念の試験

草原の街での大依頼消化祭は盛況だ。


そんな中俺が注目している女子五人組プラス青年一人の徒党は街の北のダンジョン付近を暴れまわっている。


表現が悪いかもしれないが、本当にそうなんだからしょうがない。


とにかく次々と依頼の獲物を仕留めていっているのだ。


前にも彼女達が戦っている様子は見たことがあったが、もう少し手間取っていたという印象だった。


それから多少時間が経過したとはいえここまで成長するものなのだろうか。うーん、これが若さなのかな。


ともかく彼女達がここに来たおかげでダンジョンから溢れ出た生物は大分居なくなった。


どうやら増えたダンジョン内の生物が処理しきれなくなり、外に出始めてしまっていたようだ。


本来そうなる前にどうにかすべく常にダンジョンに人が入り討伐を行っていたのだが、色々な事が重なり人手不足になってしまっていたみたいだ。


基本的に外に出る生物ははみ出しものなので本来の生態から少し外れている。


それが進化の過程の一つでもあるのだが、飛び出したものは刈り取られやすいというのも世の常だ。


それは人も同じなのだが、冒険者ギルドはその辺りをしっかり弁えているので丁度いいバランスになるよう常に気を配っている。


それでもどうしても飛び出したい輩というのも現れる。


今回のお祭りではそういう人も依頼のターゲットになっている。自業自得だ、ご愁傷様。


画面では今日の依頼が終わったようで、報酬を受け取りいつものようにその半分を食費に費やしている。


同行している青年は彼女達のノリについていけてないようで、少し離れたところに退避している。大丈夫かな。


五人組と共にこの青年の事も観察していたが、どうも手を抜いているというか、彼女達の力量に合わせている感じがした。


どことなくオアシスの街に滞在しているあの爺様を思い出させる。


・・・流石に失礼か。彼女達と同い年ぐらいの若さだし。


うーん、何か引っかかるんだが信者でもないから彼女達と別れたら追えないしなぁ。


ま、悪い奴では無さそうだし見かけたら気にする程度で大丈夫だろう。




今日は学校に来ている。


と言っても水泳を教えに来たのではなく用事があるのはサチで、それにくっついてきた感じだ。


なんでも念の試験をするらしく、サチはその試験監督官として呼ばれたらしい。


いつも一緒に居るから忘れがちだがサチは念の扱いはトップクラスらしいからな。


その念を普段料理を作る際に便利な力として使ってしまっているのだが、その手の人に知られたら怒られないだろうか。ちょっと怖い。


「ソウ様は今日何しに来たの?」


「ん?俺はサチにくっついてきただけだよ。そうだな、皆の頑張りを見に来たってとこかな」


「そうなんだー。じゃあ頑張るね!」


「うん。応援してる」


試験場となる実技館に移動しながら色々な子と言葉を交わす。


随分懐かれたものだ。


嬉しくてつい威厳を捨てそうになるが、サチに釘を刺されているのでギリギリのところで保てている。・・・はず。


子供たちと話しながら実技館へ入る。


中はドーム状のアリーナのようになっており、窓も無く、薄暗い。


ミラが教員に指示を出すとしばらくした後、実技館全体が明るくなった。


よく見ると壁面自体が発光している。どういう素材なのかわからなかったが、なんか凄い技術の結晶なのはわかった。


「ソウ様、どうぞこちらに」


「あぁ」


邪魔にならない場所にいたミラの隣に座る。どうやらここで見ていいようだ。


会場が落ち着いたところで教員が念の試験のデモンストレーションをしてくれる。


呼ばれた者は中央付近に置かれた机の上にある様々なものを選んで手に取り、念を発動させて効果を試験官に披露する。


コップに入った水を氷にするなんてのがいい例だな。


念を使うのが余り得意ではない子から呼ばれていくらしく、浮いたり氷を作ったりしている。あれぐらいなら俺も出来そうだ。


「ソウ様は普段どんな念をお使いなのですか?」


「ん?全然使ってないけど」


「え?」


「サチが代わりにやってくれるからね。俺が使う必要ないんだよ」


「そうなのですか。なるほど、それでいつもサチナリアさんに抱えられて飛んでいるのですね」


「あぁ、うん。あれ?ミラにその様子見せた事あったっけ?」


「人づてに耳にしていましたので。不思議に思っていたところでした」


「そうか。みっともないかもしれないが、節約の一環でやってる事だから見逃してくれると嬉しい」


「節約?あの、差し支えなければ詳しく伺っても宜しいでしょうか?」


先ほど俺に話しかけた子が会心の出来だったようで嬉しそうにこっちに手を振ってくるので、それに応えながらミラに俺が念を使わない理由を話す。


