければご迷惑をおかけする事は無かったはずでした」


「ふむ・・・本当にそうなのかな?」


「え?」


「今回絡まれたのは俺だったが、君らの発言が無かったら彼に絡まれる人はいなかったのかな」


「それは・・・」


あの男の行動は手馴れていた。


言葉だけではなく動きなど、如何に相手の神経を逆撫でするかという事に。


「彼を連れて行ったあの二人があそこまで厳しく動くという事は一度や二度じゃなかったと推測できるがどうかな」


「・・・」


三人の表情は肯定と言っているな。


「サチ、あの男どうなるかわかる?」


「恐らく何かしらのペナルティが課せられるかと。最悪神でいられなくなるのではないでしょうか」


「そうか」


それを聞いた天使達は不安と喜びが合わさったような複雑な表情になった。


ふーむ・・・。


「あのさ、もし今の所がどうしても嫌なら移民したらどうだろうか」


「え?」


「申請すると別の世界に移れるっていうシステムがあったはずだが」


「そうなのですか?」


「知らされていないのか?」


「はい・・・初めて知りました」


アイツ意図的に情報の制限をしていたのか。


「しかし私達を受け入れて頂けるところはあるのでしょうか。うちの神様はあのような方ですので」


「あー・・・」


そう言って視線を逸らしてサチを見る。


目閉じて溜息付かれた。ははは、よくわかってる。


「じゃあもし行くあて無かったらうちに来るか?」


「え?しかし・・・」


「これも何かの縁だ、気にするな。ただし、うちに来ると自分でやる事考えなくてはならなくなるからそこだけ覚えておいてくれ」


「詳しい情報をお渡ししておきます」


「あ、はい。ありがとうございます」


サチが情報を渡すと何度も礼をしながら彼女達はあの男を捜しに帰っていった。


「移民補佐官の選定をしておいた方がよさそうですね」


「すまん、頼む」


アルとイルはドリスに付きっきりだから別の人に頼むことになるかな。


まぁまだ希望が来るかもわからないし、気楽に考えておくとしよう。




あー・・・。


「やっぱり通知制限してやがったのか。ふてえ野郎だ」


「こりゃ移民の申請が一気に来そうじゃな」


「移民の前に相談窓口を設置して改善出来るところはすべきではありませんこと?」


「良い案だが誰がそれをやる?」


「うーん、まだ細かい事は決まってないからなぁ」


・・・。


あの、俺この会話に参加する意味ある?


全然付いていけないんだが。


誰か助けて欲しい。


今俺のまわりにいつも会合の時に会う面々が集まっている。


先ほどの件を聞きつけて来てくれたのは嬉しいが、そのまま情報交換の場になってしまった。


現在大きく分けて二つの集団が出来ていて、片方は糸目の神、刀傷の神、犬の神と猫の神、それにアルテミナと俺の真面目な会話組。


もう一方はサチ、少年神とハティ、後輩神とそれぞれの神のお供が集まってる和気藹々組。


いいなぁあっち、二神のお供の犬猫達と戯れてる。俺もそっちに混ざりたい。


「そういえば兄貴、アイツのところの移民受け入れに前向きって聞いたぞ」


「ん?あぁ、限定的にね。もし行くあて無いなら引き受けると伝えた」


「・・・」


全員がこっちを見て来た。え、何?


