ヰタセクスアリス

 薄暗く部屋の中、一人の男がワインを瓶ごと飲んでいた。ボンヤリとした目で虚空を見つめたまま、少しずつワインを飲んでいる。



「……なぁ、どうだったか? あまり綺麗にいかなかった気がするのだが、気分どう?」



 虚空を見つめたまま口を開くと、彼の足元から呻き声が聞こえてくる。


 白い髭を生やし、高価なスーツを真っ赤に汚した初老の男は目から口から液体を撒き散らしながら倒れている。左の腕を失い、片方の眼球はすでに光を失っていた。



 だがこの空間では、この男の怪我はな部類に入ってしまうのだ。


 ある者は下半身を失い、ある者は顔半分を壁に叩きつけられ、ある者は片手以外を全て失っていた。


 部屋は鉄の匂いに包まれていたが、火薬の匂いはしなかった。煙も上がっておらず、火もついていない。



「……会話をしてくれたっていいじゃないか。何か不満でもあるの? もしかしてこのワイン大事にしていたのか? だとしたら済まない」



 男はまるで見当違いな発言をすると、飲んでいたワインを一つのグラスに注ぎ、倒れた男の近くでしゃがみこんだ。


 周りにある血も気にせず、途中にある死体を踏みつけるのにも男は気付いていなかった。



「君は……さ、運命があると思うかい? 私はあると思っているよ。まさにあの時の経験は私はを一人の人間にしてくれたと思っているよ」



 遠い記憶を思い出しながらフフフと男は笑うと、グラスを回しながら一方的に会話を続けていく。



「でもね、それだけじゃないのだよ。私が運命を本気で信じた時、私は追い詰められたのだよ、警察にね。かなりビビったね終わりだと思ったよ」



 彼は瓶に残っていたワインを一気に飲み干すと、興奮した様子で目を見開きながら倒れた男を覗いた。



「いいかい、奇跡はあるんだよ!? 私は己の欲望を常に発散できるが、才能が現れたんだよ!」



 彼は急に立ち上がると、グラスの中身を男の顔面めがけて流し始めた。


 男の顔面にワインが触れた瞬間、何の前触れもなく男の顔面は弾け飛んだ。


 まるで爆発を顔面に食らった様に、男の肉片は辺りに散らばり、無惨にも部屋をおどろおどろしく汚してしまった。



「……これが私が天に選ばれた能力『セックスボム』! 触れた物に地雷を埋め込む素晴らしい能力だよ!」



 彼は狂った様に笑いながら、転がる死体を蹴り飛ばしながら愉快にその場をワイン瓶片手に回っていた。

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