第10話 ペンギンとサイの熱烈なる戦い
全て聞き出した。それはもう昨日食べた物すら吐き出させる勢いで全て喋らせた。ほんとに吐いてしまった時はこちらも貰いゲロしてしまいそうになったが、おかげで賞金首の狙いが全てわかった。
「つまり賞金首のクソみたいな演技にホイホイ釣られた賞金稼ぎを、砂上挺や小屋に誘い込んで爆殺するのが奴らの常套手段だったわけだ」
謎は全て解けたと言わんばかりにヨハンの顔は得意気である。
「全てわかったみたいな顔してるが、最初からわかってた事を確認しただけにすぎないぞ」
「わかってないなあ、事実確認は大事なんですよスコッチさんや」
「へいへい」
「とりあえず相手の戦力はわかったわけだし、奪える……もとい貰えるもの貰ってこうぜ。そのあと適当なもの爆破して奴らを動揺させる作戦で」
「おう」
砂上挺に一人残っていた賞金首の手下を眠らせてから外へ放り出し、急いで砂上挺内の金品食料を持ち出してから近くの岩場に隠しておく。
そして弾薬類を外に出してから火を着け爆破した。
広がる衝撃波を離れた位置から感じ、燃え上がる炎を見つめると不思議と気分が高揚してくる。
「なあスコッチ、爆発ってすっげぇ楽しいよなあ」
「わかる」
爆発は楽しいが、いつまでもそこに浸るわけにはいかない。スコッチは直ぐにペンギンダーを呼び出してから、ヨハンを背に乗せて空へと飛び上がった。
ペンギンダーの背中でヨハンは砂上挺から奪ったライフルを組み立てる。
取り付けたスコープの先にはさっき捕らえられていたマスターを救出した酒場があり、その入口から今まさに賞金首の一味が出てきたところだった。
「よし、まずは手下からだ」
『了解した』
一味がある程度酒場から離れた所を狙って一番後ろにいた男の足を狙撃する。
「ヒット、次弾、次」
賞金首は危険を察知して元の酒場に戻ろうとしていた。逃げ込む前にもう一人の男の足を撃って動けなくする。
あと一人撃っておきたかったが、賞金首の決断と行動が早かったため取り逃がしてしまった。
「悪いスコッチ、予定通り酒場に追い込んだが手下を一人逃した」
『わかった……奴がでてきたぞ』
このまま籠城するかもしれないと思われたが、思いの外賞金首は早く行動に移してきた。つまり裏に隠していた機械人形を起動させようとしている。
「よし、奴が完全に機械人形を動かしたら降りてくれ、そうしたら俺は地上から残った一人を倒してくる」
数秒間ぐるぐると街の上空を旋回して待っていれば、賞金首は機械人形を起動して行動を始めるのが確認できた。
サイ獣人に似つかわしいパワーに溢れた機体だ。
頭の角は装飾に見えるが、太さからして突進用の武器だろう。まさにサイ、太ましい二本の腕はそれ単体が鈍器のよう。
砂上挺から得た情報によれば、この機体の名前はグランゾというらしい。
「起動した、降りるぞ」
『あいよ』
ペンギンダーがゆっくり下降してグランゾの前に立つ。着地と同時にヨハンはスルッとペンギンダーの背中を滑り降りて民家の屋根に飛び移り、そのまま家の影に隠れながら酒場の前へ移動する。
その間にペンギンダーはグランゾの攻撃をモロに受けたが、無傷であった。
「ペンギンダーは機械人形とは違うんだよ」
ヨハンの呟きは誰にも聞かれなかった。
グランゾが背中を向けた酒場に入ると、そこでは既に目的の男がノビていた。おそらく仲違いかなにかでサイ獣人に殴り倒されてしまったのだろう。
「あちゃー、俺の出番終わっちゃったよ」
仕事が楽になるのは良いことだ。
――――――――――――――――――――
一方ペンギンダーとグランゾの戦いは熾烈を極めて……いなかった。
グランゾがパワーに任せた打撃を出し、ペンギンダーはそれを防ぐ。その繰り返しである。ペンギンダーからはあまり攻撃をしていないのだ。
それというのも事前にヨハンからこう言い聞かせられているからである。
「街に被害がでると報奨金から修繕費を差し引かれるかもだから被害をださないでくれ」
と言われた。
「無茶言うぜ」
既に民家三軒ぐらいは全壊してしまっている。むしろこの程度で済ませてるだけで有難いと思ってほしい。