「・・・なるほど。そういった事情があったのですね」


「まぁね。必要に応じてちゃんと使ってもいるからそこは安心してくれ。出来ればこれはここだけの話にしといてくれた方がいいかな?」


「わかりました。このお話は必要に迫られない限りは秘匿としておきます」


「うん。皆にはのびのびと生活してもらいたいからな」


「ふふふ、ありがとうございます」




念の試験も大分進み、なかなか色々な念をする子が増えてきた。


土から花を咲かせたり、水で物を切ったり。中には他の子が使った道具を元に戻すなんて芸当を見せる子もいた。


「凄いな・・・」


「そうですね。この頃の子供が一番自由な念を使いますからね」


「あー、なるほど」


年を重ねるにつれ、安全、安定を求めるようになるから自然と凝り固まったものになってしまいがちになる。


前の世界じゃ絵や音楽という形でそれが表れていたが、こっちの世界では念という形で出るのか。面白い。


そんな事を考えながら見ていると残りの人数はあと二人となっていた。


「今日こそ壁に穴をあけてやる」


中央に立った子が宣言をする。


あれ、あの子見たことがある。水泳の時に溺れたのを助けた男子だ。


そうか、念の能力が長けている子だったんだな。


金属の棒を持ちながら両手を合わせ、精神を集中させると手や体のところどころが一瞬発光しはじめる。


次第にその頻度が増し、バチバチと音を立てる。


「雷撃か。大丈夫なのか?」


「大丈夫です。雷撃は制御が難しい高度な念ですが、それだけではここの壁に穴はあかないでしょう」


充電が最大になったところで壁に向かって雷撃を放つが、壁は何事も無かったかのようにその威力を霧散させた。


壁も凄いが彼も凄いな。正直雷を放っている姿は下界の優秀な魔法使いのようだった。


「くっ・・・」


本人は悔しそうにしているが周りからは歓声と拍手が起こる。うん、カッコよかったぞ。


落ち着いたところで最後の一人が来る。


「・・・アン?」


「彼女の名をご存知なのですか?」


「うん。初めてここに来る前に会った事があってね」


「あぁ、なるほど」


ミラが何か合点したかのような返事を返してくる。また一つ謎が解けたんだろうな。


「よろしくお願いします」


試験官に一礼するとその場から動かずそのまま目を閉じ精神の集中を始める。


「まさか、彼女は媒体なしで念を発動させるつもりですか?」


「ん?どういうこと?」


聞けば念を扱う際、何でもいいので媒体、用意された道具を手にした方が圧倒的に発動しやすいらしい。


アンはそれに頼らずに念を扱おうとしている。


なるほど、最後に呼ばれるだけの事はあるってことか。


アンは手のひらに大きな水球を作り出し、それを凍らせ、ウィンドカッターでそれを刻み、氷の彫刻を作り上げた。


彫刻の出来栄え自体は前に見た職人のものと比べるとかなり甘い出来ではあるものの、あの若さでそれをやり遂げたという事が凄い。


「うーん、まだまだかなー」


こっちも当人が納得していない様子だが会場は大いに沸いた。


その後、サチが総評を言い、サチによる念のデモンストレーションが行われた。


光球を作り、それを維持しながら霧を発生させ、虹を作って見せた。


それだけに留まらず、氷の鏡で光を乱反射させたり、歩くとそれに合わせて青白い光の波紋が広がったりと最早それは一つのショーのようだった。


披露が終わり、拍手喝采が鳴り響く。


「サチの奴、最近自分で体験したことを再現したのか」


「そうなのですか?」


「うん。俺も一緒に居たから何からヒントを得たか全部わかるよ」


「そうですか。・・・そうでしたか」


それだけ言ってミラはハンカチで目尻を押さえていた。


何か思う事があったのだろう。


その様子は子の成長を喜ぶ親に見えた。




「もうちょっと下をお願いします。あ、そこです。あー・・・」


帰宅後、労いも兼ねて足裏をマッサージしてあげている。


サチはこれが好きなようで、よく頼まれる。


念があるので特に体調が良くなるというような効果は無いのだが、サチ曰く気分的な部分が良くなるらしい。


色々大変な役職だからな。俺が言うのもなんだけど。


今日もミラが帰りがけに言ってたが、最近のサチは余裕出てきたと皆口をそろえて言う。


神力も安定域になってきたし、危機的な状況から脱せたからだろうな、きっと。


気付けば静かになっていた。寝たか。


しばらくすれば起きるだろう。そっとしておいてやるか。

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