-フラネンティーヌ-

「そういうことだから後お願いねー」


かつての同僚で最強の隊長はそういって突然農家に転職を宣言した。


だからって結婚して辞める予定だった私になんで言うかな。


私が隊長?そんな馬鹿な。他にも私より優秀な人が一杯居るでしょ。


え?その人達も辞める?は?その人達も農業する?


・・・。


「おのれルミナテース!!」


私がここまで怒ったのは後にも先にもこの一回だけだと思う。


怒りに任せてルミナテースに戦いを挑んだ。


私が勝ったら転職を中止するように!




「隊長、再編成の草案まだでしょうか?」


「隊長!新規隊員の三割が辞めると言い出してます!」


「隊長ーおやすみくださいー」


「草案はもう少し待ってください。新規隊員の鍛錬表を見直してもう少し緩やかにしてください。貴女はこの前休んだばかりでしょ、ダメです」


結局ルミナテースに勝てなかった私は警備隊隊長の座に就いた。


そりゃそうよね。私より強い人が束になっても勝てない相手に一対一で臨んだのですもの。


仕方なく隊長になってからの事は忙しすぎて良く覚えてない。


とにかく上層部の人員がごっそり抜け落ちてしまってこれまでの警備隊の五割も活動できていない。


一応これまでの活動で変な事をする人は居ないみたいだけど、何かあったときに動けないようじゃ話にならない。


早く再編成したいところだけど、とにかく人手が足りない。


新しく隊員募集して応募は一杯あったが、その子達が使えるようになるまでもうしばらくかかる。


とりあえず使えそうな人材を上に据えてみて場凌ぎしてるけど。


次から次へと私のもとに問題が舞い込んでくる。


「隊長!ルシエナ副隊長がまたやらかしました!」




「もーやだー!」


家に帰ったら布団に飛び込んでバタバタするのが最近の日課になりつつある。


「はいはい。今日もおつかれさま」


「むー。エミオ、もっと撫でて」


布団に転がる私の頭を優しく撫でてくれるのが旦那様のエミオ。


メガネが似合う知的な青年に私は一目惚れして結婚まで漕ぎつけた。


「ほら、再編成の草案作っといたから」


「うん、ありがと」


エミオは研究職をしているから頭がいい。


今の警備隊の仮編成も彼の案が多分に含まれている。


「今日もルシエナがやらかしてさー」


「うんうん」


撫でてもらいながら愚痴を言うけどエミオは静かに聞いてくれる。


あー、この人と結婚してよかったって思う瞬間。


私が警備隊隊長になる事が決まった時、結婚も延期か中止という話が出た。


だから私は隊長になることの条件に結婚と結婚生活の邪魔をしない事を出した。


おかげで家に居る間はとても平穏。


「フラネより大変な人もいるからがんばろ、な?」


「うん・・・」


一通り愚痴を聞いてくれたエミオは大体最後にこれを言う。


そうなんだよね、私より大変そうな人が最低でも一人思い浮かぶ。


婚礼の儀にちょっとだけいらしてくれた主神補佐官のサチナリア様。


何か思いつめたような表情をしてたけど大丈夫なのかな。


あの人の事を考えると愚痴を聞いてくれるエミオが居る私は幸せなんだと感じる。


「ね、ね、エミオ」


いつものようにおねだりする。


私達夫婦が寝る時間はもう少し後だ。




「そういえば最近ルシエナは落ち着いてきましたね」


「そうですか?」


「えぇ、このところやらかしたという報告が来ませんもの」


「あ、あはは・・・その節はご迷惑おかけしました」


警備隊の再編成もひとまず終わり、新人隊員にも仕事を任せられるようになりました。


私も大分隊長の仕事も板についてきて、部下からの信頼も厚くなってきました。


「何が貴女に落ち着きを与えてくれたのでしょうね」


「さ、さぁ?」


ルシエナはとぼけてますが落ち着き始めた大体の時期は把握しています。


最近よく耳にする人物とルシエナが接触したのがこの頃。


その人物はソウ様。


なんでも神様が代替わりしたらしく、その新しい神様がソウ様という話。


前の神様についてはさっぱり分かりませんでしが、ソウ様についてはあれこれ情報が入ってきます。


農園で料理というものを教えてるとか、変わった物を精錬技師に依頼したとか、造島師に風呂なるものを作ってもらったとか。


正直私にはどれも良く分からないものですが、共通している事は関わった人からの印象は悪くないという事。


そして同行しているサチナリア様の印象が大きく良くなったという事の二つ。


私が特に興味を引かれたのが後者の話。


あの堅物を背負っているようなサチナリア様を懐柔させたというソウ様とはどんな方なのでしょうか。


一度お会いしてみたいものです。


「ところで最近自室で妙に可愛い服を着て楽しんでいるらしいですが、それと関連はあるのでしょうか?」


「な、何故それを!?」


警備隊隊長の情報力を甘く見ないでもらいたいものですね。




本日、遂にソウ様とお会いできました。


なるほど、みんなが言う評価に納得できました。


それよりもサチナリア様の変わりっぷりに少し驚きました。


相変わらず仕事の時の雰囲気はピリッとしていますが、それ以外の時の雰囲気が以前と全く違っていたのに驚きです。


人はあんなにも変わるものなのですね。


「てことがあってねー。ソウ様に会えたの」


「へー。僕も会ってみたいなぁ」


「結構色んなところに出没してるみたいだからそのうち会えるんじゃない?」


「そうだね」


今日もエミオに撫でてもらいながら今日あったことを話してる。


最近は隊長の仕事も順調で以前のようにバタバタしなくなった。


でも習慣になってしまったエミオとの時間はそのまま残ってる。


だって気持ちいいんだもん。一日の疲れがこれで無くなる。


「エミオすきー」


「僕もだよフラネ」


今日も私達夫婦の仲は円満です。

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