揚げ物
下界の和人の二人は無事対岸の港に到着したようだ。
ふむ、こっちの港の方が活気付いてる。
漁に出ている船も多いことからこっちの方が魚を求める人が多いんだろうな。
そして草原の街と大きく違うのは住民の多くが動物の耳や尻尾を生やしている亜人種だという事。
悪魔種は余り見ないところを見ると、この辺りは亜人種が主に勢力を持っているってことかな?
亜人種にも色々な系統があるが、この辺りは犬や猫と言った地上で生活している動物の亜人が多いようだ。
逆に鳥などの飛べる亜人は商売で来ている人ぐらいでそれ以外はほぼ見かけない。
さて、和人の二人はというと徒歩ではなく別の移動手段を使って移動するようだ。
街中の建物で手続きした後の外付近にある建物へ。
そして二人と一緒に出てきた武装した馬。
ちがった、下半身が馬で上半身が人の人馬種。ケンタウロスか。
二人は人馬の背に乗せた鞍に乗り、二人の搭乗確認をすると、人馬は駆け出した。
「速っ」
「さすが人馬種ですね」
二人を乗せた人馬はみるみる街から距離を離していく。
「あんな武装しているのに凄いな」
人馬は鞍の他にも手槍、小盾、金属鎧を装備した上、更に予備の剣も左右に一本ずつ携えた状態で駆けている。
そしてこれだけ武装する理由もわかった。
この地方の人達は徒党を組んで戦うという事をしないのだ。
道中戦っている人を確認できたが、皆一人か二人でバラバラに敵を攻撃して倒していた。
そしてこの人馬も盾を構えて槍を突き出し、進行方向を妨害する敵中をそのまま速度を落とさず突き抜けて進んでいる。
「す、凄いところだな・・・」
「そうですね、亜人種は身体能力が高いですから」
ふーむ、文化の違いを感じるなぁ。
人馬はしばらく西に進むと村に到着した。
和人の二人は人馬から降りて宿の手続きを取っている。
なるほど、この村は港町から丁度いい距離にあるんだな。
「ソウ、この辺りで今日は止めておいてください」
サチの言葉で状況を止める。
うん、丁度区切りがいいし後の時間は情報整理にあてよう。
「情報は集まったか?」
「えぇ、かなり。ただ、このままですと視野範囲が消失すると思われるので精度は下がります」
「あいよ」
「一応最重要視している魔族についてですが、少数ながら確認されました」
「うん」
一応俺も一覧を片目で追いながら見ていたが、この辺りの種族の大半は亜人種月光族となっていた。
月光族というのは旧魔族時代にムーンライトウルフの異名を持つ銀狼の亜人種がこの辺り一帯を治めていたらしい。
その後勇者と敵対し戦いの末に倒され、この一帯は前の神の勢力下になった。
しかし新生魔族の台頭と共に前の神の勢力から離脱。
更に新生魔族のやり方も気に入らないので先の戦いで勇敢に戦った者の名を貰い、月光族としてこの辺りを勢力下にしているようだ。
現在は新生魔族や草原の街など周囲の街と取引をする関係という感じか。
「ソウの見立てはどうですか?」
「うーん、そうだなぁ。きっかけ次第にはなるが、上手く行けばそれなりの信者は獲得できると思う」
根拠は大河を横断する船上での戦闘だ。
倒した魚をちゃんと活用している。
他にも人馬が最小限で敵中突破したり、狩りをする亜人も必要以上に狩猟をしない。
こういうところを見ると自然を大事にしているというのを窺い知る事が出来る。
後はその自然に感謝する気持ちが出来ればそれが信仰心に繋がり、うちの信者となるはずだ。
問題はその感謝する気持ちというのが芽生えるかどうかだなぁ。
月光族は荒々しい人が多く、何かと物理で解決しようとする文化のようだ。
つまり信者を得る機会があるとするなら月光族の中でも上位部に入る者が信者になれば自然とその下もなるだろう。
後はそういう機会があるかどうかだが・・・。
そうそうはないかなー。
先に和人の二人が向かった先で得られる率の方が高そうだ。
とりあえず月光族の港町と月光族の村が見つかったというのだけでも大きな収穫だと思う事にしよう。
特に予定の無い日は何もする事が無くて暇になってしまう。
そうなるとサチと何かするか、もはや趣味と化してる料理をするかになる。
うーん、もう少し暇つぶしを考えた方がいいのかもしれないな。
ひとまず今日は料理をする。
アストからまた新しい調理器具が届いたのでそれの試用も兼ねてだ。
届いたものの中で嬉しかったものがピーラーだ。
作ってもらったのは見慣れた手のひらサイズのとその数倍大きいものの二つ。
何故このような大きなものが必要になるかというと、今日の食材の一つである自分の頭と同じぐらいの大きさのジャガイモ。こいつのためだ。
以前包丁で皮むきをしてみたが、二度とやりたくないと思えるほど大変だった。
大きいので一度剥いてしまえばしばらくの間は作り置きしておけるが、この前使った付け合せで最後だったのでまた新たにやらなくてはならなくなっていた。
