オアシスの街

うーん、朝日が辛い。


昨日はちょっと張り切りすぎてしまった。


褒めたらノリが良くなったサチが悪い。


うん、そういうことにしておこう。


さて、今日もオアシスの街の観察。


昨日の続きだから下界は夜なんだよな。


大丈夫かな、大丈夫だろう、変な気分になったら時間を進めようかな。


あ、宿から若者が出てきた。


あー早速呼び込みにつかまってるね。


へー、断るとあっさり引き下がるのか。


どうやらこの街ならではのルールがしっかり出来上がっているようだ。


実際ルールを破った客が路地裏でお仕置きされてる。


近くで女王様っぽいのにお仕置きされてるのもいてシュールな絵面になってる。


ふむ、この街の自警団も皆女性がやってるのか。


一組数人のチームで組んで問題に当たってるようだな。


何でわかったかといえばチーム毎に服装が違う。


騎士風、剣闘士風なこの世界に見合ったものから警官、軍服のような異世界の服装と様々だ。


ん?今目の端に何か見えたな。


「サチ、情報収集は順調か?」


「はい、順調です」


「服装集めも順調か?」


「はい、順・・・何のことですか?」


顔になぜばれたって書いてあるから取り繕っても無駄だぞ。


「慌てて隠しても見えたぞ。支障が出なければ別にやってていいから」


「本当ですか?ありがとうございます」


嬉しそうだ。


女子だもんな、色んな服装に興味が出るのはしょうがない。


俺がセーラー服に反応してしまったというのもあるな。


今度また何か着てもらおう。


そんな事やってるうちに下界の若者は案内所らしきところに入った後、案内員の女性に連れられて別の建物に入っていった。


真っ白い建物に十字マークが付いてる。


入り口にはナース服の女性が立っている。


どう見ても病院だよなここ。


「あの勇者の末裔は病気とかしてたのか」


「いえ、そんな事はありませんよ?」


「え、だって今病院に入っていったぞ」


「病院?あぁ、ソウの前の世界ではこの建物は病院というのですね」


あーそうか。こっちの世界は治癒魔法があるから病院とか無いのか。


「じゃあ何の建物だ?これ」


「これはヒーラーの集まる建物ですね。この街について色々わかってきたので説明します」


「うん、よろしく」




このオアシスの街が出来たきっかけはコスプレ好きの女勇者が訪れたのが始まりだった。


この街では人身売買が横行しており、若い女性が酷い目に遭っているのを片っ端から助け出したらしい。


しかし困ったことにそれだけでは生きていけないのが世界の常。


そこで勇者は神から貰ったアイテム、魔法の針で様々な服装を生み出し、それを助けた女性達に着せたところ男達が貢ぎだしたのだ。


オアシスという立地も良かったのだろう、ここを訪れる人達は彼女達を大切に扱ってくれた。


そうなると次第にその話は広がり人が集まる。人が集まれば栄える。


そうやってこの街は大きくなっていった。


女性に優しいという噂は各地の女性達の耳にも入り、不安を持つ女性達が集まったのも大きい。


ただ、大きくなるとどうしてもトラブルが起きる。


特に男性が街の女性に悪さをする問題が多かった。


そこで勇者は街の周りに魔法の針で結界を張った。


この街に入ると男性は著しく戦闘能力が下がるという結界だ。


なんともご都合主義な魔法ではあるが、神が与えたチートアイテムならそれぐらいやってしまえるだろう。


こうしてこの街は女性主体の街として確立したようだ。


「なるほどね、勇者らしい仕事をしたじゃないか」


「はい。残念ながら彼女は既に亡くなっていますが、街の母として今も街の女性達から慕われているようです」


「そうか。例の結界はまだ生きてるのか?」


「効力が無くなるまでもうしばらくは大丈夫なようです」


「ふむ。じゃあばれないように結界に力を補充しておいてくれ」


「よろしいのですか?」


「うん。彼女の功績を称えたいからな」


「わかりました。同じ女性として感謝します」


「あぁ、うん」


こっちに振り向いて深々と礼をするサチに驚きながらも承認のボタンを押す。


「では続いて建物について説明します」


「あぁ、頼む」




この街の建物にはその建物に適した人材が働いている。


これは別に変なことではない。


他の街でも酒場や食事処であれば給仕人や料理人がいるのは当たり前である。


少し変わっているのはこの街は働く場所以外にそれぞれの職業斡旋目的の建物が存在するところだ。


例えば先の料理人であれば料理人ばかりがいる建物。


先ほど話に出たヒーラーならヒーラーばかり集まっている建物がある。


そして酒場や食事処はそういうところから斡旋されて出向する形で働いている。


つまり働き手の所属が他の街のシステムと違うのである。


更に面白い事に斡旋者は稼いだ金の上納はしないのである。


代わりに所属を離れる時、例えば結婚や永年契約で街を離れる時に謝礼金が斡旋所に入るようになっている。


これは所属者が支払う形ばかりではなく、身請け人が払う場合もある。


斡旋する側は謝礼金が無ければ運営できない。


そうなればやる事は斡旋先からの信頼獲得と斡旋者の幸せを探すことになる。


そして街は斡旋所からの上納金を街の修繕や補修に役立てる。


ふーむ、最初全部色町かと思ったが、ただ外装が派手なだけで思ってた以上にしっかりしたいい街のようだ。


あのような目立つ外装や服装になったのは勇者の影響か。


「斡旋所が出来るようになったのは各地から女性が集まるようになってからですね。最初のうちはソウの想像通りだったようです」


あーやっぱり色町の認識でよかったか。


でなければ職業に無関係な服装が居るのはおかしいもんな。


なるほど、人が増えるに応じて多様性が求められるからそれに柔軟に対応した結果がこの街か。


つまり今この街では女性を求めてくる人、働き手を求めてくる人、そして助けを求めてくる女性がいるわけか。


「じゃあ彼はヒーラーを求めてるわけか」


「うーん、どうなんでしょう」


煮え切らない反応だな。


ん?彼からの願いが来てる。


治癒魔法が使える良き旅の伴侶に巡り会いたいです、か。


「あいつあわよくば嫁も欲しがってるな」


「やはりそういう事ですか」


「相棒、相方、仲間。色々旅の同行者の呼び方はあるが、あえて伴侶という事はそういうことだろうよ」


「なるほど、何か加護をかけますか?」


「いらないと思う。斡旋所がしっかりしてるから大丈夫だろう」


ぼんやり眺めてたら一人のナース服の小柄な女性と一緒に出てきた。


あいつ可愛い系の子が好みか。上手く行くといいな。

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