サムライソウル

cokoly

サムライソウル

一人のサムライが僕の中に住んでいる。


二重人格とか、多重人格とか、そう言う類の話ではない。


彼は僕の心の一部を陣取っては居るものの、決して僕を押しのけて表に出てこようとはしないし、それこそ武士道さながらに謙虚で鍛錬を欠かさず、いつの厳しく自分を律している。


ただ、僕が悩んだり、迷ったりしていると、ふと口を出してくる。話し相手には丁度いい。



僕が目を閉じている時に、カキン、と刀の鯉口が音を立てたら、それは彼が立ち上がったという「しるし」だ。


僕と話すとき、彼は常に刀を左手にぶら下げ、いつでも抜けるような状態にして現れる。


その立ち姿には力んだ所がまるで無く、一見ふらふらとしていて押せば倒れそうに見えるのに、いざ対峙するとまるで勝てる気がしない。


それなりに、剣の達人なのかも知れない。


「それなりなどと言うな」


僕の考える事は全て彼に筒抜けだ。何しろ僕の精神の内側にいるのだから仕方が無い。


「何を話しているのだ」


いや、ちょっとね。


実のところ、彼は全くの気まぐれで話しかけている節がある。暇なのかな?と思う時がある。


どうして僕の中に住みついてしまったのだろう?僕は聞いてみた事があるのだ。


「ここは中々広くて心地が良いのだ。余計なものがあまり無いしな」


「それは僕があまり物事を深く考えてないという事ですか?」


「有り体に言えばそうだ。だが悪い事ではない。最近はどいつもこいつも考え事が多くて困る」


「今まで色々と宿を変えて来た訳ですか?」


「うむ」


「結構風来坊なんですね」


「別に主君に仕えている訳ではないからな」


「今回は何です?」


「それは私の台詞だ。今、悩んでいるだろう?五月蝿くてかなわんのだ」


「そうですね、ちょっと人間関係で。最近チームに入って来た奴が困った奴で。空気を読まずに自分の主張ばかりするんですよ」


「斬ってしまえ」


「いやいや、この平成の世にそんな事は出来ませんよ。斬ったら逮捕されますよ」


「面倒な事だ」


「そうなんですよねえ。実際斬っちゃったら簡単だとは思うんですけどねえ」


「その気になったら俺を呼んでいいぞ。いつでも刀を貸してやる」


「いいんですか?刀は武士の命じゃないんですか?」


「まあ、堅い事言うな。私と君は一心同体みたいなものじゃないか。なあ、兄弟」


「でも、僕に刀が扱えますかね」


「実際斬れる訳じゃないから大丈夫だろ」


「それじゃあ、そもそも刀必要ないじゃないですか」


「拙者は心の有り様の事を言っているんだ。精神の修行だ。心に刀を持てという事だ」


「なるほど」


「やればできる」


「切れ味鋭い言葉なんかが出て来ちゃったりしますかね」


「そう言う事もあるかも知れないな」


「そうかあ、楽しみだなあ」


「鍛錬を怠るな」


「できるだけそうしますよ」



結局このばかばかしい会話が僕の気分転換になっているのだ。


「ばかばかしいとはなんだ」


ああ、はいはい。

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