突然の会合
竜園地が酷い。
いや、酷いというか意地悪というか、上から見ると可哀想に思えてくる。
今一行が挑んでる氷竜の領域は氷の迷路だ。
もちろん色々な罠が用意されているが、その罠を全て突破してもこの領域はクリアできない。
この迷路、普通に道なりに進んでも絶対ゴールに辿り着けないようになっている。
入り口に簡単なヒントが書いてあるようだが、力を尽くして前進せよ、と書いてあるだけではなかなか気付かないと思うんだけど。
クリアするにはこの迷路自体を破壊して直進するしかない、いわばごり押し戦法だ。
果たしてこの方法にいつ気付くかだな。
いかんせん火竜の領域で頭を使うという事が刷り込まれているからなぁ。
これはしばらく時間がかかりそうな気がする。
諦めず頑張って欲しい。
「キ」
仕事が終わった頃を見計らったかのように案内鳥が来た。
「あれ?どうした?」
「キ!キ!」
何か急かしてるな。
突然の来客に驚きつつサチを見ると青い顔をしながらパネルを見ている。
「サチ?」
「・・・すみません。今日会合がありました」
「そうだったのか」
「私としたことが・・・」
「悔やむのは後だ。とりあえず行く準備をしよう」
「は、はい」
服装を正してもらって見栄え良くしてもらう。
「お待たせしました」
「キキッ!」
「申し訳ありません、次から気をつけますのでつつかないでください」
案内鳥に責めらてるサチが少し微笑ましい。
さて、今日は突然だが会合か。
気を引き締めねば。
「オーッホッホッホ!」
あーうるせぇ。
入った途端この騒音女の高笑いをモロに聞いてしまった。
突然の会合だったから対策してなかった。
「ご機嫌麗しゅう。サチナリアさんとその神様」
相変わらず優雅な挨拶だ。
「相変わらず元気そうだな、アルテミナ」
「えぇ。おかげさまで以前より更に日常が刺激に満ち溢れていますわ!」
なんだろう、こいつの刺激というのは物理的な意味も含まれてそうなんだよな。触れないでおこう。
「さあ、サチナリアさん!私に挨拶をなさりなさい!」
「あぁ、はい。こんにちはアルテミナ」
「え?」
「なんですか?」
「い、いえ・・・」
サチのあっさりとした返しに意表を付かれたようで、ススッと俺に寄ってきて小声で聞いて来る。
「あの、サチナリアさんの神様、彼女どうしたのですの?なにか元気が無いように感じられますけど」
「あぁ、ちょっと来る前にちょっとしたミスをしてね。落ち込んでるんだよ」
「お伺いしても?」
「今日会合ある事を俺に伝え忘れてたんだよ」
「ふむふむ、なるほどー、あのサチナリアさんがねぇ。・・・ふふ、ふふふ、ほほほ、オーッホッホッホ!」
あーうっるせっ!近くで高笑いするな!
「サチナリアさん聞きましてよ!貴女ともあろう人が珍しい事もあるのですね!」
ちょっと下向き加減のサチの目線に回り込んで顔を覗き込むアルテミナ。あれはかなり鬱陶しい。
「なんですか、悪いですか?」
「いえいえ、私は嬉しいのです!サチナリアさんも失敗する事があるのですね!」
手を広げて踊るように言う。
ホントいちいち動作がうるさいなあいつ。まだ耳がキンキンするし。
「もって事はアルテミナもするのですか?」
「えぇそれはもちろん!本日も私はした」
「お、ね、え、さ、ま!」
凄い早さでこっちに来たハティがアルテミナの尻に綺麗に平手打ちしていい音が響く。
「あひぃ!」
そして恍惚な表情を浮かべる。ド変態だな。
「お姉様!そういう恥ずかしい事を吹聴するのはやめてくださいと言っているではないですか!」
「ハティちゃん、今日そこは一枚少ないから効き目が凄いですわよ」
「だからそういう事を言わないで下さいと言ってますの!」
・・・。
あいつ、今日下着履いてないのか。
想像しそうになったところでサチに尻をつねられた。痛い。
「見苦しいところをお見せしました」
「あ、あぁ。ハルティネイアも元気そうだな」
「えぇ、おかげさまでこの通りですわ」
相変わらず俺を見る目は少し鋭い気がするが元気そうだ。
それに前よりしっかりしてきている気がする。主にアルテミナに対する態度が。
「おにいちゃんこんにちは」
「やあ、こんにちは」
遅れて少年神がやってくる。
「ハティちゃんダメだよ。ちゃんといくときはあいさつしてからいかなきゃ」
「あ、ごめんなさい」
「おねえちゃん、これはどうみる?」
「ダメですわね!」
「そ、そんな!」
「じゃああとでおねえちゃんにオシオキだね」
「やりましたわ!」
もう何がなにやら。
ま、楽しそうにやっているようだ。
「こんな感じでサチナリアさん。私達もこのように間違いはいたします。余り気負ってはいけませんことよ」
「あ、ありがとうございます」
なんだかんだでアルテミナはサチを気にしてくれてるんだよな。
基本はいい奴なんだが変態がそれをかき消してしまってるのが残念だ。本当に残念だ。
む、来るかな?
「よう」
来た。
「やあ」
「ほう。今日は驚かないのか」
「まぁな。そう何度も驚いてたまるか」
「フッ」
目を閉じて鼻で笑う刀傷の神。
「ふっ」
「うおっ!?」
刀傷の神を見ていたら耳元に息を吹きかけられた。
「フフフ、こんにちは」
「お、おぅ。こんちは。何するんだよ」
「いやー背中ががら空きだったからねーつい」
そう言って面白そうにするのが糸目の神。あー、ぞわっとした。
「まだまだだな」
「くそぅ」
どうもこの二人には遊ばれてる気がする。
だが不思議とと悪い気はしない。男友達という感じだからかな。
「ところで今日の君のお供はいつもの彼じゃないんだね?」
「あぁ、アイツは別件でな」
二人が向く方に俺も視線を向けるとサチと糸目の神のお供と知らない黒髪の女性が話している。
小柄で刀傷の神と同じ雰囲気を持った服を着ている。オアシスの人が着る巫女服っぽいな。普通の巫女服からアレンジがされてる。
「娘さん?」
「違う。紹介しよう。おい!」
声に気付くとみんな揃ってこっちに来た。
「紹介する。妻だ」
「はじめまして。いつも主人がお世話になっています」
黒髪の女性が深々とお辞儀をする。
「お前結婚してたのか!」
「失礼な奴だな。息子もいるぞ」
「子持ち!?はー、人は見かけによらないもんだなぁ」
「お前はとことん失礼な奴だな」
「ふふふ、この人結構子煩悩なんですよ」
「余計な事言うな。もう行くぞ。じゃあな」
「あ、あぁ。また」
奥さんに余計な事を話される前にそそくさと退散していった。
あいつが所帯持ってたとは・・・驚きだ。
「いやぁびっくりしたねぇ。あんな可愛い奥さんがいたなんてね」
「あぁ。あんたはどうなんだ?」
「さぁてね。君のご想像にお任せするよ。それじゃ僕もこのへんで」
「うん、また」
ヒラヒラと手を振りながらお供の三人を連れて糸目の神も次のところへ向かっていった。
うーん、相変わらずつかめない奴だ。
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