第159話

広大な王城の敷地には、果樹園や、薔薇などの、様々な綺麗な花が植えられている花畑。それとは別に、様々な病気に対応出来るようになのだろう、色々な種類の薬草が植えられている、薬草畑もあった。中には、本当に貴重な薬草もあり、ここの薬草畑は凄いな、と感心していた。その他にも、王城勤めの騎士などの為の詰所や、演習場などもあった。


王城の中に入ると、品の良い絵画や調度品が出迎えてくれた。王女様やエルバさんが、これは誰が描いた、これは誰が作ったなどと、楽しそうに説明してくれる。中には、初代の国王が愛した物もあった。代々の王がこういった物を大事にしており、獣人が尊ぶ強さも大事だが、先祖の愛した物を残していく心も大事だと、長い歴史の中で、王族だけでなく、市井の人々にも言い残してきた。


王女様を先頭に、ズンズンと王城内を進んでいく。進む先は、王城の中でも重要な場所である、王族が住まう、プライベートな区画である。普通は謁見の間に通されて、そこで会話をするのだろうが、俺の方が、なるべく穏便にしてくれと頼んだ結果、何故かこうなった。


通り過ぎる騎士さんたちに、ジロジロと見られている。まあ、王女様と、その王女様の側近の騎士であるエルバさんと一緒にいるのが、見知らぬエルフだったら、俺がこの国の騎士の立場でも、同じようにジロジロ見るだろう。そういった視線を、気づいているのかいないのか分からないが、王女様もエルバさんも変わった様子はない。プライベートな区画に向かっていくほど、使用人や騎士の数が減っていく。普通は逆ではないのかと疑問に思っていると、エルバさんがコッソリと教えてくれた。


「姫様のお父様であり、この国の現王であるグース様は、正直に言って、誰よりも強いのです。それに、グース様以外の王族の方々も、大人しく守られるような方々ではございません。それに、私生活に関しても、自分たちで済ませたがるので、この区画には、使用人や騎士が少ないのです」(エルバ)

「使用人の方々や、騎士の方々からは、何かしらの不満はないんですか?普通は、王城勤めっていうのは、栄誉ある事ですよね?」

「使用人たちに関しては、問題はありませんでした。しっかりと、仕事の査定もしておりますし、待遇も良くしております。それに、仕事に見合った給金も出していましたから。ただ、騎士たちは不満が溢れました。その度に、王自らが騎士たちと模擬戦を行いました」(エルバ)

「もしかして…………」

「はい。カイルさんの予想の通り、圧倒的な戦力差でもって、王の圧勝でした。さらには、個人戦のみならず、王一人対騎士たちの軍という戦いでも、圧倒してしまいましたから。それ以来、この事に関しては、騎士たちは不用意に話題には出しません」(エルバ)


通常の、一般的な国家とは、色々と違い過ぎるな。守るべき対象である王や、その一族の周りを固めるのは、一般的な国家なら普通の事だ。だが、ここは強さを尊ぶ獣人の国。守られるべき王であろうと、自身の強さを証明すれば、それに文句を言う事が出来ないのだろう。だが騎士からすれば、王城勤めで、王を傍で守る事は誇らしい事だ。騎士たちからすれば、王自らが、その栄誉を奪い取ったと考えたとしても不思議ではないか。そこに、今回の王女様襲撃に繋がるものが、あるのかもしれないな。


王女様の足が止まる。目の前には、綺麗な花々が咲いている庭園が広がっている。その中心に、屋根がある場所があり、机と椅子が用意されている。そこには、壮年そうねんの獅子人族の男性と獅子人族の女性、同じく壮年の狐人族・熊人族・兎人族・虎人族などの女性がいる。彼らは、楽しそうに談笑している。その周りの机には、王女様と年齢の近そうな、獅子人族の青年と狐人族の妙齢みょうれいの女性や、獅子人族の青年より少し若そうな、虎人族の青年もいる。王女様が、心の底からの、家族に向ける笑顔を浮かべて、そこに近づいていく。俺とエルバさんも、王女様に続いて、そこに向かって移動する。


「おお、シュリ‼朝から出かけていた様だが、帰って来たのか?」(グース)

「はい、お父様。今、戻りました。久々の王都でしたので、懐かしくて、色々と見て回っていました」(シュリ)

「そうか、そうか。で、どうだった?」(グース)

「皆さん、元気そうで何よりでした。子供たちも元気そうでしたし、お爺さんやお婆さん方もお元気そうでした。それに、商人や職人の方たちも、同じ様に元気そうにしていましたね。それらを見て、私は帰って来たなと実感出来ました」(シュリ)

