庭仕事

オアシスで結婚式を挙げた末裔夫婦はそのままオアシスの街に住んでいる。


他の結婚した人達は元々ここの住人が大半だったのでそのままだが、末裔の場合元は別の街から来たからどうするのかと少し気になってはいた。


出来れば新天地を開拓してくれればと淡い期待をしていたが、オアシスの街から留まるよう頼まれたようだ。


そりゃそうだよな、あれだけ経済効果を生み出す存在をおいそれと手放すわけもない。


彼らもオアシスの街で活動する事を主としているので都合がいいんだろうし仕方ない。


一方でオアシスの街から遠く離れた城下町で結婚した信者の二人は相変わらず竜園地で奮闘中だ。


まだ火竜の領域を突破できてないのか。もう少し頭使って慎重に進んだ方がいいと思うんだけど。


そんな様子を島の中央で飛びながら眺めてる男がいるな。


彼が和人族の創設者の勇者で現在竜人となった男か。


左右には女性が二人。雰囲気からして雷竜と水竜の統括竜かな。


あ、一行がまた戻された。竜人ががっくりしてる。


そこに火竜の領域から一人の女性が竜人のもとに飛んでくる。何か文句言ってる様子だな。


雷竜と水竜がたしなめてるが落ち着かない。


む、他の地域からもそれぞれ三人の女性が中央に飛んできた。


うわー・・・統括竜総揃いになってる・・・。


火竜と氷竜が睨み合い、風竜が煽り、地竜は黙って傍観し、雷竜と水竜はそれぞれなだめてはいるが、収まる気配がない。


そんな様子をみかねて竜人が口を開くと即座に全員が注目していざこざが終わった。


すげぇなアイツ・・・。


「・・・ふっ、くくっ」


俺が竜人の凄さに感心してたら一緒に様子を見ていたサチが噴出した。


「どうした?」


「いえ、あの勇者がおやつ抜きと言ったら一瞬で争いが収まったので、ちょっとおかしくてっ」


えぇ・・・そんなんで収まるの?


