第66話 頼りになる?
なぜかエロンに頭を抱き寄せられて、ルトに顔を覗き込まれるという状況になってしまったが、我に返ってエロンから離れる。
「サオリ?」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいかなって。」
頭に柔らかい何かが当たっていることに気づいて、さすがにまずいと思ったのだ。いや、同性なのに何がまずいかと聞かれれば、気まずいと答えるだけだけど。
「なら、今日は一緒に寝ましょう?昨日は別だったけど、いつも私たちは一緒に寝ているのよ?」
「僕もいますよ!僕も一緒に寝ていますから!」
手を挙げて主張するルト。
「いや、それはだめでしょ。」
常識的に考えて、年頃の男女が同じ部屋で寝るのはだめだと諭せば、ルトは絶望的な顔をして、地面に手をついてうなだれた。
「そんな・・・僕、何もしないのに・・・」
「狼なのに?」
あまりの落ち込みっぷりに思わず笑って、からかってみると顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
「ふふっ・・・」
「さ、サオリ様!笑わないでください!」
「いや、だって・・・ルトはかわいいね。」
「ひどい・・・」
「サオリ、この年頃の子にそれはだめよ。かっこいいってほめてあげないと。」
「サオリさんっ!」
2人と話していると、険しい顔をしたリテが走ってこちらに向かってきた。何事かと驚いていると、その手を引っ張られてリテの背後に回される。
「リテ?」
「ルト、サオリさんを守るよう言ったはずですが?」
「言われなくても、サオリ様は僕がお守りします。」
「なら、なぜこのような女と一緒にいるのですか!」
そう怒鳴って、エロンを睨みつけるリテ。睨みつけられたエロンは悲しそうに微笑んだ。
「私が信用できませんか?」
「信用されるような身元だと、自信を持っているのですか?」
「いいえ。」
エロンは顔を伏せた。
「ちょっと、仲間でしょ!なんでそんなひどいことを言うのよ!」
「サオリさんは黙っていてください。もう、金輪際サオリさんに近づかないでください。僕は、サオリさんが記憶を失くしたのは、あなたが関わっているのではないかと思っています。」
「それって、どういうこと?」
私が記憶喪失なのはエロンが関係している。ここが前の世界だったら、鼻で笑ってしまう話だが、ここは魔法なんてものがある不思議な世界だ。
自然と疑わし気に見ると、エロンと目が合い彼女はショックを受けた様子だった。
「サオリ・・・」
「リテの言ったこと、本当なの、エロン?」
「そんなこと・・・」
「はいはーい、そこまでだ。」
私たちの間に、息を切らせたアルクが入ってきた。アルクは私の頭に軽く手を置いて、リテに向き直る。
「リテ、いい加減にしろ。サオリがこんな状況で問題を起こすな。」
「それは、どういうことでしょうアルク?まさかあなた、その女を信用するのですか?」
「・・・記憶を消すような力があるとは思えない。それだけだ。ほら、もう帰るぞ。リテとエロンは、少しサオリから距離を置け。お互いそのほうがいいだろう。」
「なぜ僕が!僕はサオリさんに何かするような人ではありません!」
「なら、エロンを受け入れろ。エロンがサオリに近づくのを良しとしないなら、お前も我慢するべきだ。相手に要求して、自分はサオリに近づく・・・むしが良すぎないか?」
「なら、アルクもでしょう。」
「・・・はぁ。ルト、サオリを頼んだ。少しこいつと話す。」
「わかりました。行きましょう、サオリ様。」
「でも・・・」
あまりいい雰囲気とは言えない3人を置いて大丈夫だろうか?
渋る私を、ルトが引っ張って宿に連れ帰った。
その日の夜、なぜかプティと寝ることになった私は、彼女と顔を突き合わせていた。
「なぜ、私なのかしら。」
「えーと、エロンはリテが許さなくて、他の4人は性別的に・・・」
「あなた、一人では眠れないの?確か昨日は一人で寝ていたわよね?なぜ、私と寝る必要があるのかしら?」
「エロンが私の部屋に来ないよう・・・見張り的な感じかな?」
「見張り・・・」
いらだちがはっきりと顔に現れた。それはそうだろう、一国の王女を見張り役にしたのだ。ほかのメンバーは、プティのことを何だと思っているのだろうか。
「なんか、ごめん。もとはといえば、私が原因なんだよね。記憶を失くして・・・それがエロンのせいだってリテが言っていて・・・そんなことありえるのかな?」
「ありえるかどうかといえば、ありえるわ。ただ、それをする必要性がないとは思うけどね。実際、あなたが記憶を失くして立場が悪くなっているのは彼女なのだから。」
ベッドに腰を掛けて、落ち着いた様子で答えるプティ。頼りにするなら、こういう人がいいだろう。感情的な人は、判断を誤りやすい。
「ぐだぐだ言っていても仕方がないわ。今日はもう寝ましょう。ベッドはさすがに分けてもいいわよね?」
「それはもちろん。2つベッドがあるのに、同じベッドで寝る必要はないでしょ・・・」
「確認よ。さっさとベッドに入りなさい。火を消すわ。」
「うん。」
私がベッドに入るのを確認して、プティは息を吹きかけ火を消した。
部屋は真っ暗になり、少しだけ怖くなる。
暗闇の中、誰かが立っているような気配がして、怖くて布団をかぶって眠った。
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