そんな時にこのピーラーの登場は非常に助かる。
ピーラーを当てて引くとズバッと皮が剥ける。
「お、おう・・・」
「どうしました?」
フライパンに油を絞ってもらっているサチがこっちの様子を気にしてくる。
「いや、ちょっと怖いなと」
確かにピーラーの切れ味は凄い。
正直凄すぎて怖い。
手のひらサイズのものならまだしも、この大きさだとジャガイモが不安定で滑った時に事故が起きそうで怖い。
ジャガイモを何かで固定した方がいいな。どうするか。
ちょっと念でどうにかできないか確認してみる。
・・・うん、いけるね。
「サチ、ちょっと頼みたいんだが、これを下から刺すように氷の柱を出してくれないか?」
「わかりました」
「こんな感じ」
手ごろな作物の実を串で刺してイメージし易いようにしてみせる。
「了解です。少し離れていてください」
俺が少し離れたのを確認するとジャガイモの周りに冷気が集まって氷の柱にジャガイモが突き上げられる。
「お、いいね。あんがと」
「はい。ところでいつもより多く油を絞ってますがいいのですか?」
「あぁ、うん、今日はちょっと多く使うから」
「へー、それは楽しみですね」
「うん。期待しててくれ」
さて、それじゃ固定したジャガイモを剥くか。これなら安全にやれそうだ。
フライパンに結構な量の油が入った状態でコンロに火を入れて熱する。
「何をするのですか?」
気になるようでサチが横に来てフライパンの中を覗き込む。
「熱いから離れてた方がいいぞ」
「そうなんですか?」
あのな、なんで俺を盾にしながら覗き込むんだよ。いいけどさ。
程よく油が温まったところで細切りにしたジャガイモを入れる。
ジュワーっといい音がして泡が出る。
興味があるのかサチが身を乗り出してその様子を覗き込んでる。
「熱っ!?」
サチがあわてて飛び退く。だから言っただろうに。
「大丈夫か?」
「あ、はい、大丈夫です」
飛んだのは手の甲か。顔じゃなくてよかった。
よしよし、いい色に揚がってきたな。
「あの、ソウは熱くないのですか?」
「ん?熱いよ」
さっきからはねた油が手に飛んで熱い。
「大丈夫なのですか?」
「慣れたから平気」
油ははねるものと頭の中で認識していれば多少はねても平気になる。
たまに大粒がはねたときはさすがに辛いが。
「はー、凄いですね。私はちょっと・・・」
怖いか。無理もない。
「揚げ物は油がはねるからな。他の調理法と比べるとちょっと難易度が高いかもしれないな」
きつね色になったジャガイモを油を切って皿に置き、塩を軽く振りかける。
「ほれ。揚げ物は難易度が高い分揚げたては美味いぞ」
皿ごとサチに渡して次のジャガイモを投入する。
俺も揚げ芋が食べたいので今回のジャガイモは全部揚げるつもりだ。
「ソウ、あの・・・」
揚げていると背中を指でつつかれる。
「ん?」
振り向くと空になった皿をこちらに差し出された。
「その、おかわりください」
・・・お気に召したようでなによりだ。
今日の夕飯は揚げ物尽くしになった。
ジャガイモ、かぼちゃ、なすの素揚げ。
小麦粉をまぶした鶏の実を揚げたもの。
そしてサツマイモをはじめとした天ぷら。
どれも塩やふりかけで食べられる具材にした。
天つゆが作れればもっと色々なものが揚げられるのだが、まだ作れないからなぁ。
味はどれもいい出来。
サチがニコニコしながらあれこれ頬張ってるのを見ると安心する。
「揚げ物、うーん・・・」
一通り平らげた後に空になった皿を眺めながら悩んでいる。
「どうした?」
「いえ、将来的に私も作れた方がいいのかと思案していました」
「怖いなら無理して作らなくてもいいと思うが、一応今度アストに揚げ物用の鍋を作ってもらうよう頼んでみようとは思ってる」
「揚げ物用があるのですか?」
俺の知っている揚げ物用の鍋は口が少し狭まっている形状で、はねる範囲が狭くなっているものだ。
「うん。はね難くなってる。それでもはねるけど」
「う・・・」
一度油で火傷をしてしまうとしばらくの間恐怖になるからな。
「無理なら俺が作るからいいぞ?」
「・・・いずれは料理教室でこの揚げる調理法も教えるのですよね?」
「うん、そのつもりだが」
そう答えるとサチの目に火が宿る。
「わかりました、出来るようになります。ルミナテースに遅れは取りません」
確かにルミナならはねる油なんて気にしなさそうだな。
下手すりゃ油に手突っ込みそうでそれはそれで心配だが。
「教えるのは当分先だから、順を追ってやっていこうな」
「はい、がんばります」
この様子だと近々リクエストがありそうだ。
次は何を揚げるか考えておいた方がよさそうだな。
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