あーあ、本当に家に戻って仲良くお菓子食べてるわ。


うーん、なんかどっと疲れが出た気分だ。サチはまだ笑ってるし。


ま、仲良くやってるようならそれに越した事はないからいいけどね。




「ふー・・・」


家の池に足を浸けて一休み。


ひんやりとした水が火照った体を程よく冷やしてくれる。


さて、汗も引いてきたことだし、もうひと頑張りしようかな。




「そういうわけなので、すみませんが留守番お願いします」


「あいよ、気をつけて行ってらっしゃい」


家の転移場所で飛び立つサチを見送る。


今日はサチと別行動をする事になった。


なんでも水の浮遊島で発見した事がそれなりに波紋を呼んでいるらしく、一斉説明会を行うらしい。


俺もちょっと気になったから付いて行きたかったのだが、俺が行くと進行が滞る可能性があるのでサチに遠慮してくれといわれた。


うーん、確かに俺はこの世界にまだ慣れてないから初歩的な質問をポンポン出してしまう可能性がある。


それに初めて俺を見る人が萎縮してしまっても悪いし、仕方ないと自分を納得させる。


運良く先日アストに依頼した物も届いたので、留守番の間暇つぶしも兼ねて今日はそれを使うことにした。




アストに頼んだものはスコップ、ジョウロ、剪定バサミ、ノコギリにナタといった園芸用品だ。


前に農園の天使達が来てくれたが、雑草の生命力はどの世界でも同じようで、結構庭や花壇に雑草が生えてしまっていた。


一応暇を見つけてはちょいちょい抜いてはいたが、さすがに素手では限界を感じていたところだった。


そんなわけでアストから園芸用品が届いたので使用感も見ながら今日は園芸作業をしている。


雑草を抜いたり不要な木の枝を落としたりしているが、思うのは刃物の出来の良さ。


依頼した時アストとイリウスが一瞬不思議そうな顔をした理由が分かった。


正直こんなに刃物の種類は要らない。それこそナタだけで事足りてしまうのだ。


どのぐらいまでナタで切れるのかと思って試したら自分の腕ぐらいの太い木の枝まで切り落とせてしまった。


さすがにここまで切れ味が良すぎると怖いので、それからは大人しくノコギリやハサミを使うようにした。


スコップも鋭く土に刺さるし、ノコギリやハサミも切れ味が良く、どれもこれも出来がいい。


特に俺が感銘を受けたのがジョウロだ。


これはイリウスが考えたらしく、水を入れる口のところに小さい精霊石がついているのだ。


これを活性化させると自動で水が補充されるので、いちいち汲みに行く手間が省けて非常に便利なのだ。


一応精霊石の能力が落ちた場合のために、俺が知ってるジョウロの形を残した状態で改良してくれたのも嬉しい。


このような質のいい道具がそろうと作業も楽しくなってくるわけで、時間を忘れて園芸作業に没頭していた。


「こんなところに、ってなんて格好しているのですか」


「あぁ、お帰りサチ」


声の方を向くと帰ってきたサチが空からこっちに降りてきた。


「こんな土や葉っぱまみれになって・・・」


俺の前に立つと即座に念で綺麗にしてくれる。


そんな汚れてたか。没頭してて気にならなかった。


「全く、一体何をしていたのですか?」


「ん?庭仕事。アストから道具が届いてたからさ」


「届いた荷物はそのためでしたか」


溜息をつきながら呆れた様子。


「それで、どうしでした?使い勝手の方は」


「うん、素晴らしい出来だ」


「それはなによりです。木々も風通しが良くなったようですね」


呆れながらもちゃんと見る所は見てくれるのがサチのいいところだ。


「そっちはどうだったんだ?」


「えぇ、何とかなりました。さすがにちょっと疲れましたけど」


「そうだなー、俺も少し疲れたし風呂でも入りたい」


「いいですね、そうしましょう」




「ふーん。じゃああの島はあのまま水の島にするのか」


風呂に浸かりながらサチから今日の説明会の話を聞く。


「はい。珍しいのでどういう扱いにするかかなりもめましたが」


珍しいので保有したい者、水を利用した改築をしたい者、精霊石の所有を求める者、精霊の研究をしたい者、色んな人があの島に興味を示したようだ。


どうするか話し合った結果、あの島は共有島として扱われる事になったようだ。


「共有島になるとどうなるんだ?」


「まず勝手に島を弄ることが禁止されます。代わりに自由に利用できます。湧酒場と同じような扱いですね」


「ほうほう」


「基本的な管理は湧酒場同様警備隊が行いますが、問題要素は無いとされ、常駐はせず島の保全を行うという形になりました」


「なるほど。じゃあまた泳ぎに行きたくなったらいつでも行っていいわけか」


「そういう事になります」


「おー。あ、でも水の精の邪魔にならないのか?」


「大丈夫です。精霊は基本的に住んでいる精霊石に何かされなければ人に対して友好的なので」


「そうか」


そういえばサチに泳ぎを教えてる時も水の精の子供があーだこーだと片言ながら色々助言してくれてたもんな。


最初は群れで来たから少し怖かったが、慣れてしまえば可愛いものだ。


あの片言がちょっと癖になるんだよな。


「ただ少し問題がありまして」


「なんだ?」


「その、島を召喚する際の要望が多数出まして」


あぁ、俺の思考がある程度島を召喚する際に影響するという話か。


逆にそれを利用すれば自分が望む島が得られるという思惑か。


「ふむ。全却下で」


「っ!・・・わかりました、そのようにします」


一瞬俺の答えに驚いたようだが直ぐに頷いてくれる。


「悪いとは思うけどね。これまで通り、出来た島をどうにかする方向でやってくれ」


仮に要求を呑んで望んだ島が出来たとしよう。


そうすればまず造島師の仕事が減る。


そうすればそれに付随した者達にも影響が出る。


ただでさえ食による仕事が無いこの世界だ。生き甲斐を失わせてはいけないと思う。


それに今回の件は偶然が重なったものの可能性もあるからな。変に期待させるのもよくない。


「・・・えい」


「ぶっ!なにする!」


考えてたらサチにお湯を顔面にかけられた。


「また一人で考え込んでいますよ」


「む、すまん」


「ソウは優しいですから私達の事を考えて決定をしてくれたのだと思います」


「うん」


「ですが、それをちゃんと口で言ってもらわないと困ります」


「あーそうか。すまん」


改めて却下する理由をサチに説明する。


「なるほど、そういう事でしたら納得です」


「悪いとは思うけどね」


「そんな事はありません。大体ソウに要望を出すとか身の程を弁えるべきなのです。ソウがなんでもかんでも優しい顔をするとでも思っているのでしょうか」


今日の説明会であった事を思い出したのかプリプリ怒り出した。


「まあまあ、落ち着けって」


「むぅ。ですがソウが全却下と言った時、心がスッとしました」


「ははは、腹に据えかねてたんだな」


「えぇ、それはもう!」


その後もサチの愚痴はしばらく続いた。


あんまり風呂で興奮するとのぼせるぞ?


・・・案の定のぼせた。なんか毎回風呂でのぼせてないか?

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