四季島の経過視察
「お待たせしました。どうぞ」
下界の視野範囲内の情報がまとまったようだ。
魔族の勢力は基本的に領に分かれており、各領は領主が治めている。
今画面で女主人からあれこれ言われている男が魔族勢力の北に位置するここの領主。
情報によれば領主の世代交代による領民離れが発生し、現在財政難に陥ってる状態。
そこで領主は月光族の村を視察。商会の状況を知る。
どうにか商会と良好な関係を築こうと考えていたところ、五人組が何を勘違いしたのか女主人の拉致を計画。
そして実行に移されひっぱたかれて正座させられているというわけか。
領主は五人組の計画を知ってはいただろうが、止めもしなかったわけだから監督責任としてひっぱたかれてもしょうがない。
ちなみにここの領主と女主人は元々面識があったようで、女主人はここの財政状況がどうなっているかも知っていたようだ。
「こちらがこの近辺の生態状況になります」
馬車が通過した森は月光族の港町の南の森と繋がっているので大きな差は無い。
この北の領はというと、亜人種が大半を占めており、純粋な人間種は少ない。
亜人種の種類も月光族と比べると物理派よりは魔力が高い魔法派が多いようだ。
他にも結構縄張り意識の高い生物が多いな。
地形的に洞窟が多いようで、暗所で生きる生物がかなりの数並んで表示されている。
「やっぱりここは鉱石とかそういう類の物が産物になってる?」
「その通りです」
「なるほど、その鉱石の採取量が減ってきたのもあるのか。鉱物は農業や林業と違って消耗する一方だからなぁ・・・」
「一応鉱石を作り出す方法もありますが、地質を変化させるので生態系に大きな影響が出ます」
「そんな方法があるのか」
「えぇ。恐らくここは過去にそういう事が行われた場所だと推測されます」
「ふむ。なるほど」
そう言われると納得できる部分があると地図を見て思う。
基本平地なのに地割れから入れる洞窟があったり森が極端に抉れたような形になっているのは恐らくその名残だろう。
考えられることは過去にあった戦争か。
かなりの広範囲の地質を変化させたと言う事はそれなりの規模だったんだろう。
今なら多少心に余裕があるので受け止められるだろうが、神になった直後に戦争のような凄惨な場面を見てたら俺はどうしてただろうか。
いや、それでも前の神のように大きく介入はしなかっただろうな。心は痛めただろうけど。
さて、この北の領について大体わかってきたな。
見た感じ月光族の村とそんな差はないな。
違いがあるなら種族と目の輝きや活気さかな。
人口が村レベルまで減っているこの北の街の雰囲気はどんよりとしている。
売っている食材も新鮮さが無く美味しそうに見えない。
このまま放って置けば領として成り立たなくなるのは目に見えている。
どうしてここまでになってしまったのかは今の領主に起因するものなのだろう。
単純に産物になる資源が枯渇したのに何も手を打たなかったのか、新たな事業に手を出して失敗したのか、それとも領民を蔑ろにしたのか。
色々原因は思いつくがまだそこまでの情報は入ってきていない。
なんであれ大きな立て直しが求められているのは確かなようだ。
画面の様子を見ていると女主人が行商人兄妹と共にここの帳簿などを見て渋い顔をしている。
「助けに入るのか、見放すのか、どうするかな」
「商人ですからね。損得には厳しいと思いますよ」
「しかしここで上手く立て直せれば大きな拠点が手に入るだろ」
「そうですね。一種の賭けでしょうね」
一部の商人はある種の博打打ちのような生き物だと思っている。
この前のオアシスの南の密林の件を見ても、危険を顧みず挑む様はまさにそれだと思う。
一方で地道に稼ぐ商人もいる。
こういう商人は負けを少なく勝ちを多くというスタイルで居る人が多い。
どちらも人の生き方なのでどっちが正しいというのは無い。面白いところだと思う。
とりあえず女主人や行商人の兄妹がこことどう関わって行くのか今後が気になるところだ。
今日は以前召喚した浮遊島の経過を見に来ている。
居住向きの島は好評なようで、既に居住者が決まっていたり、見学者が来てたりとどの島も人の姿が見えた。
まだ植物などは生え揃ってないのにと思ったが、逆にその方が弄り易いのでいいらしい。
確かにその方が自分色に染めた感じで愛着が出て長く住んでもらえるか。なるほど。
居住を決めた何人かと話す機会があったのでちょっとした質問をしてみた。
「この島に住む事を決めた理由ですか?なんとなくですかね」
我ながら頭の悪い質問をしたと思う。
俺も聞かれたらそう答える。そりゃみんなそう答えるわな。
