ハイテクなコタツ

魔族の都市、中央都市の観察を続けているが正直情報過多で大変だ。


サチの負担を減らすためにも時間の進みをかなり遅くしているが、それでも見る物が多い。


街に入った信者の動きも遅いのでまだ全体の一、二割程度しか見えていないがそれでも色々わかってきたものはある。


まず水道や下水といった公共施設がちゃんと街の隅々まで行き渡っている。


道路も区画整備され、公園等もちゃんとある。移動手段も前の世界より多岐に渡り様々だ。


それもこれも魔科学技術のおかげだと感じる。


以前一時的に見えた湖上の街でこういう技術を見たことがあるが、あそこまで高度ではないものの、最低水準の底上げに一役買っているのは確かだ。


「ふむ・・・」


「何か気になる事でもありましたか?」


視線も手も止めずにサチが聞いてくる。


いつもより声が凛々しい。最初に会った頃を思い出す。


「ん?んー・・・勇者が関わってそうだなとね」


「やはりそう感じますか」


「うん。あちこちでそういうものを感じる。一応最終目的地はここだったはずだからおかしくは無いんだが・・・」


「何か?」


「一応魔族からすれば敵だよな、勇者って。だったら何故異世界の技術が馴染んでるのかなって思ってさ」


「なるほど・・・」


考えられる事は何通りかある。


一つは魔族が勇者の技術を見て真似た。


もう一つは捕らえられ、無理やり吐かされた。


そして。


「・・・ソウ、残念なお知らせがあります」


「なんだ」


「魔族になった元勇者が見つかりました」


懐柔され魔族に成ったか、だ。




「サチ、詳しく」


「はい。視野範囲端、限りなく中央に近い位置の屋敷にて確認しました」


「貴族の屋敷か」


中央都市は中央に向かえば向かう程生活が裕福な人が住むようになっている。


外から空家、一般下位、一般中位、一般上位、富裕層、貴族というような並びで家が建っており、各地区の境目がそれぞれ商業区で分けられているという感じだ。


おそらく貴族より更に中心には王族がいるのだろうが、まだ見えていない。


で、今回元勇者が見つかったのが貴族の場所。


つまり魔族に情報を提供する見返りとして裕福な暮らしを保障されたというところだろう。


「それで、そいつは今どうしてる?」


「えーっと、それが・・・」


「なんだ」


「こちらを見て頂いた方が良いかと」


歯切れの悪いサチが映像をよこしてきた。どれどれ。


部屋で何か書いているようだが・・・絵?いや、イラスト?


「・・・漫画か!」


「これが漫画というものですか」


「うん。あー俺も詳しいことまでは分からないが、たぶんそうだと思う。というか何で異世界まで来て魔族になって漫画描いてるのさ」


「さ、さぁ?」


確かに異世界の方が競争率は下がるだろうから売れるだろうけども。


もうちょっとさー、折角異世界に来たんだから冒険とかすりゃいいのにさー。俺が言えた事じゃないけど。


「で、どんな感じなのよ」


「かなり売れているようですよ。恋愛から専門書まで様々なジャンルを描くようで、絵付きなのが好評なようです」


「まさか漫画を参考に公共施設を整備したなんてことは・・・」


「ソウ、部屋に飾ってある絵を見てください」


「・・・この街の外観図にみえるね」


「これ、取り込んでおきますね」


「・・・うん。よろしく」


なんだろう、信者の視野範囲を拡大する事無く街の全体図がわかったのはいいことなんだが、このやるせない気持ちはなんなんだろう。


「ふー・・・」


「今日はこのあたりにしておきますか?」


「そうするか」


何か色々な情報が入りすぎて頭の整理が追いつかないし。


とりあえず俺が思ってたような血生臭い事にはなってないようで少し安心した。




「ちょっと頭を冷やしに行きましょうか」


仕事が終わってもまだ頭が仕事の事に引っ張られていたらサチがこんな事を言い出した。


てっきり切り替えできないのを叱られるのかと思ったら、あれよあれよといううちに転移した。


「サチ!寒い!」


転移した先は氷雪の島だった。


頭を冷やすってそういう!?


頭どころか全身冷えて辛いんですけど!