「それは良い事だ。暫くの間、外に出掛けさせられなくて、申し訳なかったな。エルバも、シュリの事を、引き続き頼む」(グース)

「はい、お任せください」(エルバ)

「今回の件は、本格的に探りを入れている所だ。時間はかかるかもしれないが、確実に見つけ出す。シュリに喧嘩を売ったという事は、俺たちに喧嘩を売ったと同じ事だからな」(グース)


そう獣王様が言うと、周りにいる奥様と思われる女性陣や、王女様の兄姉と思われる方々も、抑えきれない殺気が溢れている。王女様は、家族の皆から愛されている様だ。これだけで判断を出すのは早計だが、王女様襲撃に、王族が関係している可能性は、限りなく低い可能性が高くなった。もし、この中の誰かが黒幕だったのなら、相当な役者だと思えるほどだ。


暫くして、全員が殺気を収め冷静になると、この場にいる知らない顔の、俺についての話題になる。


「それで、そちらにいるエルフの男性は?」(壮年の兎人族の女性)


壮年の兎人族の女性が、何かを勘違いしている様で、少しニヤついた顔をしながら、俺についての事を、王女様に聞き始める。周りの奥様たちも、動物の耳の方をピクリと反応させている。王女様の兄妹と思われる、獅子人族と虎人族の青年二人は、少しばかり目を細めて俺を観察しているし、狐人族の妙齢な女性は、何かを見定めるかの様な視線で俺を見ている。


「シュテルお母様、お父様。こちらのカイルさんが、今回、危ない所を救っていた方です」(シュリ)

「冒険者をしている、カイルと申します」

「ほう‼お前が、シュリを助けてくれた冒険者か‼感謝しているぞ‼」(グース)

「まあまあ‼私たちの大事な娘を助けてくださって、ありがとうございます」(シュテル)

「いえ、王女様にも言いましたが、助けれたのは偶然の様なものです。なので、本当に気になさらないでください」


獣王様が、俺の言葉が本心なのかどうかを見極めるかの様に、笑顔でいながらも、鋭い目で俺をジッと見ている。奥様方も、王女様の兄弟の方々も同じ様に、王女様に危害を加える者なのかどうかを、見定める様に俺を観察している。まあ、襲撃なんてものがあったんだから、助けた俺が、一番怪しいと考えるのが普通だよな。現にこうして、武具を持ち込んだままで、獣王やその家族である王族たちと、面会しているんだからな。俺が同じような立場でも、家族に危険が及ぶかもしれないのなら、同じように考えるしな。それに王城に泊めるのも、非常時以外での、魔術の使用を禁ずると共に、俺を監視しやすい様にするためだろう。


暫くは、緊張感漂う空気になっていたが、一応は俺の事を信用してもらえた様で、フッと空気が緩まる。王女様も、エルバさんも、俺が信用された事に、安堵の息をコッソリとらしている。その様子を、奥様方はニコニコと笑顔で見ている。王女様の兄妹の方々の方は、お姉さんであろう狐人族の妙齢の女性は、妹を微笑ましそうに見ているが、お兄さんであろう獅子人族と虎人族の男性陣は、俺の事をまだ疑わし気に見ている。だが、父親である獣王が近づき、それぞれの頭に手をやって、グリグリと少し撫でると、理解を示したのか、疑わしい目をやめて、普段通りの状態に戻った様だ。獣王様は、二人の不自然さの残る状態に、少しだけため息を吐き、改めて俺に視線を向ける。


「不躾な視線を向けて、悪かったな。今はまだ、家族以外で、誰が信用出来て、誰が出来ないのか、ハッキリとしていなんでな」(グース)

「いえ、一国を収める王としても、家族を支える大黒柱としても、その判断は適切だと思います。俺が同じ立場でも、同じ事をします。……家族は大事ですから」

「そう言ってもらえると助かる。……シュリ、カイルを王城に泊める事を許可する。来客用の、一番良い部屋を用意してやれ」(グース)

「分かりました‼では、早速向かいましょう‼お父様たちも、次のお茶会は、私たちを呼んでくださいね‼」(シュリ)

「分かっている。勿論呼ぶとも。良いものを準備しておく」(グース)

「では、失礼いたします」(エルバ)

「エルバ、シュリの事、お願いよ」(シュテル)

「はい、お任せください。カイルさん、附いてきてください」(エルバ)

「了解です。失礼いたします」

「ああ」(グース)


テンション高く庭園を出ていこうとする王女様を、俺とエルバさんは、王女様を追いかける様に附いていき、庭園から出る。


獣王と奥方様、王女様の兄妹の方々が、王女様のその様子を微笑ましく見ていた。

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