ヴァンパイア・キッド ~『鉄血』の真祖と半人半鬼の少年と『忌血』の物語~
ヒトデマン
一章 君との出会いが運命を変えた
1話 出会い
赤き月が照らす夜、『鉄血』の真祖であるフリーダは静かに月を眺めていた。
彼女は自分の人生に飽き飽きしていた。真祖として至上の力を持つ彼女は、一度として命の危険を感じたこともなかったし、欲しいものは力をふるえばすぐ手に入った。彼女は常に──『退屈』していたのだ。
「──フリーダ様!」
そんな折、唯一の眷族である『エルマ』が羽を広げて飛んできた。強い力を持つ彼女は配下も小間使いの一人だけで十分だった。
「何用だ?私は今、月を眺めて退屈な時間を紛らわしているところだ。何百何千年と変わらぬ日々。私は何のために生まれてきたのかと常に考えさせられる」
「それはもちろんこの世界の『支配』者とし「早く要件を言え」
フリーダにきつく言われ、エルマはすごすごと持ってきたものを差し出す。
「支配のことなんぞネロに任せておけ……ん?」
それはゆりかごに包まれた赤ん坊だった。白い髪に白い肌。目は鮮血のように赤い。
「……『忌血』の子供か」
「はい、人間たちは忌血は災いや良くないものを引き寄せるとして忌み嫌っているそうで、この捨て子が、近くを流れている川の沿岸に漂着していました。おやつにどうかなって、忌血の血はものすっごく美味しいんですよ!」
フリーダは赤ん坊を受けとると、エルマに向かってため息をついてあきれる。
「たわけ、このような赤子、血を吸ってもすぐに飲み干してしまうではないか。飲むならそう……育ててからだな」
エルマはそれを聞いて驚く
「そ、育てるのですか!?人間風情を!?第一赤ん坊をどうやって育てるおつもりで!?」
「乳がないなら血を飲ませる。人の成長など我らの人生と比べたら一瞬だ」
そういうとフリーダは自分の人差し指をかみ切り、流れ出る血を赤ん坊に与えた。一心不乱に指をしゃぶる赤子を見てフリーダは胸の奥からなにかこみ上げるものを感じた。
「この赤ん坊には名前はあるのか?」
フリーダに尋ねられたエルマはゆりかごの中をあさる。
「あっ、手紙が入っています……『かわいそうなキッド、こうするしかない私を許して』赤子の名前はキッドというそうです」
「ふんっ、許しを請うくらいなら初めからやらなければいい」
フリーダは手元の赤子を見て思う。自分は最強の存在として君臨し、何一つ不自由のない生を謳歌しておきながら退屈だと感じている。
一方この赤子は何をしたわけでもない、忌血に生まれたというだけで、無力なまま捨て置かれ短い人生を終えようとしていたのだ。この世はなんと無情か、なんと理不尽か。この子は何のために生まれてきたのか。自分の思考にフリーダは『何か』を悟った。
フリーダは抱きかかえた赤ん坊を見て優しく微笑んだ。
「キッドよ......私がこれからお前の『母』だ」
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