天界の酒
今日は下界の戦闘に注目してみる。
武器は剣、槍、斧、槌といったオーソドックスな近接武器。
その他に弓や投石といった間接武器。
そして魔法。
下界には魔法が存在する。
ただ、誰もが使えるとは限らないようで、適性があると使えるようだ。
「なあ、魔法ってどうやって使ってるんだ?」
下界の草原で敵対生物に炎の球を放っている若い魔法使いを眺めながらサチに聞く。
「魔法ですか。ソウはマナはご存知ですか?」
「いや、わからない」
会話で名前ぐらいは聞いたことあるが、詳しくは知らない。
一応前の世界の空想作品の中にはあるが作品によって扱いがまちまちなのでその知識はあてにならない。
「空気の中にマナという成分があると思ってください」
「うん」
「お酒で酔う人酔わない人がいるように、マナも魔法に変換出来る人と出来ない人がいます」
俺の頭でもわかるように酒で例えてくれて助かる。
「変換できない人のマナはどうなるんだ?」
「普通に体外に排出されます。逆に魔法使いは使ってしまうのでマナ枯渇症になります」
「マナ枯渇症?」
「はい。マナが体内にあることがこの世界での生物の正常な状態なので、体内のマナが急激に減少すると息切れや気絶を起こします」
栄養失調みたいなものか。
面白いな、マナがあるのが普通という考え方が新鮮だ。
あ、魔法使いが魔法で撃った後にぐったりしてる。あれがそうか。
「逆にマナ中毒症というのもあります。過剰に体内に取り込んでしまった時の状態で、体の変質化や膨張、最悪破裂する場合もあります」
あんま見たくないな、そういう映像は。
「私達が口にしている小さい粒の中にもマナが含まれていますよ」
そういうところまで完全食なのかあれは。
「アレ毎日食ってるけど中毒になったりしないのか?」
「大丈夫です。私達が取り込んでるマナは純度の高いものなので中毒を起こしません。またお酒の例えになりますが、純度の高いお酒は悪酔いしないのと同じです」
なるほど、わかりやすい。
下界を見ていると魔法適性があるのは十人に一人ぐらい。
先ほどぐったりしてた魔法使いは仲間に肩を貸してもらって歩いている。
ふむ、魔法が使えるというのは既に日常のうちだから特別視しないのか。
力がある人、器用な人、足が早い人、そういうのの中に魔法が使える人という概念が追加されている感じだ。
うーん、前の世界じゃ魔法なんて無かったからどうしても注目してしまうな。
慣れていかねば。
「そういえばさっき酒を例えに出してたが知ってるのか?」
仕事時間が終わって片付け終わるのを待ちながら聞く。
「勿論知っていますよ」
「こっちにもあるのか?」
「はい、あります。興味ありますか?」
「うん」
興味はある。
なぜなら食文化が無いこっちの世界でどうやって作られているのか気になるからだ。
「飲んでみたいですか?」
「いや、それは別に」
飲んでみたいと思う人も多いんだろうが、俺は別に飲みたいとは思わない。
前の世界で弱かったのもあってか飲酒に関して良い印象が薄い。
「ただ、料理に使いたいからあれば欲しいかなって」
「なるほど」
酒好きの人から酒を料理になんて勿体無いと言われそうだが、俺としては料理に酒は重要なアイテムの一つだと思っている。
「じゃあ今日は湧酒場に行って見ましょうか」
「ゆうしゅば?」
「お酒が沸いているところですよ」
え、どういうこと?
一瞬思考が停止している間に腕を掴んだサチに転移されてしまった。
転移の感覚が抜けて見渡すと湿地帯のような場所だった。
空気が澄んでて乾いているが、地面には小さな池が点々と見える高山湿地帯のような印象。
「ソウ、行きますよ」
転移場所から木の渡し板の上を先に進むサチについていく。
渡し板の横から水辺を見ると緩やかだが流れがあるのがわかる。
水は濁ってて水深はわからない。落ちないようにしないと。
「珍しいですか?」
「え?あ、うん」
サチが戻ってきて聞いてくる。
つい興味心がくすぐられて歩くのが遅くなってたようだ。
「ソウなら湧酒場へ着いたらある程度理解できると思いますよ」
「そうか、じゃあ案内頼む」
とりあえず考えるのは後にしよう。
サチがいつの間にか俺の手を取って引っ張っていくので従うことにした。
「ここです」
道なりに進んで案内された場所は大きな半楕円型の透明な建物。
入り口の前には若い男女の天使が左右に一人ずつ立っている。
「待て。この先は湧酒場だ」
近づくと二人が立ちはだかる。
「私です」
「これはサチナリア様。すみません、わかってはいたのですが規則でして」
「わかっています。警備隊のお仕事ご苦労様です」
「ありがとうございます」
情報館の時もだが顔パスな雰囲気がいいなぁ。凛々しいぞ。
「それで今日はどういった御用ですか?」
「神様の案内です」
いつもの流れだ。心の準備せねば。
「ではそちらが神様ですか。お初にお目にかかります」
天使の二人が丁寧な礼をしてくる。
あれ?いつもの驚きリアクションがないな。
「驚かないのですね」
サチも気になったのか二人に聞く。
「はい。先日ルミナテース様がいらっしゃいまして、サチナリア様とご同行の殿方は神様だと仰ってたので」
なるほどね。
「ルミナテースはここに何をしに来たのですか?」
ルミナの名前を聞いて若干むっとした声になっている。
実はサチの奴、俺を見て驚く人のリアクションを楽しんでいるんじゃなかろうな。
「どうも何か植物を探しているようで、草のような絵を見せられました」
「一瞬新しい害虫かと思いました」
悪かったな下手な絵で!
「そ、そうですかっ」
くっそ、サチの奴笑いを堪えてやがる。
あ、こっち見て噴出しやがった。
「こほん。それでは中に入ってもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ。神様も」
「うん、ありがとう」
二人が扉を開けてくれるので中へ入る。
入る時二人に見えないようにサチの尻をつねっておいた。
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