第55話 対策
「魔術師ですか・・・なら、勝機はありますね。」
「あれを使うのか?」
冷や汗を流しながらも、勝てると言うリテに、アルクは心当たりがあり確認をした。それに頷くリテ。
「理想の状況です。クグルマがいない今、最後の四天王の気がかりはありますが、まさか同じ場所に四天王が3人もそろっていることはないでしょう。・・・ここで、一網打尽です。」
「あの、どういうことでしょうか?」
状況が分からないルトが聞けば、リテは懐から水晶玉を取り出した。
「これは、王家の秘宝の一つ。使用すると、一定時間周囲が魔法無効化地帯になります。一切の魔法が使えない状況ならば、魔術師である四天王を倒すことは容易でしょう。」
「王家の秘宝・・・そんなものを持ち歩いていたんですね。」
「はい。本当は王女に持っていただきたいのですが・・・王女も魔術師ですからね。王女以外が持っていたほうが、うまく使えるのです。」
「とにかく、それを使うしかねーな。同じ四天王のクグルマ相手に瞬殺されたんだ・・・ずるでもしないと勝てねーだろうからな。」
「そうですね。瞬殺される前に使います。ルト、あなたにも出てもらいますので、準備してください。」
「僕はいつでも準備万端です。」
「いい心がけですね。」
もちろん、アルクとリテも準備は万端で、後は敵の前に出て行くだけだ。
「実は、一つ気がかりなことがあります。」
「何だ?」
「トリィの方は、派手な攻撃魔法をよく使う魔術師だと聞いていますので、心配ないのですが・・・問題はラスターです。」
「彼はどんな魔法を使うのですか?」
「あー、なんか目くらましとか、幻覚を見せたりとか・・・攻撃魔法とは違う魔法を使うって聞いたことがあるな。」
「その通りです。」
「何か問題があるのか?変な魔法を使うとは言っても、魔術師なんだからその水晶で魔法は封じられるだろう?」
「直接的な攻撃魔法を使わないということは、頭脳派ではないかと思います。そんな彼が、この水晶を警戒していないとは言い切れません。」
「・・・対抗策は用意していると考えたほうが自然か。てか、魔術師全員頭脳派じゃねーのか?俺はそう思っていたけど。」
「トリィの方は、力で・・・魔法で押し切るタイプのようですよ。明らかに罠だという場所に飛び込んで、その圧倒的魔力で罠をものともしなかったと聞きました。」
「それはそれで怖いな。とりあえず頭にはおいておく。ルト、俺たちは全力を出そう。頭はリテに任せてさ。」
「そうですね、リテさん、よろしくお願いします。」
「・・・ま、こうなりますよね。」
そして、馬車が止まる。
「いきなり攻撃とかはされなかったな。」
「はい。とりあえず話をしてみましょうか。」
馬車を降り、全員が距離を置いて四天王2人と対峙した。
シルクハットを被った、白を基調とした服をまとう男性が、芝居がかった礼をする。
「これはこれは、勇者御一行様。私はラスター。皆様とお会いできる日を楽しみにしていました。特に、勇者様。」
サオリに笑顔を向けるラスター。サオリは冷や汗を流してわずかに震えていた。それを見たラスターの笑みが深まる。
「お可哀そうに。勇者だなんだと祭り上げられたのは、年端もいかぬ異世界の少女。人間の残酷さがここに現れていますねぇ。これからこの哀れな娘を、さらにいたぶらねばならないとは・・・くくくっ。」
「あんたのほうが残酷じゃない?いたぶる前提だし。はいはーい。あたいは、トリィよ。よろしく殺り合いましょうねー!」
舌なめずりをして、赤のドレスをはためかせるトリィ。
こちらの様子をうかがう2人に、王女が答えた。
「私は、プティよ。そして、勇者にその奴隷と騎士。雇われ戦士のマルトー。あなたたちを倒す存在よ、覚えておきなさい。」
「覚えておきなさいって・・・重要な勇者の名前を教えてもらっていないけど?」
「勇者はあなたたちとは戦わないわ。」
「えー、つまんないの。・・・まぁ、まずは前菜を楽しめってことかしら?」
「前菜?」
「あなたたちのことですよ。プティさんでしたか。正直、我々もなめられたものだと思いました。ですが、弱い者いじめは私たちの大好物ですので、お気になさらず。」
「弱い者・・・」
怒りをこらえるプティに、あざけりの表情を向ける2人。
「これ以上の問答は無用ね。リテっ!」
「はい!」
リテが、水晶を発動して一帯を魔法無効化地帯にした。同時にプティがさがり、男たちが前に出た。
「あたいたちは、勝手にしゃべらせてもらうわー。」
そういいながら、トリィが手をこちらに向けたが、何も起こらなかった。
「あれ?」
「気づかなかったのですか?秘宝を使ったようで、魔法が使えない状況ですよ。」
「え、嘘!」
「嘘をついても仕方がないでしょう。では、任せましたよ、トリィ。」
そう言って、数歩ラスターは下がって、観戦するようにこちらを見た。必要ないはずなのに、オペラグラスを懐から出している。
「別にいいけどぉ・・・メインディッシュも私に食べさせてくれるのよね?」
「お好きにどうぞ。ただし、今日はと付きますがね。」
「なら、今日中にお遊びをやめないとね。」
2人がのんきに話している間、男たちは隙をうかがっていたが・・・
「どういうことだよ、リテ。」
「・・・彼女、魔術師ではなかったようですね。」
「これが、2人で行動していた理由でしょうか?」
「おい、戦闘中だぞ!もういい、おらが行く!」
「待ってください、マルトー!」
リテの制止も聞かず、マルトーはトリィに斬りかかる。しかし、あっさりそれはかわされて、背中に蹴りをいれられるが、振り返って剣で防いだ。それでも吹き飛んでしまい、地面に倒れるマルトー。
「いつつ・・・手がしびれた。」
起き上がるマルトーだが、剣は下げたままだ。
「リテ、2人で行くぞ!」
「はい、ルトも続いてください。」
「わかりました。」
アルクが斬りかかり、続いてリテとルトが斬りかかるが、どれも避けられて逆にルトが蹴り上げられた。
「くっ!」
腹を抑えたルトの前にリテが立ち、アルクは再びトリィに斬りかかるが、また避けられた。
「単調な攻撃、つまらないわね。」
あくびでもこぼしそうなトリィの後ろから、マルトーが剣を振り上げたが、それも避けられた。
「そのまま続けてください、2人とも!」
「わかった。マルトー、よろしくな!」
「何をいまさら。さっさと行くぞ!」
「まぁ、時間はあるし・・・もう少し遊んであげましょうか。ちょっとはあたいを楽しませてほしいものだけどね。」
後方で、プティは悔しそうに唇をかみしめた。王家の秘宝を使えば自分が戦闘に加われないことはわかっていたが、苦戦しそうな戦闘をただ見ているだけというのは悔しい。一応レイピアを扱えるので参戦するかと思ったとき、サオリの様子がおかしいことに気づいた。
「あなた、顔真っ青よ。まさか怖気づいたの?」
「・・・そうかもね。」
返事はするが、その目はプティを見ていない。戦闘を見守っているのかと思ったが、プティはその視線がそれよりも後方を見ていることに気づいた。
サオリは、ラスターを見て・・・恐怖を感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます