錬金術

月光族の港町にいた商館の女主人が北の領に滞在していた行商人兄妹を連れて南下を始めた。


移動の馬車には厳重な護衛が付いており、物々しい雰囲気がしている。


そのまま馬車は中央都市に入り、街の中央へ進んでいく。


「サチ!」


「大丈夫です」


視野範囲が広がり、以前入手した画像と同じ王城が範囲内に入ってくる。


王城が視野範囲内に入りきったところで時間を止める。


サチが全力で情報収集してくれているのでその間に城を見渡す。


外観は普通の城だ。普通って言っても他の地域には無い大型建造物だが、前の世界にはもっと大きなものがあったからそこまで驚きはない。


城内は・・・ん?


「んん?なんだこれ、子供の落書きみたいなのがあちこちにあるけど」


「ソウ、これを」


サチがこの城にいる者のリストを見せてきた。


「給仕の女性に次いで子供が多いのか」


「給仕となっていますが、実際のところは妾のようです」


「つまりこの子供達は給仕の子供か」


「そうなります」


「で、その子供の父親が玉座にいないんだけど」


玉座の間や王室らしきところを見てみたが、魔王らしき人物が先ほどから見当たらない。


「魔王でしたら厨房にいます」


「は?厨房?」


画面を厨房に向けると料理人達に混ざってフライパンを返している男がいた。


「こいつが魔王?」


「そうです」


なんだか楽しそうに料理してるなぁ。


もっとこぅ魔王って威厳あるイメージがあったんだが、普通の何処にでもいそうな父親だな。いや、子煩悩感があるからいい父親の雰囲気すらする。


「うーん・・・」


「言いたい事はなんとなくわかりますが、一先ず情報が集まりましたので報告させてください」


「うん、よろしく」


王城には基本的に魔王と給仕、そしてその子供が住んでいて男は子供と老年を除くと少ない。


給仕の女性は上位、富裕層の娘が多く、意外と貴族の出身が少なかった。


「貴族は魔王から生活を保障された身分なので、身分維持のために子供を送り込む必要がないのでしょう」


「なるほど」


魔王の子がいれば少なくともその代からしばらくは安定した身分が維持できるからな。


「でもこれだけ魔王の子がいたら世継ぎ問題が大変そうだが、大丈夫なのか?」


「えぇ、恐らく・・・」


「ん?なんだ?」


「どうも魔王は不老不死と言われているようで、子供を魔王にしようと考える人はいないようです」


「不老不死?」


「こちらに魔王の詳細な情報があります」


「・・・マジか」


サチが見せてきた魔王の情報にあることが書いてあった。


魔王。元勇者。




「つまりアレか、勇者が魔王になったのか」


「そのようですね」


「しかし不老不死なんて能力与えた事あったのか?」


「すみません、そこまでは前の神様しかわからず」


あんのくそジジイ、ちゃんと情報残しておけよなー。


「んー、となると神力使って剥奪すれば不老不死じゃなくなるのか」


「おそらく」


「ちなみにどれぐらい消費する?」


「試算するとこのぐらいに・・・」


「ヴェー・・・」


今までこつこつ溜めてた神力を殆ど消費してしまう量が提示されて変な声が出てしまった。


「あんまり現実的じゃないな」


「はい。それに別の方法で不老不死になっていた場合無駄な消費になり、改めて要因を特定して剥奪しなければなりません」


「あーそうか」


神の力で不老不死を付与したのであれば剥奪は可能だが、別の方法、例えば魔法や錬金術でなった場合改めて神力を消費して取り除かなければならないのか。


「それに本当に不老不死になっているかもまだ定かではないので、実行に移すのはまだ早いかと」


「そうだな。今のところ平和そうだし様子見だな」


「はい」


思っていたより王城内の雰囲気は良さそうだし、笑顔も多い。


中央都市の様子を見ると不可解な部分はあるものの全体的に安定しているように感じるし、無理に急いで行動起こす必要はなさそうなのが救いだな。


それに、この魔王、なんか嫌いになれない。


魔王という名称にとらわれず、この人物がどういう人か観察していったほうがよさそうだ。




サチがもぐもぐと咀嚼しながら次に口に入れるお菓子をじっと見つめている。


「ホウろふくるほうりはれんひんふふひはいへふへ」


「な、なんだって?」


ちゃんと食べきってから喋りなさい。


「んっ、ソウの作る料理は錬金術みたいですね」


