雨の日の工作
下界の月光族の村の表示が消えた。
信者が行かないと見れなくなるのは仕方ないがやはり少しがっかりする。
一方で月光族の港町の方は消えずにいた。
どうやら草原の街の方から大河を渡って港町に行った信者がいるようだ。
どれどれ、ちょっと気にして見てみよう。
居た。行商人の二人か。
はて、この二人どこかで・・・あ、草原の街に居た商人夫婦のところで下働きしてた子達だ。
様子を見るにここには販売と仕入れをしに来たようだな。
ふむ、見た感じ妹の方が商才はあるようだ。
筋肉隆々の月光族相手に引かずに交渉をしている。
まだそんな年端も行ってないはずなんだが、凄いなぁ。
一方で兄の方は商人としてイマイチぱっとしない。
体格もなよっとしており、交渉中の月光族と見比べると体格差が凄い。
ん、どうやら交渉相手の月光族が妹の方を気に入ったようだな。
二人は連れられ商館に顔を出しに行くようだ。
商館では女主人が出迎えて商談を進めているが、女主人の視線が兄に集中しているのがわかる。
・・・これは狙われてるな・・・。
前にもこんな事を目撃した事があるが、どうも月光族の女性、特に力のある女性は優男の方が好きな傾向が強い気がする。
普段周りには体格のいい男ばかりがいるものだから、それとは違う男性を見れば興味を刺激されるのは仕方ない事なのだが。
商談は進み、そのまま会食になった。
あーあー、女主人が兄の横に座って完全に仕留める気でいる。
あれ、でも妹はそれを特に気にしてないな。
普通こういう状況になると多少は動揺を見せるものなんだが、一切その素振りが無い。
どういうことだろうか。
あー・・・わかってきた。
この兄、天性の女殺しの素質を持っている。
女殺しというのは女性の好み合わせて能動的に対応を変え、上手く立ち回り、魅了する人の事だ。
しかもこの兄はこの手の力を持った女性や自信を持った女性に対して特化している。
気配りの良さ、話の聞き方、そして微笑み方。
はー、なるほどー・・・勉強になるわー・・・。
妹は妹で兄ほどじゃないがやはり男殺しの素質があるようだ。
こっちはこっちで月光族の男達を魅了している。
女主人のプライドを損なわない程度に印象を良く持たせるという技術を持っているようだ。
二人ともまだ若いのに凄いな。
「さすが淫魔の血を引いているだけありますね」
俺と一緒に画面を見ていたサチが言う。
「淫魔の血?・・・一覧見ると彼らは人間種になっているけど」
「そうですね。人間種の血の方が濃いのでそういう表記にはなります。ですが一覧にある血統の部分を見て貰えば分かると思いますが、淫魔の血が混ざっています」
「どれどれ・・・あ、本当だ。四世代前の父親が淫魔種だな」
「稀にそういったものが発現する場合があります」
隔世遺伝か。兄妹共に発現するのは珍しいな。
しかし、彼らはそういう事を知っているとは思えないし、となれば血の力は補助的なもので、今の状況は二人が得た技術によるものなんだろう。
末裔もそうだが力に頼るのではなく、上手く使いこなすという意味ではこの二人は今後も上手くやっていける気がする。
会食も終わったようだし、商談の方も上々な成果だったようだ。
妹の方は用意された部屋で既に寝ているが、兄の方は女主人に呼び出されてるな。
うん。わかってる。
どうせまた望遠にするんだろ?それなら時間も丁度いいし、今日は終わろう。
仕事が終わった後に兄の真似をしてサチにいい声で今日の予定を聞いてみた。
「ソウ、彼の真似をしているようですが、気持ち悪いので普段通りにしてください」
酷い言われようだ!
今日は雨なので家にいる。
こういう日は料理をしたいのだが、サチの精神がまだ不安定なので念を使わせるわけにはいかない。
そこで暇つぶしに木を削ってあるものを作っている。
先日剪定した時に出た太めの木を輪切りにし、大きさを同じにして表と裏にそれぞれ白と黒の色を塗る。
作っているのは遊具。
前の世界にあった同じ色で別の色を挟むとひっくり返して同じ色に変えられるやつだ。
最初カードでも作ろうかと思ったのだが、ちょっと手間だったのと、紙が無かったから中止した。
紙自体全く無いわけではないのだが、この世界では大半の事がパネルで出来てしまうので紙という媒体が極端に少なかった。
サチに紙を出してもらおうとしたら無いと言われて初めてこの事が判明した。
言われてみれば俺も何か書く時はサチに出してもらったパネルか地面に直接書いて、紙に書くという事をしてなかった。
カード自体は木に色を塗ってしまえばいいのかもしれないが、それはそれでやはり手間なのでやるのは今度という事に。
よし、色塗り終えたし後は乾くのを待つだけだな。
「ソウ、そろそろ何を作っているのか教えてください」
先ほどまで俺に背を合わせて服一覧を見ていたサチがこっちに向き直って背中に体を密着させながら聞いて来る。いい感触。
「前の世界にあった遊具だよ。暇つぶしにいいかと思って」
「ほうほう」
「後は適当な板に線を引くだけなんだが」
「これでいいですか?」
「うん。ありがとう」
直ぐに空間収納から丁度いい大きさの板を出してくれる。
こういう意思疎通の良さが心地よい。
後はこれに碁盤の目を書けば出来上がりだな。
「ルールはそんなに難しくない」
塗料も乾いたのでサチにルールを教える。
「ふんふん、なるほど」
「で、最後に自分の色が多かった方が勝ち」
「面白そうですね。早速やりましょう」
この時俺はまだ気付いていなかった。
主神補佐官サチナリアという人物の凄さを。
「おおぅ・・・」
「ふふふ、どうです?」
盤上は誰が見ても一瞬で分かる程に差が付いてサチの勝利。
ちなみにこれで五連敗目。
俺が勝ったのは最初の一戦だけで、コツを掴んだ後は全く歯が立たなくなってしまった。
おかしいな、こんなはずではなかったんだが。
「これはなかなか面白いですね」
気に入ってもらえたようだ。
もう俺が勝てる見込みは無さそうだけど。
「うーん、もう少し改良したいですね。ソウ、ちょっと追加で作ってもらえますか?」
「ん?いいぞー」
この後サチに色々指定されて追加で作った。
盤も広くなり、コマの種類も増えてもはや原型の半分ぐらい変わった気がする。
「結構難しくなったな」
「その分やり応えは出ました」
「まぁね」
実際やった感想としては、これはこれで面白い。
何より盤が広くなった事で一気に色を変えたときが気持ちいい。
「サチ、これに名前付けるなら何にする?」
「名前があったのではないのですか?」
「んー、色々改良したし、改良案出したサチが命名していいんじゃないか?」
「そうですか。・・・ではシロクロで」
「シロクロか。わかりやすくていいな」
一瞬こっちを見て思考を読まれたような気がするが気のせいだと思いたい。
「はい。今度学校の子供達に教えたいと思います」
「うん、そうしよう」
子供達はどういう反応するかな。楽しみだ。
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