「お兄さんや、確実におぬしのところに行くと思うぞ?」


「え?なんで?」


「よく考えてみぃ。元々あの神がおぬしのところに来たのはあの娘達がおぬしの噂をしとったからじゃろ?」


「それは本人達から聞いたけど、それだけでうちを選ぶかな。補佐官だし他の世界の情報とか知ってると思うんだけど」


「まぁな。だが彼女達に移民を勧めたのはお前だけだぞ」


「そうなのか?何かの縁だからと思ったんだが」


「フフ、君のそういうところは美徳だと思うけど、さすがに消滅してもいない世界から大人数で移民はちょっとね」


「あー・・・すまん、そこまで考えてなかった。急に人員が減ると大変だもんな」


うちのところでも警備隊が似たような事になってたな。


今でも再編成に苦労してるみたいだし。


「ですので先に体制改善をする必要があると申し上げているのですわ」


「そうだが他世界の神が他の世界に干渉するのはよくねぇぞ」


「そこは私のような優秀な補佐官が一時的に出向すれば宜しいのではなくて?」


「・・・優秀?」


「なんでそこに引っかかるのかしら!?私補佐官として他の神様方に高く評価して頂いていましてよ!」


「・・・そうなの?」


「まぁ、な。こうやって俺達と対等に話し合える度胸は凄いと思うぞ」


「オーッホッホッホ、全ては私の神様のためですわ!」


皆が一斉に耳を塞いで近距離高笑いを防ぐ。


うーん、確かにこれだけの面子を前にこれが出来る度胸は凄いかもしれない。


「優秀はともかく案としては悪くないね。逆に研修という形で見込みのある人を一時的に交換するというのもありかな?」


「ふむ。では俺らで出来そうな奴を挙げておこう」


「心当たりが何人かおるの」


「お願い致しますわ。上手くいけば世界が一つ救われますわ」


アルテミナはそう言って胸の上で祈るように手を合わせる。


皆がその仕草を黙って見る。


こういうところは絵になるんだけどなぁ。


「あら?皆様どうなさいました?」


「いや、残念だと思って」


「なにがです?」


「お前の騒音性と変態性が無ければと思っただけ」


「なんですって!?」


まぁそれを差し引いてもいい奴なのは間違いないんだが、言うと高笑いが飛んで来るので言わない。断固として。


「これが噂のやつか」


「間近で見られるなんて運がいいね」


いや、見世物じゃないぞ。ちょっと離れて生暖かい視線を送るんじゃない。


「詳しく説明してくださいまし!」


アルテミナはアルテミナで息荒くして期待の視線してくるし。


あーもー今日は散々だ。


しょうがない、満足するまで付き合ってやるか。





会合も終盤になり俺のところに来る人も居なくなった頃を見計らってサチが今日の騒動の話を切り出してきた。


「結局のところ嫉妬が原因だったようですね」


「そうなのか?」


「えぇ、アルテミナのところの神様がそう仰っていました。詳しい事は私が調べましたが、あの方の行動の原因は嫉妬だとだけこっそり教えていただきました」


「調べた結果は?」


「その通りでした。連れていた補佐官の天使は違っていましたが、自分の方が優れていると誇示する行動をしていた事が過去に何度もあったようです」


「それが嫉妬によるものだと?」


「はい。恐らく補佐官達から信頼を得たかったのではないでしょうか」


「あー・・・そういうことね」


要するに部下に対する扱い方というのが出来ていなかったってことか。


しかも部下達補佐官はどうしても他の神の世界の情報を得てしまうのでそれと自分を比較され、良く思われなくなっていったのだろう。


今日会った補佐官の天使達は自分達が使い棄てされていると言っていた。


たぶん何度も良く思われなくなっては別の補佐官にしていったのだろうな。


神は基本的に孤独だ。


二神のように複数人で世界を扱っているところもあるが、大半の神は一人でやっている。


そうするとどうしても孤独というのに苛まれてしまう。


それをある程度防ぐためにこの会合があるはずなんだが、どうやら彼はこの会合でも上手く馴染めなかったんだろうな。


「ちょっと可哀想かもな」


「そう思いますか?」


「本当にちょっとだけな」


結局うちの人達を悪く言った事の謝罪は無かったから許す気にはなれない。


それに何度も機会はあったはずなのにそれを全て逃してしまったのであればそれは自業自得としか言えない。


糸目の神が愚かと言っていたがその通りだと思う。


「そういえば初めて怒ったところを見た気がします」


「そうだっけ?」


「はい。私達の事で怒ってくれた事、大変嬉しく思います」


「当たり前の事をしただけだと思うけど」


「この事は帰ったら事細かに広めようかと思います」


「それは止めよう。お願いやめて」


「どうしてですか?」


「いいよ、そんな事広めなくて。恥ずかしいし」


「むぅ。折角の機会なのに」


「じゃあどうしても話す必要がある時だけな。それまではサチだけ知ってればいい」


「・・・わかりました」


まったく、大々的に広められた暁には知った人達とどう接していいかわからなくなるじゃないか。勘弁して欲しい。


「あと、これは私個人の感想なのですが」


「うん?」


「その、怒ってる姿は素敵でした」


「お、おう、そうか。ありがとな」


なんでそんな照れながら言うかなぁ。


こっちまで照れて来てしまった。


あーもー今日はもう帰ろう。うん、そうしよう。


それで家で目一杯労ってもらおう、そうしよう。

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