「ん?あぁ、言われてみればそうかもね」


錬金術の定義は広く、ざっくり言ってしまえば何か混ぜて作れば錬金術扱いにこっちの世界ではなるらしい。


そういう意味では切って混ぜて火を通す料理は知らない人からすればある意味錬金術なのかもしれないな。


そういえば錬金術で気になることがあったな。


「錬金術で思い出したけど、下界の錬金術ってやたら高度じゃないか?」


「そうですか?」


「薬草すり潰して傷薬にするだけであんなみるみる傷が塞がるとか凄いだろ」


下界を観察していると俺の常識が通用しない事が多々ある。


今例えに出したような傷薬なんてのもその一つで、傷にかければ傷が塞がり、飲めば疲れが取れるというなんとも便利な代物だ。


値段はそこそこするが、一本あればかなり心強いと思う。


「私からすればあのような道具を使わなければ傷も治せないのかと思いますけど」


「まぁ念があるからな」


この辺りはそれぞれの価値観の違いによるものなので仕方ない。


「それで、今回は何を不思議に思ったのですか?」


俺が錬金術を見ていて不思議に思った事を説明する。


素材と素材を掛け合わせると確かに効果は上がる場合があるが、理解の範疇を超えている。


「傷薬作る手順見てたけど、薬草エキスと綺麗な水をあわせて、最後に飲みやすいように花の蜜加えただけなのになんであんな効果でるんかなって」


「あぁ。ソウ、一つ考え違いがありますよ」


「ん?なにが?」


「花の蜜を加えるのは飲みやすくするためではなく、エンチャントです」


「エンチャント?なにそれ?」


「エンチャントというのは簡単に言えば効果付与の技術で、マナが多く含まれた素材を加える事で素材の力を引き上げる効果があります」


「ほほー」


「ほほーってソウもやったことありますよ」


「え?」


「これがやったものですよ」


サチが空間収納から出してきたのは神器の櫛だ。


「下界とは少し方法などは違いますが、これも立派なエンチャント品です」


「そうだったのか」


言われてみれば色々な付加効果付いてたっけ。


「あ、もしかして他にもそういう道具あったりする?」


「一杯ありますよ。調理器具の多くはエンチャント品です」


「おぉ!」


そうだったのか。


日常的に使ってたが凄いもの使ってたんだなぁ。


「サチも出来たりするのか?」


「えぇ、念があるので簡単なものなら」


「俺も出来るかな」


「うーん・・・ソウの場合神様なので神力を使わずにエンチャントできるかはちょっとわからないです」


「そっか。まぁいいや、サチができるならちょっと錬金術やってみたい」


「いいですよ」


こっちでやるとどんな風になるんだろうか。楽しみだ。




「泡泡あわわー」


サチが風呂で泡を飛ばして楽しそうだ。


錬金術をするために風呂に移動し、そこで作ったのは石鹸だ。


石鹸自体は下界でも作られているのでレシピもあるし、素材もあった。


普通につくるとただの石鹸だったが、サチがエンチャントを施したところ、成功したものは美肌や保湿といった効果がそれぞれ出るようになったらしい。


念があるからこれ以上綺麗になる必要あるのかと思ったが、口に出すと女性を敵に回すので心に秘めておいたほうが賢明だろう、うん。


「これ、観光島で配布してもいいですか?」


「作ったのはサチだし、サチがそうしたいなら反対はしないぞ」


「ありがとうございます」


ちなみに俺は横から口を出しただけ。


エンチャントする時に触媒となるための素材を選ぶ際、香りがいいものをと助言したぐらい。


ま、その結果今みたいに喜んでくれたなら俺も嬉しい。


「あわー」


だからと言って風呂全体を泡だらけにするのはどうなんだろうか。


天然素材で作ったし、念で綺麗に出来るとはいえやりすぎな気がする。


失敗作の中にドライアイスのように湯につけると無くなるまで泡を出し続けるものが出来てしまったのだが、サチはそれを妙に気に入ってしまい、現在桶や浴槽から泡が放出され続けていてそろそろ天井に泡が届きそうだ。


もはやサチの姿はシルエット状態でしか見えないが、そのシルエットがまだ泡で遊んでいる。


ここまで楽しそうに遊ぶのならこれはこれで子供受けするものにならないかな。


あとで落ち着いた頃に提案してみるとしよう。

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