エルマリエの相談事
草原の街でなにやら面白そうな催しが開催されている。
冒険者ギルド主催の大依頼消化祭だそうだ。
なんでも依頼が一定量を超えた時に開催するもので、普段より多く報酬が出るみたいだ。
そうなると冒険者の懐が温かくなるのでそれを狙った商売人達が活気付く。
そうやって結果的に街全体の金の回りが良くなり、街全体がお祭りのような賑わいを見せる。
さて、この大消化祭だが、ルールが存在する。
必ず六人一組で依頼を請け負わなくてはいけない。
報酬は等分配布で出し抜いたりすると降格や資格の一時停止など厳しい処分が下される。
六人になれない場合は募集をかけて追加したり、一時的に合併したりして必ず六人にする。
こうやって請ける人数を固定にすることで報酬の分配計算を簡略化させ、作業効率を上げるという手法は流石冒険者ギルドだなと思う。
既に何度もこのお祭りに参加している冒険者は六人組を作って依頼を請け、ギルドから出かけて行っている。
もたついているのは初参加の人やビギナークラスの人達だ。
例の女子五人組もあと一人を追加できなくて困っているようだ。
完全女子五人組でやっているためか、募集をかけても人が来ないようで、まだ待合所にいる。
ギルドで徒党の面子を募集する際、受付を通すようになっており、どうも彼女達に見合う一人というのがなかなか見つからないようだ。
何人か下心のありそうな男が募集に応じようとしたが、受付で止められていた。
こういうところもしっかりとしてくれるのがこのギルドのいいところだと思う。
仲介する手間というのはまどろっこしいと思う事もあるかもしれないが、こういう風にすることで安全性を高めている。
特に女性の冒険者であれば特に嬉しいシステムじゃないかと思う。
・・・ん?お?五人組に動きがあった。
どうやら一人見つかったようだ。
って男じゃないか。同い年ぐらいの青年だ。
受付が通したという事はお墨付きってことなんだろうけど、大丈夫なんだろうか。
俺が心配しているのはどっちかといえば青年の方だ。
礼儀正しそうだし、立ち振る舞いも紳士的でなかなかの好青年だ。
それ故にあのぐらいの年の女子に囲まれた時の心労が心配なんだよな。
俺も農園とか行くと感じるが、元気な女性に囲まれると気圧されるからな。
まぁ大丈夫だろう。五人組もみんないい子達だし。
早速相談して請ける依頼を選んで出発するようだ。彼女達は信者だし、何より面白そうなので追跡してみるかな。
「ソウ、時間ですよ」
「えー、折角いいところだったのに」
「はいはい。続きは次回にしてくださいね」
くっ・・・仕方ない、次回のお楽しみにしよう。
今日は農園に来ている。
と言っても料理を教えにというわけではなく、人と会うためた。
「個室か」
「えぇ、一応念のために個室を用意していただきました」
戸を開けて中に入ると知った顔が少し不安そうな表情で座っていた。
「そ、ソウ様!お、おひさしぶり、です」
「久しぶり、エルマリエ」
俺の顔を見るとパッと明るい表情になり、挨拶をしてくる。
「こんにちは、エルマリエ」
「やあ、サチナリア。相談に乗ってくれて感謝してる」
「いえいえ」
あれ?二人仲良くなってる?
何やら二人だけの共通話題があるようなので、ひとしきりその話が終わるまで座って待つ。
二人とも頭いいから高度な会話が繰り広げられているようだが、俺にはさっぱりわからん。
なんであれ仲良くなったのであればそれに越したことはない。うんうん。
「ソウ、お待たせしました」
「うん。それで、折り入って相談って聞いたけどなんだ?」
話を切り出すとエルマリエの表情が暗くなる。
落ち込んでるような悩んでいるような、複雑な感情の入り乱れを感じる。
工場で上手くやれていないのだろうか。まだ若いし。
「エルマリエ、大丈夫、ゆっくりでいいから」
「う、うん・・・」
サチが優しくしてる。
仕事終わりにサチからエルマリエが困っているから助けてあげて欲しいといわれた時は驚いたが、いつの間にか仲良くなってたんだな。姉妹みたいだ。
しばらく待ってからようやくエルマリエが口を開く。
「あ、あの、お、お茶会に誘われてしまいまして!」
・・・え?