初めて自分の召喚した島に他人が住むからちょっと不安だったからなぁ。思い返すと恥ずかしい。
でもみんな楽しそうにしていたのが印象的だった。
末永く住み続けてくれるといいな。
さて、前回召喚した浮遊島視察もここで最後となった。
訪れたのは前回最初に召喚した四季の島。
長居する事を見越してサチが意図的に後にまわしてくれたようだ。
うんうん、これは長居するわ。
ものの見事に四季折々の島になってて美しい。
ふふふ、自画自賛だがこれはいい名所になるぞ。
「既に造島師が来てるが、彼らは何をしているんだ?」
「ここを訪れた人が見やすいように各島内の通路の確保や島の間を繋げる橋の建設をしてもらっています」
「へぇ。ということは最初からここは共有島にするつもりだったのか」
「えぇ。あの島の設定を見た瞬間にそうせざるを得ないと思いましたので」
「ははは、すまんな」
「いえ、このような場所はそれはそれで必要だと思いますので、多くなりすぎない程度になら今後も召喚しても問題ありません」
「そうか」
「それと共有島は居住島より島の寿命が短くなりやすいので、そこだけ注意しておいてください」
「わかった」
「降りて少し見て行きますか?」
「そうしよう」
サチと降りた島は現在冬になっている島で結構寒い。
「こ、ここは寒いから早く移動しよう」
「そうですか?私は平気ですが」
「そりゃ念で防寒してるからだろう!気付かないとでも思ったか」
「ばれましたか」
そういうと俺にも防寒の念をしてくれる。
まったく、ちょいちょい悪戯してくるんだよな。
今度やったら冷えた手を突っ込もう。
寒くなくなったので意識を島に向ける。
この島は落葉樹じゃなく針葉樹が多いので全体的に薄暗い。
少し不安になる雰囲気もあるが、これはこれで心が落ち着いて良いと思う。
続いて次の島に移動する。
ここは現在春になっていて花が咲いてて色鮮やかだ。
造島師たちもここで休憩をしているな。
・・・ん?
「ユキがいる」
「本当ですね」
あちらもこちらに気付いたようで小走りで来た。
「ソウ様、サチナリア様、こんにちは」
「こんちゃ。こんなところで会うなんて奇遇だな。何してたんだ?」
「えっと、造島師の方々に差し入れを。ワカバちゃんとモミジちゃんの案で。私は造島師の方々担当なんです」
「へー。いいじゃないか」
ユキが来た方を見ると造島師達が各々皿を掲げながらこっちに会釈をしているので軽く手を挙げて返す。
何人かはうちで作業してくれた人がいるな。見たことある顔だ。
・・・ふむ。そういうことか。
「リミは職人達担当だったりする?」
「あ、はい。その通りです。良く分かりましたね、さすがソウ様です」
「ははは、なんとなくね」
やっぱりか。
ワカバとモミジの提案にルミナが興奮気味に賛同した様子が想像できる。
気が利くというかおせっかいというか。
ま、ユキの様子を見ると満更でもないようなのでこのまま続けてもらおう。
造島師達には焼き団子を持ってきたのか。
俺とサチの分もある?ありがたい。
焼き団子なんて教えてないが、日々研究している成果がこうやって出ているのを感じると嬉しくなる。
醤油や味噌があればもっと幅が広がるんだろうな。早くどうにかして作りたいものだ。
ユキに礼を言って俺とサチは島視察を再開。
今度は夏の島か。
この季節は自然が活力に満ちてていいな。緑も綺麗だし。
まだ作業中のようで今はただの窪みだが、いずれ川になりそうなところがある。
うちにある小川もそうだが、造島師達は川の作り方が上手い気がする。
水を良く知っていて、大事にしつつ大胆に使う手法は素晴らしいと思う。
完成が楽しみだ。
残すは秋の島。
秋というのは夏のがむしゃらな感じとは違い、どこか練り上げられた力強さのようなものを感じる。
これから冬を迎えるにあたってそれまで外に向けていた力を全力で内側に向けたような、そんな感じ。
どの季節も特色があっていいが、どれか一つの季節を選べといわれたら俺は秋を選ぶかも。
「これで一通りか」
「どうでしたか?」
「居住島は思ったより好評みたいだし、この四季島も造島師の手が加われば更に良くなると思う」
「そうですね。一通り出来上がった後にまた見に来ましょう」
「うん。今度は弁当持って来よう」
「それは是非!」
折角四季の空気を味わえる場所が出来たんだから、それにあわせた料理を食べたいな。
ユキ達は既に花見に似たような事してるし、そういう新しい島の楽しみ方が出来るといいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます