料理酒

「さて、さてさてさて!」


「随分と楽しそうですね」


キッチンに食材や調理器具を並べて料理の準備をする。


「そりゃな。そんなわけで酒を二本出してくれ」


「二本?一本では足りないのですか?」


「いや、一本は揮発具合を確かめるために放置してみようかと思ってる」


「そういう事ですか。ではそちらの方は私が担当してもいいですか?色々と対策をしておきたいので」


対策?


あーそういえばこの酒は揮発すると周囲の植物とかに悪影響あるんだっけ。


大丈夫だと思うんだけど。いや、何かあってた後では困るから任せよう。


「あぁ、頼むよ。俺はその間に料理しちゃうわ」


「了解です。あ、出来れば酒を使った場合と使わなかった場合の違いを知りたいです」


「あいよー」


やはり酒を使うなら肉料理かな。


正しくは肉の味がする実を使った料理ではあるが。


あとは親和性の問題か。


この酒の酒気を大量に浴びると植物が枯れるというから、果たしてどうなることやら。


ひとまず輪切りにした牛肉の実を酒に漬けてしばらく放置。


その間に楕円型の白身魚の実を切る。


結構この実は皮が分厚くて硬いのだが、アストの業物包丁ならズバッと切れるのがありがたい。


四枚に切り分けて焼いて、二枚は酒で、もう二枚は水で蒸し焼き。


漬けておいた牛肉の実を取り出して、何もしていない方の実と一緒に焼く。


うん、酒の悪影響はないようだ。よかった。


味付けはシンプルに塩、胡椒、ニンニク。


「いい匂いですね」


作業を終えたサチが戻ってきた。


「もう少し待ってな」


「はーい、ご飯用意しておきます」


「頼むー」


空間収納があると温かいものも入れた状態で保管できるのでご飯を大量に一気に炊いて収納しておいて貰っている。


最近サチの収納内容が食材だらけになってないか心配になって聞いてみたら。


「全く問題ありません」


と断言された。


むしろもっと色々美味しいものを入れさせろと言わんばかりの表情で言われたので気にしない事にした。


ちなみにまだご飯の良さはよく分かってないようだ。


加工調味料がないとやはり物足りない感はあるからな。


あー今度ふりかけでも作ってみるかな。乾燥させるとどうなるかも気になるし。


念で出来るかな?後で聞いてみよう。


お、いい感じに焼けたな。付け合せも添えて出来上がり。


さて、酒の有無の違いは出たかな?




「いただきます」


「いただきます」


二人で手を合わせて夕食。


すっかりこの作法もサチに馴染んだようで、最近じゃ食べる時は必ず言ってる。


さて、では早速ステーキから行ってみよう。


・・・うん、柔らかい。食べ比べても良く分かる違いだ。


だが。


「ソウ、違いが柔らかいぐらいで味の違いが良く分かりません」


「うん、俺も今そう思ってたところだ」


やはり肉や酒の性質が違うからなのか?


いや、俺の調理方法が甘かっただけだろう。実際柔らかくはなったわけだし。


酒の効果って柔らかくする以外なんかあったっけ。


確か味に深みが出たりするはずだったが、うーん、そこまで凄く料理してたわけじゃないから知識不足だな。情けない。


最初だし、こんなもんかな、もっと色々やって研究していこう。


「んっ!」


「ん?どうした?」


サチが魚を食べて反応を示す。


「ソウ、こっちは美味しくなってます」


お、本当か?どれどれ。


「おー、確かに」


水で蒸した方よりも酒で蒸した方が口に入れた瞬間の良さが違う。


あー醤油が欲しい!


そう思ってしまう。


一応他の世界の神から製法は情報としてもらってはいるが、作れるようになるのはもっと先になりそうだ。


他にもケチャップ、ソース、マヨネーズ、味噌、みりんなど欲しい調味料は一杯ある。


俺の技術不足もあるしな、どこまで出来るかわからないが少しずつやっていこう。うん。




「ごちそうさまでした」


「ほい、お粗末さまー」


手を合わせて夕食は終わり。


「ソウ、今日のデザートは何にしますか?」


サチがうきうきとしながら今日のデザートを聞いて来る。


このところ毎日夕食後はデザート時間になっている。


「そうだなぁ、ミルクアイスにでもしよう」


「わかりました、出します」


出して準備してもらっている間に食器を片付けて、ついでに酒瓶を取って来る。


「飲むのですか?」


「いや、ちょっとねー」


既に食べ始めてるサチを見ながら酒瓶の栓をあける。


アイスが乗った器に少しだけ垂らして軽く混ぜてから揮発を待つ。


そして一口。


うん、美味い。


砂糖のストレートな甘さと牛乳の実の風味が酒によって少しまろやかになり、その後少し来る酒の苦味。


今日は肉料理が若干失敗気味だったので、こういうのを楽しみたくなる気分に丁度いい。


ゆっくり楽しみながら食べていたら先に食べ終えたサチがこっちの様子を凝視している。


「・・・あー」


・・・しょうがねぇな。


スプーンですくってあけたサチの口の中に入れてやる。


「んふー」


頬に手を当てて嬉しそうだ。


「ソウは私に甘いですね」


「そうかな」


他がどうだかわからないから比較のしようがないんだが、そうなのかな。


「ルシエナの時も私が怒ったからあのような行動に出てくれたのですよね?」


「んー・・・まぁね」


サチのためではないが、サチが怒ったことであの場は神としての威厳を示す場という事に気付くことが出来たのは確かだ。


まだまだ俺は神としての自覚が足りないからついつい事なかれ的な方向に思考が行ってしまいがちだ。


だが、今回のように優しい顔だけではいけないという事、そしてそうした方が場がまとまる事もあるというのを学んだ。


「そんなわけでソウは人質を好きにする権利があります」


立ち上がってこっちに来たと思ったら俺の膝の上に座って勝手に俺のアイスの残りを食べ始めた。


好きにする権利ねぇ、既に好きにされてる気がするんだが。


一瞬何を言ってるのかと思うが、これはサチなりの甘え方だと思ってる。


人質か、なるほど、今日はそういうシチュエーションがお望みか。


今日は妙に悪者役をやることになったな。たまにはいいか、そういう日があっても。

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