「あー、つまり工場の人達のお茶会に誘われたわけか」
「う、うん」
折り入って相談というから緊張して臨んでいたが、今はそんな緊張もなくなり肩の力が抜けている。
相談の内容は工場の年上の女子達からお茶会に誘われたという内容。
「いい事じゃないか。今までそういう事も無かったんだろ?」
「そうなんですけど、その、ボクそういうのとは縁がなくて、どうしたらいいのか」
人によっては大したこと無い内容かもしれないが、彼女にとっては一大事なんだろう。
「サチからは何かアドバイスは貰ったのか?」
「それが、わからないと」
「え?サチ?」
サチの方を見るとバツが悪そうにそっぽを向いて視線を合わせようとしない。
「そ、その、私もそういう事に誘われた時どうしたらいいのかわからなくて、丁重にお断りしてきてましたので」
あー・・・。
そういえばこの二人似てるんだった。
誰かと一緒ならいいのだが、一人で参加となるとダメらしい。
そんなわけで俺に相談となったわけか。
「うーん、そうだなぁ」
ここで求められる答えというのがなかなか難しい。
要はお茶会に参加するにあたり後押しする力が欲しいんだろう。
前向きでいいとは思うが相談相手が悪い。どうしたものか。
「話は聞かせてもらったわー!」
どう答えようか考えていたら急に扉が開いた。
「ルミナテース?」
「やっほーサチナリアちゃん。ソウ様こんにちは。そちらのお嬢さんもこんにちは」
「こんちは。邪魔してるよ」
「こ、こんにちは・・・」
挨拶をするルミナにサチの視線が鋭くなる。
「盗み聞きとはいい度胸ですね」
「誤解よー。偶然聞こえちゃっただけなのよー」
「どうだか」
「だってー、折角来たのに何も頼まないんだものー。悲しくてつい・・・」
「それについては謝ります。が、やはり聞いていたのですね」
「えへへー」
「はぁ、まぁいいでしょう。貴女も参加してください。エルマリエ、この人はこの農園の園長のルミナテース。名前ぐらいは聞いたことあるでしょう?」
「え?じゃあこの人が元警備隊隊長の?」
「そうよー。初めまして、エルマリエ工場長ちゃん」
「こ、工場長ちゃん?それよりボクを知っているの?」
「そりゃ勿論よー。若くして工場長に抜擢された子の名前ですもの。実際近くで会うのは初めてだけども」
「そ、そうか」
エルマリエの顔が少し赤くなる。
名前を覚えてもらえているというのは嬉しいからな。
「もーこんな可愛い子だったらもっと早くに会いに行くべきだったわー」
「か、可愛い?ボクが?」
「そうよー」
「気をつけてくださいね。この女は抱きつき癖が酷いですから」
「ひっ」
サチから警告を聞いて慌ててサチの後ろに逃げるエルマリエ。
ジリジリと距離を詰めるルミナ。
それよりどうしよう、俺完全に空気になってんだけど。
完全に話が脱線しちゃったし、落ち着くまでもうちょっとエルマリエを守るサチと抱きつこうとするルミナの攻防を見ていようかな。やれやれ。
「へー、工場じゃそんな風に人事をしているのねー」
「うん。その人に適した工程量を設けて最大効率が出るようにしてあるんだ」
エルマリエを巡っての攻防はひとまず落ち着き、サチとルミナに挟まれながらエルマリエは工場の話をしている。
ルミナもなんだかんだで長という役職だからか、他の場所の仕組みが気になっているようで、興味深そうに聞いている。
何でもそうだが自分のやっている事に興味を持ってくれるというのは嬉しいものだ。
エルマリエは特にそういう経験が少ないからか、すっかりルミナに気を許している。
そんな様子を俺は黙って傍観している。
決して長時間空気になったから不貞腐れたとか、いつまで気付かれないかチャレンジしているとかそんなのではない。うん。違うぞ。
人数は少ないが状況として今の状態はエルマリエが言うお茶会の状況と似ているのではないかと思う。
「そう、だから最近は皆ボクの話を聞くようになって・・・」
お、エルマリエがやっと俺の視線に気付いた。
エルマリエの様子を見てサチとルミナもこっちを向くのでにっこりと笑ってみせる。
そして三人の顔が青くなる。ははは、楽しい。
「あ、あの!ソウ様!ちが、ちがうのです!」
「そ、そうなの、別に放置していたとかじゃなくて」
「そ、ソウは優しいのでこのぐらいじゃ怒りませんよね?」
「うん、大丈夫大丈夫、気にしてないから」
ただしサチ、お前は後でお仕置きだ。うん、怒ってはいない、口実を作っただけだから。ふふふ。
それはそれとして話を戻そう。
「見てて思ったけど、今の感じで臨めばいいんじゃないか?」
「今の感じ?」
「そうそう、自然体で話せてたし良いと思うんだが。ルミナはどう思う?」
「エルマリエちゃん可愛い!」
・・・そういう事を聞いてるんじゃないんだけど。
「・・・まぁ初対面のルミナがこうなるんだから大丈夫ってことだろう。後はそうだな、なるべく笑顔でいれば上手くいくんじゃないかな」
「笑顔、ですか?」
「うん。エルマリエが楽しそうにしている様子は人を惹きつける何かがある気がする。お茶会に誘われたのも最近そういう顔が出るようになったからじゃないのかな?」
「さすがソウ様!よく分かっていらっしゃる!」
うん、ルミナ、ちょっと静かにしててくれないかな、いいところだから。
「ソウ様がそういうなら心がけてみます」
「うん、応援してる。それとサチからクッキーあたり貰って手土産にしてくれ。頑張るエルマリエへ餞別ってことで」
「本当ですか!ありがとうございます!」
うん、これで大丈夫かな。
結果はサチに連絡が行きそうだから来たら教えてもらおう。
「あの、エルマリエちゃん、今度はお姉さんの相談に乗ってくれないかしら?」
「ん?」
「効率のいい訓練方法を教えてもらいたいんだけど・・・」
俺とサチの顔が一気に険しくなる。
ルミナ、お前それ以上強くなってどうすんだ?
そう思いながら律儀に答えるエルマリエの様子をサチと眺める事にした。
「・・・」
じー。
「あの、ソウ」
「・・・」
じー。
「放置していたのは謝りますので凝視し続けるのは勘弁してください」
帰宅後、お仕置きとして無言でサチを凝視しながら追い回してみた。
涙目で逃げ回る様子は可愛かったのだが、途中で反撃に転じられてしまった。
逞しくなったなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます