不注意
下界の魔王の朝は早い。
使用人より早く起き、厨房で料理の仕込みをする。
その後、玉座の間にて朝礼、報告と指示をしてから食堂で朝食を取り、執務室へ行き書類の処理。
そして来賓が到着すると再び玉座の間に向かい面会をする。
この日は前日に中央都市に到着した商会の女主人と会い、北の領の再建の褒美を出したようだ。
面会が済むと今度は子供達と昼食。中庭で弁当か。美味そうだ。
昼食が終わると城の中をブラブラ歩き、適当なところで昼寝。
おやつ時に給仕に見つかり、そのままおやつ。おやつの後は望遠になったのでお察し。
夕食時になると厨房に移動し、朝仕込んでいた料理を仕上げる。
夕飯は使用人達も含めて皆で食事。賑やかだ。
夕飯後は子供達とお風呂。子供の数が多いから洗うだけでも大変だな。
子供達が寝静まると数人の給仕が魔王の部屋を訪れ、再び望遠になったのでこの日の魔王の観察は終了。
こんな感じで魔王は普通の領主のような生活を送っている。
とてもいいことではあるのだが、この中央都市の規模から考えるとこんなに平和に過ごせるものなのかと疑問を抱く。
さっき面会した女主人なんて面会終了と同時に早々に中央都市を出て北の領に戻って行ったしなぁ。
うーん、俺の理解の範疇を超えていてわからん。
「ソウ、現魔王の経緯が判りました」
「お、本当か」
「はい。どうやら一度魔王は討伐されたようです」
「ん?どういうこと?」
「現魔王は新生魔族を打ち立てた時の魔王を倒したものの、倒した時に人間種から魔人種になってしまい、仕方なく今の座に就いているらしいです」
「魔人種?聞いたこと無い人種だな」
「竜人種と似たものかと。何かしらの影響で悪魔系の人種になったと思われます」
「長生きしているのはそのせいか」
「はい。魔王になってからは内政に力を入れ、今のような中央都市にしたようです」
「そうか。・・・ふむ」
「何か気になる事が?」
「魔王になってから勇者の力は使ってないのか?」
「すみません、そこまでの情報は得られませんでした。何の力を持っているかも不明のままです」
「そうか。わかった、何か気が付いたら都度報告してくれ」
「了解です」
今の魔王が元勇者だったという時点でそれまで君臨していた魔王から今の魔王に切り替わったのは予想できた。
しかしそれだけで今の中央都市の治安の良さを作り上げることが出来るのだろうか。
普通に考えれば相当難しい事だと思う。
だが、勇者の力があれば可能かもしれない。オアシスの街とかがいい例だ。
何かわかればいいんだけが、まだちょっとわからない。
もうしばらく観察する必要がありそうだ。
最近下界の魔王関連で少し頭が疲れていたのかもしれない。
「あー・・・」
眉毛を触るとボロボロと毛が落ちていく。
前髪もチリチリになって先の方もボロボロ落ちていく。
「大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫」
とりあえず慌てるサチを落ち着かせよう。
「・・・ぶふっ」
対面に座ってるサチが俺の顔を見て吹く。失礼な奴だ。
そりゃぼんやりしながら料理して、フランベするための酒の投入量を間違えたのは俺だけどさ。
おかげで燃え上がった炎が俺の額に直撃。
眉毛が全焼、前髪が少し縮れて短くなった。
「凄い違和感ある」
「くふっ・・・」
本来眉毛のある位置を触るとつるんとしてて変な気分だ。あと笑いすぎだぞ。
とりあえず鏡を出してもらって自分の顔を見る。
「うぇ・・・こわぁ・・・」
こうやって眉毛の無い顔を見て初めて顔のパーツとしての重要性に気付く。
「どうすっかなー、とりあえず生えるまで描いてごまかすか?」
そう言った瞬間、笑い転げていたサチがはっと飛び起きた。嫌な予感。
「それなら是非私にやらせてください!」
あーやっぱりおもちゃにされるな、コレ。
「わ、私・・・今日死ぬかもしれません・・・」
息絶え絶えにサチが机に突っ伏して言う。
そりゃあれだけ笑い転げれば疲れもするだろう。
まったく、散々人の顔で遊びやがって。
まぁ色々な眉毛にされてその都度面白かったのは否定しないけども。
「満足したならちゃんとしたの描いて欲しいんだが」
「はー・・・あーそれなら良い案がありますよー」
「念で戻せたりするのか?」
「うーん、出来なくはありませんが、それよりも簡単な方法があります」
「ほう」
「これです」
サチが空間収納から出したのは神器の櫛だ。
「ちょっとじっとしていてくださいね」
そう言って俺の前髪に櫛を当てるとにゅっと前髪が元の長さに戻る。
「おぉ」
続いて眉毛があった位置にも触れると直ぐに眉毛が伸び・・・伸びすぎ伸びすぎ、こわいこわいこわい、切って切って。
「こんなところですかね」
鏡を見ると元の顔に戻っていた。
「凄いなそれ」
「そうですね。さすが神器です」
サチに喜んでもらえればいいなと思って作っただけだったが、思わぬ部分で助かった。
「ところでサチはこういうことできるの知ってたのか?」
「えぇ、まぁ」
「知ってたのに黙ってたのか?」
「言う前に面白そうな事をソウが言いましたので」
「・・・」
「・・・」
この後小一時間ほどサチと家の中で追いかけっこすることになった。
風呂で汗を流した後にぼんやり考える。
「魔王ねぇ・・・」
「気になりますか?」
「まぁね」
「ソウは神様ですけど、ご自分の事はどう思っていますか?」
「ん?うーん、あんまり神って自覚ないんだよね、神っていう役職をやっているって感じかな」
「今の魔王もそれと同じだと思います」
「あー・・・」
言われてみればそうかもしれない。
元は人間の勇者、俺も元は人間。
そう考えれば違和感を持つ事が間違っているように感じてくる。
「そっか。そう言われると妙に親近感沸いてくるな」
「そうですね、お互い料理ができますし」
「ははは、腕はあっちの方が断然上だけどな」
「私はソウの料理の方が好きです。甘いものを色々作ってくれますし」
「そうやって褒めても風呂の後のいちご牛乳がいちご牛乳シャーベットになるぐらいだぞ」
「十分褒める価値が出ているではありませんか!」
聞いた途端ソワソワしはじめたが、もう少し考え事をしたいので付き合ってくれ。
とはいえ魔王への対応についての大体の答えは出ているんだけどな。
魔王本人に対してはいいんだが、どうもあの中央都市が妙にひっかかる。
何がとはまだ断言できないが違和感がある。
平和なので特にどうこうしようという気持ちはあまりないが、どうしてあのような状態なのかが知りたい。
うーん・・・考えすぎて頭がぐるぐるしてきた。
「ソウ、顔真っ赤ですよ」
「おおう」
違った。のぼせてただけだった。
よし、とりあえず考え事は切り上げて風呂からあがろう。
「はやく、シャーベット」
はいはい、わかったから引っ張るなって。
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