夜花

@umimizu

第1話 殺

ひゅーっ、ばぁん

射ち上がった花火が浩一の意識を現実に引き戻した 。

眼前には幼なじみだったモノが無造作に横たわっている。

硝子玉の様な洋平の目が、浩一には自分を責めているように思えた。

「仕方ない・・・・・・仕方ないんだ・・・・・・」

浩一自身、それが自分への言葉なのか否かは分からなかった。



事の始まりは、至極些細なものだった。

「大丈夫、なんとかなるって」

普段から、しっかり者の洋平が浩一に掛ける言葉である。

しかし、洋平は都会の大学へ、浩一は経済的理由により就職という状況において、その言葉は神経を逆撫でするしかなかった。

都会への憧れ、周りからの評価、裕福な家庭、コイツに有って俺には無い。そんな言葉が浩一の脳内を巡った。

そんな日頃から埃の様に少しずつ積もっていた様々な感情がない交ぜになり、それが浩一の理性を奪った。



二発目の花火を背中で聞きながら、浩一は考えた。

いくら人口の少ない村と言えど、この現場を見られる可能性はある。

村人の殆どが祭りの花火に集中している間にコレをなんとかしなければ。

ふと、とある空き家の庭に未使用の井戸が蓋をされているのを思い出した。

色も感触も蝋のような洋平を抱え浩一は歩き出した。

祭りが幸いし、誰にも会うこともなく、浩一は井戸に着いた。

蓋は板の上に漬け物石を乗せた物で、容易に外す事ができた。

覗き込むと顔の汗が落ちていき、少し間があって水の跳ねる音が聞こえた。

井戸の端に洋平を置くと、少しだけ悲しみや迷いがこみ上げてくる。

しかし、そんな自分を正当化するかのように

「お前が悪いんだ」

そう言って浩一は かつての親友を突き落とした。

何度目かの分からない花火が、洋平の最後の音をかき消した。



震えと後悔が来たのは、自室の布団に潜ってからであった。

自分以外の家族はまだ祭りに行っており、それが浩一の不安を加速させる。

何気ない家族とのコミュニケーションで少しでも日常に戻りたかったのだ。

言うことを聞かない手で、父のウィスキーを煽ってみる。

途端に吐き気に襲われるも、頭はぼやけてきたようだ。

布団に戻り、全てが夢であるよう願いながら、浩一は眠りについた。



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