棺桶を背負った死神は銃口を向ける

第12話 始まりの旅は砂の海から、そして


 浜辺に寄せては返す流砂、その動きはかつての海を思い出させるのだが、やはり海とは違う。決定的に違うのはやはり水ではないところか。

 流砂を手で掬い上げてみれば、まるで水のようにサラサラと零れ落ちてあっという間になくなる。ザラザラした感触もなくほんとに水のよう。

 白っぽい色のためか、時折太陽光を反射して輝いて見える時がある。


「綺麗……だけど、やっぱり海じゃない」


 ここは自分の知ってる世界じゃない、地球からやってきたメルにとってはとことん残酷な現実を突きつける光景だった。


「おい、出発するぞ」


 すぐ背後から自分を呼んでる声がした。振り返ればロングコートを着こなしたペンギンことスコッチがメルを見下ろしている。


「わかりました」


 立ち上がり、お尻に付いた砂を払って野営地に戻る。

 その間スコッチは何も言わず、ただ横を歩いていた。

 野営地まで辿り着くと、既に荷物は仕舞われておりいつでも出発できるようになっていた。

 ヨハンがバイクのエンジンを吹かせ、スコッチがサイドカーに乗り込む。メルはすっかり定位置と化したヨハンの後ろに座った。

 バイクの後ろには荷車があり、そこへ座る選択肢もあったが、実際乗ってみたら乗り心地が最悪すぎたのでこちらになった。あれに耐えるぐらいなら羞恥に耐えて男性と密着する方がマシである。


「さて、もう一度聞くけど。ホントに俺達と一緒でいいんだな?」


 ヨハンは後ろを見ずに尋ねる。無論その質問はメルに向けてだ。


「はい、今更よくわからない人達の所に行くよりはヨハンさん達の方が安心できます」

「そりゃ有難いね。じゃあ行こうか……目的地は、エイムズ研究センターだっけ?」

「はい!」


 かつて地球には世界に誇る宇宙開発機構が存在していた。通称NASA、エイムズ研究センターはそのNASAの研究所の一つである。

 何故そこを目指す事になったのか、それは昨日に遡る。

 

――――――――――――――――――――

 

「やっぱり」


 町から逃避中のこと、夜も更けようかという時間になった時、突然ヨハンがバイクを止めてボソッと呟いた。


「どうしたヨハン?」


 サイドカーからスコッチが前を向いたまま尋ねる。

 ヨハンは一点を指差して口を開く。


「あそこに大型の砂上挺が通った後がある」


 言われて見ると確かに、荒れた岩地に何かを引き摺ったような跡が長く続いている。よく見ればそれは履帯のようだった。しかも一つだけではなく三つぐらいは確認できる。

 すぐ近くにはタイヤの跡も見られた。


「履帯幅からして長さは五十メートル、幅は二十メートル、高さは三十メートルぐらいかな、それが約三機ここを通っている。隣のタイヤ痕は偵察車と見て間違いない」

「かなりの大所帯か、盗賊団か騎兵隊か、あるいは」

「進行方向にあるものを察するとそうだな」

「あの〜、私には何が何だかサッパリなんですけど」


 一人置いてけぼりをくらってたメルがようやく会話に参入し始める。メルからしてみれば大きな物が通った事がわかるぐらいで、その背後にある状況はまるっきり想像できない。


「わるいわるい、今俺達はこないだの遺跡に向かってるのはわかってるよな?」

「はい」


 先のあてがないまま町を飛び出したので、とりあえずもう一度遺跡を調べてみようと思ってバイクを走らせていたのだ。


「んで、実はあの遺跡って五日ぐらい前に発見されたばかりなんだ」

「そ、そうなんですか」

「俺達が遺跡に入ったのは、まだ誰も潜ってないからお宝……もとい誰も知らない歴史を調べられると思ったから」


 今お宝って言おうとした、やはりヨハンは考古学者ではなく盗掘ではないだろうかとメルは内心思った。


「まあ実際中はメルと何とか装置と本以外見つからなかったわけだけど」

「コールドスリープです。本ってなんですか?」

「そういえばまだ見せてなかったな、後で見せるから色々教えてよ」

「はい、それでえっと……なんでしたっけ?」

「砂上挺の話な。遺跡探索ってのは近年になって積極的に行われるようになってな、それというのも遺跡に眠る遺物が時々現代科学を遥かに凌駕する物だからなんだ」

「なるほど、何となくわかりました。つまり私がいた遺跡はその現代科学を超えた遺物が眠ってるかもしれないから、大きな調査隊がここを通ったわけですね」

「その通り!」

「思ったよりも嬢ちゃんは賢いんだな」

「あれ? 私今さり気なくバカにされました?」


 それは横に置いておいて。


「まあ大規模な盗賊団の可能性もあるんだけどな。ちょっと見てくるから二人はここで野営準備しててよ、五時間ぐらいで戻るから」

「わかった」


 サイドカーと荷車を外し、一通り荷物も下ろしたところでヨハンはバイクで走り去って行った。やはり荷物がない分段違いのスピードがでていた。

 ひとまずスコッチとメルは二人で野営準備を始める。慣れない作業にもたついてばかりのメルだったが、思いの外スコッチが丁寧に指導してくれたので何とか形にする事はできた。

 野営と言ってもテントを張ったりするわけではなく、火を起こして晩飯の準備をし、備品のチェックを行うそれだけである。それでも一時間半はかかってしまった。

 ちなみに寝る時は荷車とバイクを使ってシェルター(ロープを2本渡して上から布を被せ、端に重しを置いただけのもの)を作り、そこで寝る。


 とりあえず野営準備は終わって、今は焚き火でスープをコトコトと煮込んでるところだが。残念ながら会話が全くない、思えばメルとスコッチはあまり会話らしい会話をしていなかった。

 しかしこれはある意味チャンスでもある、この機会に親睦を深めようとメルはスコッチに接触を図った。


「スコッチさん! モフモフしていいですか?」

「ふざけてるのか?」

「ごめんなさい」


 失敗した。

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