本来なら遠距離攻撃で牽制しながら街の外に誘き出すのが理想なのだが、グランゾのサイズを見ると歩くだけで家々が壊れるだろう、誘き出そうとすると街の被害が酷くなる。そもそもペンギンダーに其の手の武装はない、鰭に仕込んだ刃だけだ。
「大通りにでてくれたのはいいが、さてどうするか」
街というものは有事の際に機械人形が通れるよう大通りが広く設計される、ゆえにここにでればある程度街の被害はおさえられそうなのだが。
もし鰭に仕込んだ刃でグランゾの機体を切り刻めば、それの後片付けにまた減額されるかもしれない。そう考えれば下手に攻撃できない、防御しながら街の外に誘導するしかないのだが。
「段々めんどくさくなってきた」
街の外までまだ数キロある。最低でも一時間は相手をしなければならないだろうし、たまにはやられたフリをしないと食いついてこないだろう、ゆえにめんどくさい。
「ようは被害を出さなければいい」
あとの処理は考え無いことにする。
まず散々受けて既に見切りをつけたグランゾの掌撃を紙一重で躱してから鰭刃で切り離す。地面に落ちた腕は近くの民家の屋根に落ちてそのまま半壊させた。
『なにぃ!』
グランゾから驚きの声がスピーカーに流れて聞こえてきた。
「やれやれ、立派な図体をしているのだから情けない声を外に聞かせるな」
続けて怯んで後退したグランゾの足目掛けてきりもみしながら鰭刃で切り落とす。切られた足はそのまま地面に直立していた、それだけ安定感のある脚部という事だろう。
片足では機体を支えられずグランゾはそのまま後ろへ倒れ込む。そこは街の広場となっており、中央には地下水を汲み上げるための井戸があった。
折り悪くグランゾの角が井戸を破壊してしまった。
「こいつで終わりだ」
最後にペンギンダーがグランゾの上に腹這いになってのしかかり、そのまま胸部にあるジェネレーター目掛けて嘴を勢いよく突き刺した。しばらくグリグリ機体内部を掻き回した後、嘴の先にジェネレーターを咥えた状態で抉り出した。
機体の心臓を取られたとなっては動くこともできず、グランゾは稼働停止する。
本来ならここで終わるのだが、相手は銃弾が効かないサイ獣人である、もし機体から降りてしまえば生身で捕らえるのは困難であり、また機械人形で賞金首を直接攻撃する事は非人道的とされ犯罪となっている。
それゆえスコッチはコクピット周りを嘴で歪ませてハッチが開かないようにした、それから鰭刃でコクピットだけを綺麗に切り取っていく。
つまりグランゾのコクピットをそのまま檻にしようというわけだ。コクピットなら狭いゆえに上手く力を発揮出来ず壊される事はないだろう、それに自分の愛機に閉じ込められるなら彼としても本望の筈だ。
「さてと、まずは保安官か」
あとは捕らえた賞金首を保安官に引き渡して報奨金を受け取れば仕事完了だ。憂いがあるとすれば一つ、街を壊してしまったのでその修繕費を差し引かれないかどうかだが、そこは頭脳担当のヨハンがなんとかするだろう。
――――――――――――――――――――
翌朝、保安官の元に訪れたヨハンとスコッチは出会い頭に金の入った袋を手渡された。
「はいこれ報奨金ね」
「あの、これ」
思ったより少ないと言おうとしたが。
「修繕費」
とにこやかに返されてしまい。
「いやでも相手は危険なサイ獣人でしかも機械人形を」
と反論しようとすれば。
「修繕費」
と銃を構えながら言われてしまった。
「あぁくそっ! わかったよ! せいぜいこの街が発展する事を祈ってるよ!」
泣き寝入りするしかなかった。この場合、保安官が依頼したのならともかく、賞金稼ぎが独自に行動して街に被害を出してしまったので何も反論できないのである。
「とりあえずこれで当面の資金は確保できたから良しとするか」
「そうだな」
ヨハンは最後まで気づかなかったが、この時保安官は修繕費の他に自分の小遣いのために少し報奨金からチョロめかしていた。
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