「そうですか」


しれっとした顔で返事をする。


おう、そっちがその気なら俺にも考えがあるぞ。


「あの、ちょっと何を、ひゃっ!」


念を使ってくれない意地悪な補佐官に抱き付き服の中に手を突っ込んだ。


「わ、分かりました、謝りますから!」


「ハハハハハ!」


半ばやけくそになって手当たり次第に温い場所に冷えた手を当てまくった。


一応周囲に誰もいないのを確認してからやっているのでそこは安心して大丈夫だぞ。




「ごめんください」


戸を叩くと足音が近付き扉が開くと同時に巨体が姿を見せる。


「おぉ、これはソウ様。ようこそおいでくださいました」


「やあ、アズヨシフ。コタツ出来たんだって?」


「えぇ!立ち話もなんですからどうぞお入りください」


「うん。お邪魔します」


雪を落として中に入る。


ふぅ、空気が暖かい。


「言ってくだされば迎えに行きましたのに」


「さすがに寒い中待たせるのは悪いし、気にしないでくれ」


案内人がいるとサチがくっついてこなくなるからな。


こういう寒いところだと存分にくっつけるのがいい。


いつもとあまり変わらない気もするが気のせいだ。


「それで、完成したコタツってのは?」


「あちらです」


アズヨシフが指差す先には大きめのコタツが置いてあった。


既にセッカとシュネが座ってくつろいでいる。


どうしてサチはもう座ってるのかな?俺とアズヨシフが話してるのをよそに一直線で行ったよな?


「今日はエスカはいないのか」


「いえ。こら、エスカ、ちゃんと出てきなさい」


「はーい」


声と共に中からにょきっと出てきた。猫じゃないんだから・・・。


三人に挨拶しつつサチの隣に座る。


このコタツは大きめに作られていて三人並んで座っても余裕があるぐらいだ。


「ふむ、暖かいのは同じだが、前より温度設定下げたのか?」


コタツに入って分かるのは前より足にジリジリとした熱を感じないところだ。


「はい。何度か試作したのですが、どうにもこうにも寝る輩が出てしまうようで」


女達が皆そっぽを向く。全滅か。コタツ恐るべし。


「そこでいっそ寝ても身体に影響が低いように考えを変えまして、今の形になりました」


「おぉ。詳しく」


「まず、中の温度は以前より低めに。代わりにこの掛け布団の素材に着目し、保温効果を大幅に向上させました」


「ほうほう」


布団を触るとふかふかして暖かい。これでクッションとかぬいぐるみを作ったら抱き心地よさそうな気がする。


「また、内部の温度を一定にするよう自動調節する機能や体温や肌の乾燥具合を感知して調節する機能も搭載しました」


また随分とハイテクなものになったな。


「それとですね」


立ち上がり近くにあった分解してあるコタツのところまで行く。


手際良く組み立てると今のより背の高いコタツが完成する。


「このように椅子でも大丈夫なように高さ調節することも出来ます」


「ほうほう。でもそれだと熱が逃げないか?」


「ご安心を。別の掛け布団があり、それを二重に掛けることで中の温度が逃げ難くなるようになっています」


内側に暖簾のような切れ込みの入った薄手の布団を入れるのか。


掛け布団もこっちのより薄手でなめらかになっている。


「素晴らしい」


「ありがとうございます」


「椅子でも十分暖かそうだ。これなら堀炬燵にしなくてもいいな」


「堀炬燵?なんですかそれは!」


おおう、凄い食いつかれた。


ざっくりと説明する。


「・・・盲点でした。床を掘るという発想は浮かびませんでした。うぬぅ」


「いや、堀炬燵にも欠点幾つかあるし、椅子でこれだけ良い物が出来れば十分だと思うぞ」


「ありがとうございます。しかしあえて凹凸を作るのか・・・うーむ・・・」


あー、考え込んでしまった。悪いことしたなぁ。


「気にせんでええ。一種の職業病みたいなもんだからの。それより、ほれ、果物でもどうかね?」


「お、ありがたい。頂こう」


黙考状態のアズヨシフはコタツを凝視しながら固まってしまったが、放っておくしかないようだ。


その間にセッカから切り分けた果物を頂く。


「おっ、冷たい」


「暖かいコタツに冷たい果物、なかなかよかろう」


「うん」


隣でアイス痛を発生させてるサチをよそに小口で頂く。


あーいいねぇ、この時間がゆっくりと進む感じ。


眠たくなるのもわかる気がする。

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